見出し画像

Googleが“会話型検索”を創る理由 ─ AI ModeとAI Overviewsの真意

「Googleはもう終わった」──ChatGPTやPerplexityが登場した当初、テック業界の一部ではそう囁かれていた。だが2025年、状況は一変した。
GeminiアプリがApp Storeで1位を獲得し、検索エクスペリエンスを根本から変える「AI Mode」と「AI Overviews」が次々に登場。Googleは“検索の再発明”という壮大なミッションを現実のものにしつつある。

この変革の中心にいるのが、Google検索担当VPであるRobby Steinだ。彼はInstagramで「Stories」や「Reels」を立ち上げた元プロダクト責任者であり、いま再び世界規模のプロダクト変革を牽引している。本稿では、Steinが語ったGoogleのAI戦略、検索の再定義、そしてプロダクト哲学を紐解く。


1. 「AI時代のGoogle」──再び動き出した巨人


かつて「Transformers論文」でAI革命の礎を築いたGoogleだが、消費者向けAIでは後塵を拝していた。しかしSteinによれば、社内では今、「焦点と緊迫感」がかつてないほど高まっているという。

「毎月、モデルとプロダクトを無慈悲なまでに改善し続ける。その積み重ねが tipping point(臨界点)を生む」

Google DeepMindとの連携を強化し、研究と製品開発の距離をゼロに近づけたことで、プロトタイプが一気に製品レベルに昇華する速度が劇的に向上した。GeminiやAI Overviewsが短期間で展開された背景には、まさにこの「リレーションシップ型開発」の成功がある。

2. AI Modeとは何か──“会話する検索”への進化


2-1. AI OverviewsからAI Modeへ

AI Overviewsは、検索結果の上部にAIによる要約や回答を提示する機能で、Google検索の“第1段階のAI化”だった。
その次に登場したAI Modeは、まさに“検索の第二形態”。Google.com/aiにアクセスすれば、従来のキーワード検索を超えて、自然言語で対話しながら情報を深掘りできる。

「AI Modeは、Googleのすべての知識グラフをつなぎ合わせた“対話型知能”です。」

ショッピンググラフ上の500億件の商品データ、地図上の2億5000万の地点情報、ニュース、金融データなどがリアルタイムで接続され、AIはそれを参照しながら回答を生成する。ユーザーは「この靴どこで買える?」「この本棚に合う本を探して」といった複雑な質問を画像や音声で行える。
Google Lensとの統合により、検索の入口は“キーボード”から“カメラ”へと移行しつつある。

3. 「死んだ」と言われた検索はむしろ拡張している


ChatGPT登場以降、“検索は終わった”という論調が広まったが、Steinはこれを明確に否定する。

「AIは代替ではなく“拡張”です。質問の数も好奇心の総量も、AIによって増えている。」

実際、Google Lensによるビジュアル検索は前年比70%増という驚異的な成長を見せている。AIは、単に既存の検索を奪うのではなく、人々の知的探求心を増幅させているのだ。

4. “Relentless Improvement”──改善し続ける文化


Steinの哲学の核心は「Relentless Improvement(執拗な改善)」だ。

「最高のプロダクトは、世界に対する“違和感”から生まれる。」

Instagram時代、彼の妻が言った一言──「あなたは“満足しない人”」──が象徴的だ。
それは不満ではなく、“より良くしたい衝動”のこと。例えば、Instagram StoriesがSnapchatの形式を借りつつも、「一時停止」「アップロード機能」「高解像度対応」など独自改良を重ねた結果、“Instagramらしさ”を獲得した。
模倣ではなく、「よりよい再構築」こそが、ユーザー体験を革新する鍵だとSteinは強調する。

5. 既存プロダクトを再成長させる方法


Steinは、成熟した大規模プロダクトを再び成長軌道に乗せる達人でもある。
彼が挙げる再成長の原則は次の3つだ。

  1. 人々が“なぜ使っているのか”を徹底的に理解する。
    目的(Job to be done)を誤解すると、改良は無意味になる。

  2. データを用いて問題の根源を特定する。
    例:Instagramの「Close Friends」が初期失敗した理由は、翻訳ミスで「Best Friend」と誤解され、1人しか登録されなかったこと。

  3. デザインは“巧妙さ”より“明快さ”を優先する。
    「AI Mode」という直球のネーミングも、その哲学の体現である。

6. チームとスピード──“小さく始め、大きく育てる”の本質


AI Mode開発は、わずか5〜10人のチームから始まった。
Steinは、「最初はスタートアップのように、だが確信を得た瞬間にスケールアップせよ」と語る。
GoogleのAI Modeは、わずか1年で実験段階から本格実装に到達。
これは、「信じる瞬間に全力投下する」という逆説的な資源戦略の成功例だ。

7. プロダクト哲学の3原則


最後に、Steinが長年の経験から導いた「良いプロダクトを作る3原則」を紹介する。

  1. 人を深く理解する(Deeply Understand People)
    ユーザーは製品を「雇う(Hire)」という発想。彼らが何を解決したいのかを突き詰める。

  2. 問題を定量的に理解する(Analytical Rigor)
    感覚ではなく、データで「なぜ」を突き止める。

  3. 明快さを優先する(Design for Clarity)
    “Clever”より“Clear”。ドアが「押すのか引くのか」迷うデザインは最悪の例だという。

そして第四の暗黙の原則として、「謙虚であること(Be Humble)」。
AIの時代こそ、人間の好奇心と謙虚さが最大の武器になると彼は語る。

結論:AI × 検索の再定義がもたらすもの


GoogleのAI転換は、単なる機能更新ではない。
それは「情報を世界中の人々に届ける」というGoogleの原点を、AIという新しい形で再解釈する試みだ。

「AIは、人間の好奇心を拡張する装置だ。」

Robby Steinの言葉どおり、AI ModeとAI Overviewsは、検索を“対話”へ、情報を“理解”へと変えようとしている。
Googleは再び、世界最大の質問箱の答えを更新し続けているのだ。

オススメ記事


Next Big Wave(成長株・アイデアの種・トレンド深掘り)



いいなと思ったら応援しよう!