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Claude Code開発者Boris Cherny「今日のモデルではなく、6ヶ月後のモデルのために作れ」

「これが本当に何かになると思った。まだコードを書けるかどうかわからなかったけれど」

Claude Codeの生みの親、Boris Chernyは、2024年9月、そう感じながら3ヶ月間一度も休暇を取らず、週末も毎晩も働き続けた。当時、モデルは彼のコードの10%程度しか書けなかった。それでも、彼は、「6ヶ月後のモデル」に賭けた。その賭けは的中し、現在Claude Codeは、全パブリックコミットの4%を占め、Anthropic社内では、エンジニア1人あたりの生産性が150%向上している。


1. 「偶然」から始まったClaude Code——最初はただのAPI実験


1-1. ターミナルは「終着点」ではなく「出発点」のはずだった

Boris Chernyは、インタビューの冒頭でこう述べた。

「信じられないのは、我々が、まだターミナルを使っているということだ。あれは出発点のはずで、終着点になるとは思っていなかった」

Claude Codeの開発は、極めて偶然的なプロセスだった。Anthropicでは、長年「コーディングを通じて安全なAGIに到達する」というビジョンがあり、Chernyが参加した「Anthropic Labs」チームは、Claude Code、MCP(Model Context Protocol)、デスクトップアプリという3つのプロダクトを生み出した。

しかし、当初、誰も「CLIツールを作れ」とは言わなかった。

「なんとなく、モデルが、コーディング製品を作る準備ができているように思えた。でも、この能力を活用する製品をまだ誰も作っていなかった。だから、私はハックを始めた。最初にやるべきことは? Anthropic APIの使い方を理解することだった。それまで使ったことがなかったから」

Chernyは、小さなターミナルアプリを作った。UIを構築する必要がなかったから、という単純な理由だ。それはチャットアプリだった。そして、Tool Use機能が登場したとき、彼は試しにbashツールをモデルに与えた。

「モデルに『どんな音楽を聴いているか』と聞いた。すると、AppleScriptを書いてMacをスクリプト化し、音楽プレーヤーの情報を取得した。モデルが、そんなことをできるとは思っていなかった。それが、私の最初の『AGIの片鱗』体験だった。モデルは、ただツールを使いたがっているだけだ、と気づいた」

これは、2024年9月、Sonnet 3.5の時代の出来事だ。

2. 潜在需要(Latent Demand)——Claude.mdからPlan Modeまで、すべてユーザーが教えた


2-1. 「プロダクトで最も重要な原則」

Chernyは、「潜在需要」という概念を繰り返し強調した。

「人々は既にやっていることしかやらない。新しいことをさせることはできない。人々が既にやろうとしていることを、より簡単にする——それが良いアイデアだ」

Claude Codeの機能は、すべてこの原則に基づいて生まれた。

Claude.md(クローデエムディー)は、ユーザーが、マークダウンファイルを自分で書き、モデルに読ませていたことから生まれた。Chernyはそれを見て、公式機能として実装した。

Plan Mode(プランモード)も同様だ。

「GitHubのIssueや社内Slackのフィードバックチャンネルを見ていたら、日曜の夜10時だった。ユーザーが、『アイデアを考えて、計画を立てて、でもまだコードは書かないで』と言っているのが見えた。30分でPlan Modeを書いて、その夜にシップした。月曜の朝にはリリースされていた」

Plan Modeの実装は驚くほどシンプルだ。

「Plan Modeに大した秘密はない。プロンプトに『コードを書かないで』という一文を追加するだけだ。実際、自分でそう言うこともできる」

2-2. 「Plan Modeは1ヶ月後には不要になるかもしれない」

インタビュアーが、「6ヶ月後にはPlan Modeを明示的にプロンプトする必要がなくなるのでは?」と尋ねたとき、Chernyはこう答えた。

「1ヶ月後かもしれない。Plan Modeは、おそらくOpu 4.5で終わりだ」

彼によれば、Claude Codeは、既に自分でPlan Modeに入れるようになっており、人間がPlan Modeに入りたいと思うタイミングと同じタイミングでそうするように調整中だという。

3. 「今日のモデルではなく、6ヶ月後のモデルのために作れ」


3-1. スキャッフォールディングは次のモデルで無意味になる

Chernyが繰り返し強調したのは、「今のモデルのために最適化するな」という原則だ。

「Anthropicでの考え方は、今日のモデルのために作るのではない。6ヶ月後のモデルのために作る、ということだ。これは、今でもLLM上で構築している創業者へのアドバイスだ。モデルが今日まだ得意でないフロンティアを考えろ。なぜなら、モデルはそれが得意になるからだ」

