Gleanが挑む「社内ChatGPT」──なぜいま、企業にAI検索が不可欠なのか?
本記事では、エンタープライズ向けAI検索プラットフォーム「Glean」を率いるCEO兼共同創業者のアーヴィンド・ジェイン(Arvind Jain)氏へのインタビュー内容をもとに、検索技術の進化から企業内知識活用の最前線までを解説する。GoogleやRubricでの豊富な経験を背景に、同氏が如何にして従来のキーワード検索から概念検索(semantic search)へとパラダイムシフトを牽引し、またSaaS時代の到来によって解決された企業内データ取得/ガバナンスの課題をどのように克服してきたのかを紐解く。
1. LLMによる検索技術の進化
1-1. キーワードマッチから概念マッチへ
従来の検索は、ユーザーが入力した単語と文書内の単語を単純に比較する「キーワードマッチ」が主流だった。これには「ヒットしないキーワード」「曖昧な表現では解決できない」といった脆弱性があったが、大規模言語モデル(LLM)の登場によって「質問の意図」と「文書の内容」を深く理解し、概念的にマッチングできるようになった。ジェイン氏は、「検索はもはや単なるリンクの列挙ではなく、ユーザーの質問に対して直接回答を生成するフェーズに入った」と語る。
1-2. トランスフォーマーベースの埋め込み検索
Glean初期バージョンでは、Googleが公開した「BERT」などのトランスフォーマーモデルを利用し、各文書を埋め込み(embedding)として数値化した。この手法により、「vector search」と呼ばれる概念検索が可能となり、当時はまだ「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」や「ジェネレーティブAI」といった用語が一般化していない時代においても、internal embedding searchとして実装されていたという。
2. Gleanプラットフォームの構築と転換
2-1. 初期フェーズ:埋め込み検索の導入
2018年末に構想を開始し、2019年初頭に創業したGleanは、当初から埋め込み検索をコア技術に据えた。顧客ごとにビジネスコンテンツを専用の埋め込み空間にマッピングし、これを検索エンジンの基盤として活用。
「Transformersは既に登場していたが、世間ではまだ語られていない時期だった。私たちは“embedding search”と呼び、従来の検索を凌駕する精度を実証した。」
2-2. モデルとデータコネクタの進化
近年、Gleanは、単なる検索機能を超え、チャット形式で対話しつつ社内外の情報を横断検索し、業務自動化アプリケーションを構築できるプラットフォームへと進化。SlackやGoogle Drive、各種SaaSからのデータ取得をAPI経由で行い、モデルの「リトリーバル強化」や「カスタムアプリ開発」を可能にしている。
3. 企業検索における課題と失敗要因
3-1. ハードウェア&オンプレミス依存の時代
過去には「Google Search Appliance」のように企業内サーバーに専用アプライアンスを設置し、データを吸い上げる手法が主流だった。しかし、設置コストが高く運用が煩雑であり、旧来システムではデータ取得やスケーリングが大きな障壁となった。
3-2. SaaSとAPIの台頭による解決
SaaSの普及により、すべての顧客が同一バージョン・同一APIを利用できる環境が整備されたことで、「ターンキーでのデータ接続」が実現。ジェイン氏は「APIでつながることで、分散した情報を一元化し、迅速に検索基盤を構築できるようになった」と振り返る。
4. セキュリティとアクセスガバナンス
4-1. パーミッション管理の重要性
企業情報の90%は機密として扱われるため、単に検索結果を返すだけでは情報漏洩リスクが高い。Gleanは、各ドキュメントやユーザーの権限情報を索引時に紐付け、ログインユーザーの閲覧権限に応じて結果をフィルタリングする機能を実装している。
4-2. ガバナンス機能の強化
さらに「意図せず機密情報が露見した」事例を契機に、ドキュメントの分類・感度ラベル付与や、アクセスの可否を問い合わせるポリシー実装など、ガバナンス機能をプロダクトの“セキュリティレイヤー”として強化。結果としてGlean自身がガバナンスプラットフォームとして認知される場面も増えている。
5. アプリケーション開発とビジネスプロセスへの応用
5-1. パーソナルアシスタントからカスタムアプリへ
当初は「Google in your worklife」を掲げ、検索結果を対話形式で提示するGlean Assistantを提供。しかし、顧客企業から「HR専用」「セールス専用」など、部門別・業務別のキュレーションアプリの要望が寄せられ、「apps」と呼ばれるカスタム機能群を展開するに至った。
5-2. HRや特定業務向けのエクスペリエンス
例としてHR部門では、福利厚生や休暇ルールに関する質問に対し、あらかじめ承認済みドキュメントだけを参照して回答を生成。単なる情報取得を超え、業務プロセスの自動化や効率化を実現している。
6. プロダクトロードマップと将来展望
6-1. 重点プロダクト:Glean AssistantとAIプラットフォーム
今後は「Glean Assistant」をさらに高度化し、全社の知識を活用した完全自動応答を追求すると同時に、企業が独自にAIアプリを開発できるデベロッパープラットフォームとしての機能強化も進める。
6-2. 継続的な課題:正確性と情報発見
ジェイン氏は、「AIの最大の問題は幻覚(hallucination)よりも、そもそも正しい情報を見つけられないことにある」と指摘。膨大な社内コンテンツから“針の山”を探し出し、最新かつ信頼性の高い知識を提供する技術開発が今後の鍵となる。
Gleanの挑戦は、「検索」という極めて基礎的な技術領域を、LLMやSaaS時代のテクノロジーと掛け合わせることで再定義する試みである。今後、AIアシスタントが個々の社員にとって“パーソナルチーム”となり、企業の知識を最大限に活用する世界の実現が期待される。検索の枠を超えた知識発見と業務自動化が、人と組織のパフォーマンスを飛躍的に高める未来は、すでに着実に動き始めている。
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