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未来を創る挑戦者:AMD CEOリサ・スーの軌跡

半導体業界は近年、産業構造や地政学的な変化によって激動の時代を迎えています。なかでも、ハイパフォーマンス・コンピューティングの重要性は高まり続け、AI(人工知能)分野との結びつきによって技術革新が加速しています。その中心にいる企業の一つが「AMD(Advanced Micro Devices)」です。今回紹介するのは、AMDのチェア兼CEOを務めるリサ・スー(Lisa Su)氏への対談内容です。

リサ・スー氏は台湾生まれ、2歳で米国に移住し、MITで学士号・修士号・博士号を取得。IBMやフリースケール・セミコンダクタなど複数の大手企業で要職を歴任したのち、2014年にAMDのCEOに就任しました。就任当時、AMDの株価は低迷し、一時は倒産の危機に瀕していたとまで言われますが、彼女が示した方向性とリーダーシップにより、同社は高性能コンピューティングとゲーミング、AI向け半導体開発に注力。急速な変革を遂げ、業界有数の企業へと成長を果たしました。

本記事では、リサ・スー氏の生い立ちやキャリア、AMD再生の過程、AIおよび半導体業界における地政学的課題、そして彼女が描く近未来のテクノロジー像を、具体的なエピソードや発言を交えながら解説します。

1. リサ・スーの生い立ちと文化的バックグラウンド


1-1. 台湾生まれ、米国育ち

リサ・スー氏は、台湾で生まれ、2歳のときに家族と共に米国ニューヨークへ移住しました。「幼少期はアジア系の典型的な家庭文化もあって、勉強やピアノに力を入れる生活でした」と語るように、幼少から学業や習い事への熱心な取り組みを求められたといいます。しかし同時に、「常に新しいことへ挑戦し、高い目標を持つように」と両親から背中を押されたことが、エンジニアとしての探求心やリーダーシップへの素地となったようです。

1-2. 両親の影響

とりわけ父親は大学院留学を経て米国に渡った人物でした。彼女は「父が博士号取得のために研究を続けていた姿が、自分の進路を考える上で大きなインスピレーションになりました」と振り返ります。幼いころから「どうして壊れたのか?」、「どうすれば動くのか?」といった好奇心に駆られ、兄のラジコンカーの故障原因を調べるなど、“モノの仕組み”を探ることに魅力を感じていたと言います。

2. 半導体業界への道とキャリアの歩み


2-1. MITと半導体への情熱

高校時代から数学や科学の分野で頭角を現した彼女はMITに進学します。「大学1年生のとき、バイトで半導体の研究室に入り、クリーンルームで“バニー・スーツ”を着て作業するのがすごく面白かったんです」と、当時を回想。半導体チップの上に膨大なトランジスタを集積し、驚くべき性能を引き出せる点に魅了され、そのまま学部・修士・博士を通して半導体分野に没頭していきました。

2-2. IBM、フリースケールを経てAMDへ

博士号取得後、テキサス・インスツルメンツ(TI)やIBMを渡り歩き、IBMでは研究職から徐々にプロジェクト管理のポジションへステップアップ。「一人の研究者として成果を出すのも楽しいですが、10人、50人とチームを率いれば、さらに大きなことを成し遂げられる。そこが管理職の面白さです」と語ります。
その後、フリースケール・セミコンダクタのCTOを経て、2012年、当時「変革の岐路」にあったAMDに上級副社長として入社。PC依存からの脱却や高性能チップ開発への取り組みを牽引し、2014年にはCOOを経て、CEOの座へと就任します。

3. AMD CEOとしてのリーダーシップ


3-1. 就任当時の危機とビジョン

CEOに就任した2014年当時、AMDは株価が数ドルまで下落し、倒産説も囁かれるほどの苦境に立たされていました。「周囲からは『なぜAMDに行くのか』と止められたこともあります」とスー氏は言います。しかし彼女は、

「私にとって重要だったのは、業界を変革できる企業に在籍すること。AMDならそれができると信じました」
と語り、諦めずに改革を推進。
具体的には、製品ポートフォリオをシンプルに再定義し、高性能プロセッサとGPUに特化した戦略にシフト。大きな転換期にあったPC業界を土台に、ゲーミング(例えばゲーム機向けカスタムチップ)やデータセンター事業へと展開し、収益基盤を広げることに成功しました。

3-2. チームを育て、難題に挑む文化

「新製品を発表する直前にチップが動かなかった」という若手時代のエピソードを振り返り、「一見すると最悪の事態でも、そこにこそ学びがあるし、チームの総力が試される」と語るスー氏。AMDでも同様に、失敗から学ぶ“ラーニング・カルチャー”を重視し、リスクテイクを奨励しています。

