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SpaceX IPO参戦前に知っておきたい「バリュエーションの現実」——熱狂に乗る前に数字を確認する

2026年5月末、著名投資家スティーブ・アイズマン(元「世界大恐慌の全貌」の中心人物の一人)が週次レポートでSpaceX IPOを詳細に分析した。彼の視点は、市場の熱気とは一線を画した冷静なものだ。本稿ではそのレポートをもとに、SpaceX IPOの構造・財務・バリュエーションを整理し、投資家として押さえておくべきポイントを解説する。


1. SpaceX IPOの概要と「仕掛け」


1-1. 史上最大のIPOが6月12日に迫る

SpaceXは、2025年6月12日の上場を予定しており、規模は史上最大のIPOになるとみられている。総バリュエーションは1.75兆〜2兆ドル規模が想定されており、上場後すぐに世界時価総額ランキングの上位に名を連ねる見通しだ。

S-1(有価証券届出書)の冒頭には、次のようなミッションステートメントが記されている。

「私たちのミッションは、生命を多惑星種族にし、宇宙の真の性質を理解し、意識の光を星々へと広げるために必要なシステムと技術を構築することです」

アイズマンは、「まるでスタートレックのエピソードの導入部のようだ」と表現しつつ、この"詩的なミッション"がバリュエーションを支える重要な役割を担っていると指摘する。なお、「意識の光を星々へ」というフレーズは、S-1の中に10回登場する。

1-2. NASDAQが異例のルール変更

通常、浮動株比率が5%程度の銘柄は主要インデックスへの組み入れが認められないか、組み入れまでに相当な時間がかかる。しかしNASDAQはSpaceXに対し、以下のような異例の措置を講じた。

  • IPOからわずか15日後にインデックス組み入れを認める

  • インデックス計算上、浮動株を実際の3倍に換算する特別ルールを適用

加えて、Muskは、今回のIPOで株式の30%を個人投資家向けに割り当てる方針を打ち出している。通常のIPOでは機関投資家が大半を占め、個人投資家への配分はごくわずかだ。アイズマンはこの点について、「バリュエーションがかなり強気であるため、それを正当化するにはSpaceXが個人投資家のカルト銘柄になる必要がある」と率直に述べている。

2. 事業の構造と財務の実態


2-1. 3つの事業部門

SpaceXは現在、大きく3つの事業に分かれている。

唯一、営業黒字を計上しているのはConnectivity(Starlink)部門のみだ。

2-2. 成長率の現実

2025年通期の売上高成長率は33%だったが、2026年第1四半期は15%に鈍化している。さらに注目すべきは宇宙部門で、同四半期の売上高は前年比▲28%と大幅に落ち込んだ。理由は「打ち上げサービス案件の減少と政府契約の時期的なズレ」とされているが、宇宙事業が収益の変動リスクを内包していることを示す結果でもある。

全社ベースでは、1Q2026に19億ドルの営業損失を計上している。

2-3. AI部門の課題

TAMの93%をAI部門が占めているにもかかわらず、AI部門は現時点で最も赤字が大きい部門だ。また、SpaceX社内のエンジニアたちも自社のAIプロダクト「Grok」を実務では使用していないという報告もある。アイズマンはこの点を「大胆すぎる」と皮肉交じりに述べている。

3. バリュエーションの検証


3-1. TAM 28.5兆ドルという数字

Muskと引受銀行は、SpaceXの全体TAMを28.5兆ドルと設定している。内訳は以下の通りだ。

  • 宇宙ソリューション:3,700億ドル

  • 通信:1.6兆ドル

  • AI:26.5兆ドル

アイズマンが指摘するように、この数字は米国GDP全体にほぼ匹敵する規模だ。宇宙やAIの市場規模が拡大するとしても、一社が獲得できる規模としては非現実的との見方も根強い。

3-2. 売上高倍率(Price/Sales)比較

Muskが目指すバリュエーションは、売上高の約100倍に相当する。これを主要テック企業と比較すると、いかに高い水準かが分かる。

売上高成長率が「トリリオン企業6社すべてを下回る」にもかかわらず、バリュエーション倍率は群を抜いて高い。アイズマンは、この構図を「SFにはつきものの"サスペンション・オブ・ディスビリーフ(現実認識の一時停止)"が必要だ」と表現している。

3-3. 売上規模の実態

時価総額で世界7位になる見込みでありながら、売上高ベースではケロッグ(フルーツループのメーカー)と同程度の200位前後という状況だ。「フルーツループを売るのは地味だが、利益は出る」とアイズマンは述べ、バリュエーションと実態のギャップを端的に表現している。

4. Salesforce・Dell——直近の決算ポイント


4-1. Salesforce:ガイダンスのミスが重荷に

Salesforceは、直近の四半期決算で、調整後EPSは3.88ドルと予想の3.12ドルを上回った。売上高も111.3億ドルで予想をわずかに超えた。ただし、次期ガイダンスの売上高が市場予想をわずかに下回り、AIが既存ソフトウェアビジネスに与える影響への懸念が続く中、ネガティブな受け止め方をされた。

なお、GAAPベースのEPSは2.42ドルと、調整後の3.88ドルと大きく乖離しており、ストックベースド・コンペンセーション(株式報酬)の影響が大きい点には留意が必要だ。

4-2. Dell:AIカペックスの恩恵を直接受ける

一方、ハードウェア企業のDellは対照的な好決算を発表した。

  • 四半期売上高:前年比+39%

  • EPS:前年比+45%

  • 通期および翌四半期ガイダンスを上方修正

株価は5月単月で+50%、年初来では+148%と急騰しており、AI関連のデータセンター投資(カペックス)がハードウェアセクター全体を押し上げている構図が鮮明だ。

5. 銀行株・格付け機関株——投資家の視点


5-1. バンク・オブ・アメリカ(BAC)の評価

あるヘッジファンドマネジャーがBACの保有株を70%超削減し、S&Pグローバルとムーディーズに乗り換えたことが話題になっている。BACに対する懸念点は、純利ざや(NIM)が2.01〜2.45%と薄く、金利環境の変化に影響を受けやすい点だ。

ただしアイズマンは、BACの有形自己資本利益率(ROTCE)は**16%**と銀行としては良好な水準であり、コロナ禍に積み上げた長期国債が徐々に満期を迎えることでNIMは改善傾向に向かうと見ている。現時点でBACを保有することは許容範囲との見解だ。

5-2. 格付け機関(ムーディーズ・S&Pグローバル)の投資妙味

格付け機関2社の過去5年間の株価リターンは市場平均を大きく下回っているが、アイズマンはこれを「一時的なもの」と捉えている。コロナ禍の超低金利環境で大量の債券発行が前倒しされた反動で、2022〜2024年は発行市場が低迷した。しかし、足元では発行量が回復し始めており、両社の収益改善が期待できるとしてムーディーズを自身でも保有している。

リーマンショック前の問題(サブプライムABS・CDSへのAAA格付け)については、「経営陣が刷新されており、現在の株主がその問題を引きずる必要はない」との見方だ。

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