彼は、「スキャッフォールディング(足場)」という概念を説明した。モデルの周りにコードを書いて性能を10〜20%向上させることができる。しかし、次のモデルが出れば、その向上分は消える。

「スキャッフォールディングを構築して性能向上を得て、また再構築するか——あるいは次のモデルを待って無料で手に入れるか。Claude.mdやそのスキャッフォールディングはその例だ。だから、CLIに留まったのも、6ヶ月後に関連性のあるUIを構築できるとは思えなかったからだ。モデルの改善があまりにも速かった」

3-2. コードベースの寿命は「数ヶ月」

「6ヶ月前にあったClaude Codeの部分は一つもない。常に書き直されている。数週間ごとにツールをアンシップ(削除)し、新しいツールを追加している」

インタビュアーが、「コードベースの80%は数ヶ月以内のもの?」と尋ねると、Chernyは、「そうだ。たぶん数ヶ月以内だろう」と答えた。

これは、AI時代のソフトウェア開発における「コードの賞味期限」を示している。

4. Anthropic社内の生産性——70%成長、そして150%成長


4-1. エンジニア1人あたりのPR数が70%増加

Chernyは、Anthropic社内での生産性向上を具体的な数字で示した。

「チームは昨年倍になったが、エンジニア1人あたりの生産性は約70%成長した。これはプルリクエスト数で測定している。コミット数やコミットの寿命などでもクロスチェックした。Claude Code登場以来、Anthropicのエンジニア1人あたりの生産性は150%成長した」

彼はMeta時代、コード品質担当として全プロダクト(Facebook、Instagram、WhatsAppなど)のコードベースの品質に責任を持っていた。当時、生産性を2%向上させるのに数百人が1年かかった

「150%という数字は、まったく前例のないレベルだ」

4-2. 「IDEをアンインストールした」

Cherny自身は、Opus 4.5以降、IDEを完全に削除した。

「私は、100%Claude CodeとOpusだけだ。コードを一行も手で編集しない。毎日20件のPRを出している。Anthropic全体では、70〜90%がClaude Codeで書かれている。チームによっては100%だ

2024年5月、彼は「もうコードを書くのにIDEは必要ない」と予測し、聴衆を驚かせた。しかし、彼にとって、それは単に指数関数を延長しただけだった。

5. 2026年の予測——「ソフトウェアエンジニア」という肩書きが消える


5-1. コーディングは「実質的に解決済み」

Chernyは、2026年の予測を語った。

「コーディングは誰にとっても一般的に解決される。今日、私にとってコーディングは実質的に解決している。ドメインに関係なく、すべての人にとってそうなるだろう。『ソフトウェアエンジニア』というタイトルが消え始めると思う。『ビルダー』『プロダクトマネージャー』になるかもしれないし、タイトルは名残として残るかもしれないが、人々がやる仕事はコーディングだけではなくなる。ソフトウェアエンジニアは、仕様を書き、ユーザーと話す

彼のチームでは既にこれが起きている。PM、デザイナー、EM(エンジニアリングマネージャー)、さらには財務担当者まで、全員がコードを書く。

5-2. 上限シナリオ——ASL4と再帰的自己改善

一方で、Chernyは、「上限シナリオ」についても触れた。

「ASL4に到達する可能性がある。これはモデルが再帰的に自己改善する段階だ。これが起きれば、リリース前に満たすべき基準がある。極端なケースでは、バイオウイルスの設計やゼロデイ攻撃の設計など、壊滅的な悪用が起きる。我々はそれが起きないよう積極的に取り組んでいる」

おわりに——「偶然」が生んだ、全コミットの4%


Boris Chernyは、ターミナルという「最も安価な選択肢」から始め、潜在需要を観察し続け、6ヶ月後のモデルに賭け続けた。その結果、Claude Codeは全パブリックコミットの4%を占め、NASAの火星探査機Perseveranceのコース設計にも使われるツールになった。

彼が繰り返したのは、「モデルに賭けろ」というメッセージだ。スキャッフォールディングではなく、モデルの能力向上に賭ける。今日の性能ではなく、6ヶ月後の性能を信じる。そして、ユーザーが既にやろうとしていることを、徹底的に観察する。

「クールなものを作りたかっただけで、それが本当に役立つものになったことは驚きで、とても興奮した」

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