ADHDの薬をやめて数年。別の薬を試したら、頭の中の音楽が止まった
30代。製造業で働いている。現場のプレイヤーでもあり、製造を管理する立場でもあり、会社の経営にも関わっている。
ADHDの診断を受けている。
物心ついたときから、頭がスッキリした記憶がない。常にぼんやりとした霧がかかっているような感覚。それが自分にとっての「普通」だった。
そしてもう一つ、ずっと頭の中で音楽が鳴っている。好きな曲のサビが延々とループする。会議中も、図面を見ているときも、寝る前も。自分の意思では止められない。これも「みんなそうだろう」と思って生きてきた。
それから、慢性的な睡眠不足。毎日5時間しか眠れない。正確に言えば、5時間で目が覚めてしまう。いわゆる早朝覚醒だ。これがずっと、一番の悩みだった。
早朝覚醒という地獄
同じ悩みを持つ人がいるかもしれないから、少し詳しく書いておきたい。
朝4時や5時に、パッと目が覚める。まだ暗い。まだ早い。もっと寝たい。でも目が覚めた瞬間から、頭の中で考え事が始まる。仕事のこと、将来のこと、漠然とした不安。それがループする。止めたくても止められない。考えれば考えるほど目が冴えて、交感神経が立ち上がって、もう眠りには戻れない。
一番辛いのは休日だ。平日よりたっぷり寝られるはずの土日。なのに「今日は休みだ」という事実だけでテンションが上がって、普段より早く目が覚めてしまう。せっかくの休みなのに朝4時から起きている。そして一日中眠い。
この悪循環が毎日のように続く。日中は常に眠気との戦いだ。会議に出ても、議題の内容を聞くというよりも、いかに眠らないかの格闘になっている。人の話を聞いているフリをしながら、実は意識が飛びかけている。立っているのがやっとの日もある。睡眠のために生きていると言っても過言ではないくらい、睡眠に振り回されてきた。
改善するために、あらゆることを試した。睡眠トラッカー、遮光カーテン、睡眠改善サプリ、寝る前の光を弱める、刺激を減らす、寝具の改善、リカバリーウェア、運動。どれも目に見える変化はなかった。
コンサータという薬を使っていた時期がある
数年前、日々の生きづらさに耐えかねて病院に行った。カウンセラーとの長時間の面談や、様々な心理検査を経て、ADHDの診断が出た。コンサータという薬を処方された。
コンサータは効いた。頭の中の雑音が消えた。ずっと流れていた音楽のループも止まった。周りが静かに感じた。日中の眠気がゼロになった。やる気が出て、集中力をちゃんとコントロールできるようになった。自分がいかに雑音の中で生きてきたかを、静かになって初めて知った。
でも、しばらくして薬を使うのをやめた。
まず副作用が辛かった。夜に眠れなくなった。口が異常に渇いた。薬で脳を無理やり覚醒させているような感覚が拭えず、体に無理をさせている、寿命を削っているという不安がずっとつきまとった。
そして、薬を飲んでも自分の能力自体は変わらなかった。確かに雑音は消えた。頭はクリアになった。でも、クリアになったからといって、急に難しい問題が解けるようになるわけではない。わからないことは相変わらずわからないし、複雑な判断にはやっぱり頭を抱える。コミュニケーションが苦手なのも変わらない。雑音が消えた分、自分の能力の限界がかえってはっきり見えてしまった。「薬を飲んでもこの程度なのか」という失望があった。
それから、薬に頼り続けること自体への漠然とした不安もあった。自分はADHDを病気だとは思っていない。生まれ持った特性だと考えている。特性をどう活かすかが大事であって、薬で無理やり矯正するものではないのではないかと。
数年間、薬なしで過ごした
薬をやめてからは、AIを外部脳として使い、ADHDの弱点を補う戦略を取ってきた。ワーキングメモリの弱さや判断の整理はAIに手伝ってもらう。自分の強みである集中力と技術力で勝負する。
この戦略自体は悪くないと今でも思っている。
でも年々「判断力が落ちている」という感覚が強くなってきた。5時間睡眠は変わらない。早朝覚醒も変わらない。不安のループも変わらない。頭の中の音楽も鳴り続けている。物心ついたときから続いているブレインフォグも、改善するどころか悪くなっている気がする。脳ドックでは異常なし。
原因はわかっている。慢性的な睡眠不足と、治療していないADHDだ。
別の薬があることを知った
コンサータが合わなかったことと、薬が全部ダメなことはイコールではない。
ストラテラという薬がある。コンサータとは仕組みが全く違う。
自分の理解では、コンサータは脳のドーパミンとノルアドレナリンを両方増やして、覚醒を強制的に引き上げる薬だ。だから即効性があるが、夜に眠れなくなる副作用が出やすい。
