Z世代が老舗を復活させる:Coach・Gap・e.l.fに学ぶ「再生の方程式」
レガシーブランド(老舗)が「若者に刺さらない」と言われる時代に、逆にGen Z(Z世代)が“復活の起爆剤”になっています。ポイントは、単に若者向けに寄せるのではなく、価値(Value)と文化(Culture)を再設計して「語れるブランド」に作り直すことです。以下、Coach/Gap/e.l.f. Beautyの事例から“復活の型”を整理します。
1. Z世代が“古いブランド”を救う理由:安さでも高級でもなく「納得」
Z世代が反応するのは、年号や伝統そのものではなく、「この価格で、この体験はフェア」という納得感です。Coachの担当者が語る「Fashion always looks to the youngest generation for inspiration(ファッションは、最も若い世代からインスピレーションを得る)」という発言は、まさに“文化の起点”をZ世代に置く戦略を示しています(番組内コメント)。
そのうえで重要なのが、プロモ乱発でブランド価値を毀損しないこと。GapのCEO Richard Dicksonも「“%OFFの爆撃”をやめ、物語と体験に戻る」趣旨を語っています。
2. Coachの復活:ロゴ依存から「エモい実用ラグジュアリー」へ
2-1. データ×商品絞り込みで“アウトレットの罠”から脱出
Coachは、2000年代のロゴ人気の反動と、値引き常態化でブランドが傷つきました。転機は、ディスカウントを引き算し、商品と物語を絞ったこと。結果として、LystのランキングでCoachは世界5位の“Hottest Brand”に入り、需要が前年比+332%と紹介されています。
2-2. ノスタルジーを“今の自分ごと”に変える:Brooklyn Bag
復活の象徴がCoach Brooklyn bag。Lyst Index(Q4 2024)で“Hottest Product”に挙げられ、検索・需要の伸びが可視化されました。
ここで効いたのは、ただの懐古ではなく、Y2K回帰の流れに合わせて「昔の名作を、いま持つ理由」を作ったこと。さらに、チャーム等のカスタム文化で“自分仕様”にできる余白を用意し、コンセプト店舗「Coach Play」やカフェなど、来店理由も拡張しています。
3. Gapの再点火:マーケだけでなく「商品と編集」を立て直す
3-1. “Barbieを復活させた男”のやり方:ブランドを文化に戻す
Gapは、長年、値引きで在庫を動かす構造に依存し、メッセージが薄まったと言われます。そこでCEOに就いたRichard Dickson(Mattel出身)は、文化接続と商品改善を同時に進める設計へ。
象徴的なのが、デザイナーZac Posenの起用。Gap Inc.は2024年2月にEVP/クリエイティブ責任者として発表しています。
3-2. ただし最大リスクは「関税」:復活局面ほど荒波が来る
アパレルは、サプライチェーンの外部要因に弱い。Gapは2025年度に関税影響が営業利益で約1億〜1.5億ドル残る見込み(対策後)を開示しています。
復活の芽が出た瞬間に、コスト上昇で価格・粗利・在庫が揺れる。だからこそ、Z世代向けの“派手さ”より、調達分散やSKU整理など地味な基礎体力が勝敗を分けます。
4. e.l.f. Beauty:「デュープ文化」を正面から価値に変えた
e.l.f.は、“安いのに使える”を徹底し、UGC(ユーザー投稿)で増幅するモデルを作りました。番組内でも「『Diorのリップオイルとe.l.f.を並べて比較する投稿は無料広告』」という空気感が語られます。
公式にも、2025年5月にRhode(Hailey Bieberのブランド)を10億ドルで買収すると発表。Rhodeは2022年開始、短期間で売上規模を伸ばしたとされています。
一方で、関税コストの影響で利益が圧迫される局面もあり、2025年8月の決算発表でも関税によるマージン悪化が明記されています。
5. 3社に共通する「復活の方程式」
①値引きの麻薬を断つ:短期売上より、長期の“語られ方”を守る(Gapの方針転換)。
②名作の再編集:懐古を“いまの自己表現”に翻訳(Coach Brooklyn)。
③コミュニティ起点のプロダクト:UGC・比較・レビューが購入導線(e.l.f.の拡散設計)。
④外部ショック前提で設計:関税・供給制約に耐える調達分散と粗利管理(Gap/ e.l.f.)。
Z世代が“レガシーを蘇らせる”のは、若者が優しいからではなく、価値と物語が再設計されると、最も厳しい審査員として支持に回るからです。逆に言えば、復活の敵は「若者離れ」ではなく、安易な拡張・乱売・メッセージの希薄化。復活は一発のバズではなく、“編集の積み重ね”で起こります。

