AI時代に勝つのは「センス」じゃない。“Design Taste”を鍛える思考法(Figma CEOが語る)
Figma創業者でCEOのディラン・フィールドは、デザインを「見た目を整える最後の化粧」から「勝敗を左右する競争力の中核」へ引き上げた時代を、当事者として語ります。彼の話が面白いのは、単なる“デザイン礼賛”ではなく、プロダクトづくり・組織づくり・AI時代の働き方までを、一本の線でつないでいる点です。ポイントは「ソフトウェア開発は直線ではなくループであり、そこで“協働”と“反復”をどう設計するか」。この視点は、プロダクト職に限らず、事業や組織を動かすすべての人に効きます。
1. 「デザイン」は“口紅”から“差別化の主戦場”へ
フィールドは、2000年代のドットコム期を振り返り、当時の空気をほぼ断言します。つまり、「作れば人が来る(build it and they will come)」という発想が強く、デザインは機能や体験ではなく、いわば、「lipstick on a pig(豚に口紅)」として扱われがちだった、と。
しかし、この25年で状況は激変しました。Appleが、「how it works matters(どう機能するかが重要だ)」という価値観を広げ、FacebookやGmailのような消費者向けアプリが体験の基準値を引き上げた。さらに、クラウド(AWS)やアプリストアの普及で開発は容易になり、供給が増え、競争は激化する。すると「作ること」自体はコモディティ化し、価値は“上流”へ移動します。
彼の言い方を借りれば、いまは「作っただけでは勝てない」世界です。
「素晴らしいデザインと素晴らしいマーケティングがあって、ようやく勝つチャンスが生まれる」——この認識が、Figmaのプロダクト戦略(設計→制作→出荷後の展開まで)にもつながっています。
2. Figmaが狙うのは“完成”ではなく「ループの加速」
Figmaの説明で、フィールドが繰り返すのが「ソフトウェアはループ」という前提です。
アイデア→完成→終了、ではない。出してから学び、直し、また出す。その連続です。だから、Figmaは、単に“デザインを作る道具”というより、「チームで反復する場」を提供する、と語ります。
面白いのは、司会者が、「コップ工場の新製品を設計するなら?」と例を出したとき、彼が線引きを明確にする点です。Figmaは、CAD(3D設計)ではない。けれど、ユーザーは、用途外のこともやってしまう。
「本来の目的ではないが、Figmaで美しい3D風のカップを描く人がいる」と驚きを交えつつ、自分たちの“中心戦場はデジタル設計”だと釘を刺します。何でも屋ではなく、ループを回す核に集中する——この割り切りが、プロダクトが“重くなる”のを防いでいます。
3. 設計思想は「簡単は簡単に、複雑は可能に」
フィールドが、“設計原則”として挙げた言葉は、ツール設計の金言です。
「簡単なことは簡単に。でも、複雑なことも可能に(keep the simple things simple, but make the complex things possible)」。
Figmaのようなソフトウェアは、アップデートで機能が増え続け、放置すれば“操縦席(airplane cockpit)”になりがちです。そこで彼が重視するのが、階段モデルです。最初の一歩は軽く、進めば熟達できる。初心者に優しく、プロを退屈させない。
この「power(力)と simplicity(簡潔さ)のバランス」は理想論に見えますが、実務では“社内の意思決定”そのものです。何を足し、何を足さないか。誰の声を優先するか。まさにプロダクトの人格が決まる領域です。
4. コミュニティは“マーケ”ではなく、開発の心臓部
Figmaの強みとして語られるコミュニティも、単なるファンづくりではありません。創業期、彼は“英雄”のデザイナーに冷メールし、コーヒーを奢り、道具づくりの助言を受けたと言います。ここで重要なのは、彼がコミュニティを「応援団」ではなく、最初の共同開発者として捉えていることです。
さらに数字が象徴的です。
「週次アクティブユーザーの80%以上が米国外」。この一言は、Figmaが“シリコンバレーの内輪ツール”ではなく、最初からグローバルな実務ツールとして鍛えられてきたことを示します。ユーザーグループ(Friends of Figma)や年次カンファレンス(Config)、教育の無償提供など、コミュニティを“未来の採用母体”にも接続している点が抜け目ない。
5. AIは「床を下げ、天井を上げる」そして“味(taste)”が武器になる
AIについて、フィールドの整理は明快です。
AIは「床を下げる」=参入を容易にし、「天井を上げる」=プロの表現力も拡張する。
ここで彼が使う比喩が「オプション空間(option space)」です。AIによって試せる案が増える。結果として、少数の案しか試せなかった時代よりも、意図的に道を選べるようになる。
しかし、案が溢れるほど重要になるのが「taste(審美眼/判断軸)」です。彼はtasteを「好き嫌い」ではなく、
「何が共鳴するかを学び、価値観と結びつけ、他人が消費できる形に表現する“ループ”】【「素晴らしいものを作るためのイネーブラー」
として語ります。
一方で、「AIにtasteはあるか?」には慎重です。AIは基本的にパターンマッチであり、tasteを“引き出す”には高度なプロンプトが必要だ、と。だから「プロンプターにtasteがある」とも言える。ただし、旅は終わっていない。
そしてAIがまだ難しい領域として、彼は“文脈”を挙げます。人間の生きた経験、文化、言語、事業目的、検証と反復——これらを束ねて「ローカル最大ではなくグローバル最大を目指す」デザインは、まだAIには遠い、と。
6. 組織づくりは「採用」「更新」「優しさのある直言」
経営の話になると、彼は創業初期をかなり率直に反省します。
「4年かけて作ってから出した」「完璧主義だった」「本当はもっと早く雇うべきだった」「自分は悪いマネジャーだった」。この自己認識が、後半の“組織論”につながります。
採用で彼が重視するのは、学歴よりもスキル、そして何より**「slope(成長率)」**です。人を“点”で見ず、“どこから来てどこへ向かうか”で見る。さらに、過去の印象を更新できないことが採用機会を逃す、とまで言い切ります。これは投資の世界でいう「アップデートできないバイアス」に近い。
文化面での非交渉条件も興味深い。
謙虚さ、自己認識(self-awareness)、クラフト志向、成長マインド、コミュニティ。
そして「親切なリーダー」の定義を、甘さではなく**“直言”**に置く。
彼は言います。「kindnessは、当たり障りのないことを言うことではない」。必要な厳しいフィードバックを先に伝えることこそ親切だ、と。創造性を育てるには、心理的安全と同時に、正面からのコミュニケーションがいる——このバランス感覚が、Figmaの“協働の文化”と一致しています。
結論
この対談を一言でまとめるなら、Figmaの物語は「デザインツール」ではなく、反復と協働の“OS”を作る話です。AIが案を増やし、競争を激化させるほど、勝負は「何を作るか」から「何を選び、どう磨き、どう伝えるか」へ寄っていく。そこで鍵になるのが、フィールドの言うtasteとcontext、そしてそれを組織として再現可能にする“言語化”です。
最後に彼の若者への助言は、時代のノイズを突き抜けて響きます。
「楽観は選択だ。choose optimism」——懐疑と共存しながら、それでも“自分が変えられる”側に立つ。プロダクトもキャリアも、その姿勢から回り始めるのだと思います。
