Vista Equity Partners CEOが語る生成AIの可能性: グローバル経済への影響
近年、AI(人工知能)、特に「ジェネレーティブAI(Generative AI)」が社会の注目を一気に集めています。新たなテクノロジーとして注目されるだけでなく、投資やインフラ、さらには雇用や人材育成にまで波及する大きなインパクトをもたらすと期待されています。しかし、その全容や実際の活用方法はまだ充分に理解されているとは言えません。本稿では、APECのカンファレンスで行われたVista Equity Partnersのチェアマン兼CEOであるロバート・スミス氏と米国アメリカ協会評議会(AS/COA)のプレジデント兼CEOであるスーザン・シーガル氏の対談をもとに、ジェネレーティブAIがもたらすインパクトやビジネスの展望、必要となるインフラ整備、人材への影響などをわかりやすく整理していきます。
Vista Equity PartnersとAIへの長年の投資
ロバート・スミス氏は、約25年前にVista Equity Partnersを創業し、現在では約1,000億ドルにのぼる資産を運用しています。投資対象は「エンタープライズソフトウェア」全般ですが、実はこの分野こそが近年のジェネレーティブAI活用で大きく飛躍する領域でもあります。スミス氏によると、これまで多くの企業や組織が導入してきたクラウドやオンプレミスのコンピューティング環境と比べ、ジェネレーティブAIはさらに大きな生産性を引き出す可能性を秘めています。
実際にVistaが投資する86のソフトウェア企業では、すべての企業が何らかの形でジェネレーティブAIを採用中あるいは導入計画を持っています。開発者向けにはコード自動生成ツール(AIによるコードアシスト)を活用し、生産性が10〜30%向上している事例も生まれています。さらに、すでに100万行以上のコードをジェネレーティブAIによって生成し、正式リリースにまで落とし込んだケースも存在するとのことです。
ソフトウェアとハードウェア、それぞれの立ち位置
ジェネレーティブAIを語るうえで欠かせないのがGPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェアインフラです。AIの学習・推論には、膨大な計算リソースが必要とされるため、データセンターの増設や高速通信網の拡充など、投資すべき項目は多岐にわたります。現在は、データセンターを「発電所に隣接させる」、「電力網が潤沢な地域に集約する」など、AIならではの設備拡充の動きが顕著です。
一方で、ハードウェアへの投資は莫大な初期コストとインフラ整備が必要なため、短期的には半導体製造企業やクラウドのハイパースケーラー(大手クラウドプロバイダ)などが大きな利益を上げやすいと考えられます。しかし長期的に見ると、ソフトウェア企業こそが最終的に大きな利益の取り分を得る、というのがスミス氏の見立てです。ハードウェアの「レース」が一巡したのち、より継続的に価値を生み出せるのは、ソフトウェアプロダクトを通じて顧客に直接的なROI(投資対効果)をもたらす事業者だからです。
インフラ整備と投資の必要性
ジェネレーティブAIの普及には、以下のようなインフラ整備・投資が欠かせません。
電力の安定供給:
データセンターが必要とする電力は莫大で、しかも高品質な電力網と伝送インフラが不可欠です。地域によっては送電網の容量不足がボトルネックになる可能性があり、国・自治体レベルで電力供給計画を見直す動きが加速しています。通信インフラ:
ジェネレーティブAIは大容量データのやり取りが当たり前の世界です。海底ケーブルや衛星インターネットなど、多様な通信手段が整備されることで、より多くの地域がAIの恩恵を享受できます。AIハードウェアへの投資:
GPUやASIC、TPUなど、AI向けに特化した半導体の需要は引き続き拡大が見込まれます。一時的には供給不足が生じ、高騰リスクがある反面、世界的に見ればAI関連の半導体製造やデータセンター構築が大きな経済効果を生み出す可能性があります。ソフトウェアへの投資:
長期的には、データの主導権を握るソフトウェア企業が市場をけん引すると予想されます。エンタープライズや消費者向けにどれほど付加価値の高いサービスを提供できるかが、投資判断の大きなポイントとなるでしょう。
1億人ではなく、「10億人の知識労働者」へのインパクト
スミス氏が強調したのは、「世界には10億人の知識労働者がいて、その給与総額は40兆ドルに達する」という事実です。ジェネレーティブAIが本格的に導入されれば、そのうちの大部分が担っている「比較的定型化された業務」は急速に代替される可能性があります。
たとえば、カスタマーサポート部門にジェネレーティブAIを導入したところ、問い合わせの37%を自動応対でき、かつ98%の解決率を達成したケースがあるといいます。ここから導かれる推論は、早ければ数年のうちに60%や90%といった高水準の自動化も可能になるかもしれないということ。そうなれば、それだけ多くのサポート人員が必要なくなるかもしれません。結果として、企業はコスト削減や効率化を追求できる一方、雇用構造には大きな変化が迫られるでしょう。