「人材育成で大切なのは、少し背伸びするようなポジションを与えて、周囲のサポートを惜しまないことです。誰もが最初から完璧ではないですから」
こうした姿勢が、人とチームの可能性を広げ、新しい価値創造につながると強調しています。

4. 半導体業界の地政学的リスクと政策


4-1. 米国・台湾・欧州間の政策動向

半導体は、国家の産業競争力や安全保障にも直結する“戦略物資”として注目されています。米中貿易摩擦の影響や政府補助金(チップス法)など、各国の政策介入が活発化するなか、AMDのような世界規模で事業を展開する企業にとって、サプライチェーンや輸出規制は大きな課題となります。

「世界中のマーケットで事業を行う以上、規制をすべて理解し、各国の要請や政策バランスを取る必要があります」
とスー氏は語り、AMDとしても自社の技術が誤った用途に使われないよう管理する一方、グローバル規模でのビジネスは続けていくとしています。

4-2. 製造拠点の多様化と台湾の役割

「台湾は、先端半導体の大部分を製造していますが、地政学的リスクを避けるには米国や欧州にも生産ラインを持たせ、サプライチェーンを多様化することが欠かせません」とも強調。TSMCなどファウンドリーの米国進出計画も進み始めており、今後は「効率」だけでなく「レジリエンス(強靱性)」を意識した製造体制が築かれると予測しています。

5. AI革命とAMDの戦略


5-1. トレーニングと推論への取り組み

AI分野の急激な発展を受け、データセンター内の計算リソースは飛躍的に増加しました。スー氏は、「過去18か月の変化は、この数十年で最も大きな技術転換だ」と強調し、その原動力となったのが大規模言語モデルや生成AIです。
一方で、AI開発に必要な計算処理には「学習(トレーニング)」と「推論(インファレンス)」の両方があり、AMDは、「高性能演算分野で培ったノウハウを活かし、データセンターの根幹を支える製品を提供する」としています。現時点では推論のほうが市場規模が大きくなると見込まれますが、「大規模モデルからスマートフォン搭載の小規模モデルまで、多様な需要に応えることが鍵」とも語ります。

5-2. ジェネレーティブAIとコスト課題

ChatGPTやDeepSpeedなど、生成AIの進化は日々加速しています。しかし、「まだまだ原始的な段階」と表現するように、コスト面や応答の正確性には課題が残るといいます。

「推論の処理が1回あたり数秒待たなければいけないのではなく、瞬時に応答できるようになることが理想です。また、誤答や“幻覚(hallucination)”を避けるためのアルゴリズム開発も進めなくてはなりません」
こうした性能向上を実現するため、ハードウェアとソフトウェアの最適化や効率的な学習手法の研究が重要視されており、今後はより多くの企業や研究機関が参入し、イノベーションが連鎖的に生まれると期待されています。

6. 次世代へのメッセージ


6-1. 若手リーダーへのアドバイス

本対談では「MBA卒業後のキャリア選択」に関する質問もあり、「大企業で幅広い経験を積むのもよし、自らスタートアップを立ち上げるのもよし。それは人それぞれです」とスー氏は回答しました。

「重要なのは、どの道を選んでも常に学びの姿勢を持ち、大きなビジョンに挑み続けることだと思います」

6-2. 未来を創る“夢”を持て

「AI革命は、まだほんの入り口に過ぎない」というのが彼女の考えです。だからこそ、変化の激しい今は大きなチャンスでもあると強調します。

「夢は大きく持っていい。5年後という目標を置いて、そこに向けてどんな学習や経験を積むのか。それを明確にしながら、一歩ずつ進んでいってください」
彼女自身、「世界が抱える重大な課題―ヘルスケアや気候変動など―を、より早く効率的に解決できる可能性がAIにはある」と期待を寄せています。

リサ・スー氏が率いるAMDは、苦境を乗り越え、ハイパフォーマンス・コンピューティングの分野で飛躍を遂げました。その背景には、彼女の「好奇心」、「挑戦を恐れない姿勢」、「チームを信頼し育成するリーダーシップ」があります。AI革命がさらに加速する今、同社は高性能演算やGPU技術を柱に、データセンターやエッジ、あらゆる領域でのAI需要に対応すべく舵を切っています。

「常に学ぶ意志を持ち、チャンスを逃さないこと」。これは、半導体業界だけでなく、急速に変わりゆく時代を生きるすべての人に向けられたメッセージでしょう。スー氏が言う“夢を大きく持つ”姿勢こそが、新たなテクノロジーを生み出し、未来を切り拓いていく原動力となるはずです。彼女の言葉と実績は、変革期におけるリーダーシップの在り方を示す好例と言えるでしょう。


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