一方でストラテラは、ノルアドレナリンだけに作用する。しかも「量を増やす」のではなく「無駄遣いを減らす」仕組みだと理解している。脳が放出したノルアドレナリンが、十分に使われる前に回収されてしまうのを防ぐ。自分の脳がもともと持っているものを、最大限に活用するための薬。効果は穏やかだが、コンサータのような不眠が起きにくいとされている。
自分の体の特徴を改めて並べてみた。心拍数が低い。日中の眠気が強い。昔からブレインフォグがある。早朝覚醒と不安のループ。これらを総合すると、もともとノルアドレナリンが少ない体質なのかもしれないという仮説が浮かんだ。もしそうなら、ストラテラには試す価値がある。
妻に相談した。理解してくれた。病院に行って、自分なりに調べたことや考えを医師に伝えた。ストラテラという薬を試してみたいという希望も伝えた。医師と相談した結果、まずはストラテラから始めてみることになった。
1週間飲んでみた結果
ストラテラは効果が安定するまで数週間かかる薬なので、まだ途中経過に過ぎない。でもいくつかの変化があった。
頭の中の音楽ループがまた消えた。 コンサータを飲んでいたときも消えていたので、初めての体験ではない。でも数年ぶりに静かな頭を取り戻して、改めてあの音楽がどれだけ脳のリソースを食っていたか再認識した。面白いことに、頭が静かな状態だと、外から音楽を聴いても雑音に感じることがある。疲れた夕方にはまた心地よく聴ける。もしかすると、今まで「音楽好き」だと思っていたものの一部は、頭の中の不快なノイズを心地よいノイズで上書きする、無意識の自己治療だったのかもしれない。
睡眠パターンが変わった。 あらゆる対策を試しても動かなかった睡眠が動いた。いつもより早く眠くなり、睡眠時間がわずかに伸びた。5時間で目が覚める癖は残っているが、目が覚めたときの感覚が違う。不安感がない。考え事がループしない。頭がクリアなまま、ただ起きているという感覚。二度寝で夢を見れる日も出てきた。普段は夢を見るほど深く眠れないので、睡眠の質そのものが変わっている可能性がある。
日中の眠気が軽くなった。 完全に消えたわけではない。特に夕方は眠くなる。ただ、これまでの「倒れそうな眠気」が「まだ立てる眠気」になった。会議中に意識が飛びかけることが減った。これだけでも、日々のストレスがかなり違う。
副作用について。 軽い吐き気と口の渇きがある。どちらもコンサータのときよりは明らかに軽い。今のところ許容範囲だと感じている。
薬は能力を上げない(2回目の学び)
前回コンサータで学んだことを、今回は最初から理解した上で飲んでいる。
薬は能力を上げるものではない。持っている能力を、ちゃんと使える状態にするもの。
たとえるなら、工場の騒音の中で図面を読むのと、静かな事務所で読むのとでは、同じ自分でも出せる精度が違う。図面を読む能力が変わったわけではない。環境が変わっただけだ。薬はその環境を整える道具に過ぎない。
前回はそれを「この程度か」と受け止めてしまった。今回は「ノイズが減っただけでも十分に意味がある」と思えている。能力が変わらなくても、その能力をフルに使える時間が増えるなら、それだけで仕事の質は変わる。
狩猟者の脳で、農耕の仕事をする
ADHDに関連する遺伝子変異は、人類が狩猟採集民だった時代にはむしろ有利な特性だったという研究がある。注意散漫は周囲を広くスキャンして危険を察知する能力。衝動性は一瞬で判断して行動に移す能力。過集中は獲物を何時間でも追い続ける能力。
今の自分の仕事には「狩猟」と「農耕」の両方がある。現場で問題を嗅ぎつけて即座に対応するのは狩猟者の仕事。書類やルーティンの管理は農耕者の仕事。ADHDの脳は前者が得意で、後者がどうしても苦手だ。
今の戦略は「農耕的な仕事はAIに渡して、自分は狩猟者として動く」。薬はその狩猟者としての基礎体力を維持するためのものだと位置づけている。
まだ途中
1週間では結論は出ない。ストラテラの効果が安定するまで数週間、本当に自分に合っているかの判断には数ヶ月かかると言われている。副作用がこれから強くなるかもしれないし、今感じている効果が変わるかもしれない。
ただ、一つだけ言えることがある。コンサータが合わなかったからといって、選択肢がなくなったわけではなかった。別の仕組みの薬が、別の体験を与えてくれた。あのとき「薬はもういい」と決めつけていたら、この静かな頭は戻ってこなかった。
もし同じように、早朝覚醒で悩んでいる人、頭の中の音楽が止まらない人、日中の眠気と戦い続けている人がいたら、この体験が少しでも参考になれば嬉しい。
経過はまた書く。
この記事は個人の体験談であり、医学的なアドバイスではありません。薬の効果や副作用には個人差があります。服薬については必ず医師に相談してください。
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