雇用の未来と再教育(Reskilling)の重要性
一方で、ジェネレーティブAIの普及によって生まれる新たな需要もあります。AIの開発・運用・倫理管理など、人材が不足している領域も広範に存在します。したがって、今後は国や企業レベルで、「失われゆくタスクに従事していた人材を、どう再教育して再配置するか」が重要なテーマになります。政府や教育機関、企業が連携して、プログラミングやデータ分析、AIソリューションの活用方法などを徹底的に学べる仕組みを作ることが、社会的課題となるでしょう。
グローバルに展開する「センター・オブ・エクセレンス(CoE)」
Vista Equity Partnersでは、世界180カ国でビジネスを展開する86のソフトウェア企業に対して、「センター・オブ・エクセレンス(Center of Excellence)」と呼ばれる拠点を各地に設立し、共同開発や高度なトレーニングを行う仕組みを提供しています。
共同開発ハッカソン:
Vistaの保有企業同士や、大手クラウドプロバイダ、AI研究企業(OpenAI、Anthropicなど)を交えた「ジェネレーティブAIハッカソン」を開催。開発した試作品やアイデアを共有し、効果測定して横展開を図る。地域ごとの人材発掘と育成:
スミス氏は、「優秀な人材は世界中にいる」と強調。ペルーや中南米各国など、APEC参加国の中にも9〜10拠点のCoEを持ち、高度なAI開発やサポート業務を行っているとのこと。これらの拠点ではローカルの人材育成と雇用創出にも大きく寄与しており、今後の拡大も見込まれます。
具体例:スポーツデータ大手「Stats Perform」
スミス氏が具体例として挙げたのが、Vista傘下のスポーツデータ企業「Stats Perform」です。世界でも希少なレベルで大量のスポーツデータを保持しており、その規模はペタバイト(PB)級に達します。ジェネレーティブAIの活用で、
リアルタイムでの試合分析
ゲームの動きや選手パフォーマンスのシミュレーション
スポーツベッティングへの精度向上
スポーツ中継や報道への高度なデータ提供
など、多面的なビジネスを展開しています。
ここで重要なのは「データの主権」です。大量かつ独自性のあるデータを持つことによって、ジェネレーティブAIの学習を効率的に行い、結果として競合他社を圧倒するサービスを生み出せるのです。これはAI時代における最大の差別化要因の一つであり、「どんな分野の企業であっても、自社独自のデータ資産を構築できるかどうか」が勝敗を左右すると言っても過言ではありません。
未来への提言:資金調達と新しい雇用の創出
では、私たちはどのようにAI時代のビジネスを加速し、新たな雇用を創出していけばよいのでしょうか。
多様な資金調達手法の活用
ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティだけでなく、ソブリンウェルスファンドや国際機関の投資プログラムなど、大規模資金の呼び込みを検討する。
地方自治体やインフラ投資ファンドなどによるデータセンター建設支援により、地域での新規雇用を生み出す。
公共と民間の協調
政府が主導して電力網や通信インフラの拡大を後押しする。特に地方や新興国では、一気に世界水準の通信・電力環境を整えることで、企業誘致がしやすくなる。
各国の教育省や大学が、AI人材育成に特化したカリキュラムや資格制度を新設。企業側はインターンシップや奨学金プログラムを拡充する。
従業員の再教育とスキルアップ
失われつつある定型業務を担っていた労働者を、新たなAI関連業務へスライドさせるための研修プログラムに投資する。
オンライン学習プラットフォームや企業内大学を活用し、「業務+学習」のハイブリッドモデルを整備する。
データ主権の確立
企業は自社に蓄積したデータを戦略的に活用する仕組みを作り、AI時代の差別化要素とする。
そのためのプライバシー保護やサイバーセキュリティ体制は必須。早期に信頼できるガイドラインや国際標準を整備する必要がある。
ロバート・スミス氏が示唆するように、ジェネレーティブAIはビジネスだけでなく、社会全体の生産性や雇用の在り方に大きな変革をもたらす可能性があります。一方で、インフラ整備には時間と巨額の投資が必要であり、国や地域の事情によって進捗速度にも差が出るでしょう。
「10億人の知識労働者と40兆ドルの人件費」という巨大市場をどう最適化し、再教育や新規産業を興すかが今後の鍵となります。自動化・効率化による負の影響を軽減しつつ、AIを中心とした新たなサービスや業態を創出するためには、政府や企業が一体となって人材育成とインフラ投資、そしてデータ戦略を進めることが急務です。
最後に、スミス氏とシーガル氏が投げかけた問いを改めて考えてみましょう。
「ジェネレーティブAIがさらに進化したとき、私たちはどのような未来の仕事を創り出すのか。そして、その新たな雇用と繁栄をどのように世界中へ広げていくのか。」
この問いに真剣に向き合い、新しい可能性を具体的に検討していくことこそが、AI時代をリードするための最初の一歩と言えるでしょう。
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