「正論」はなぜ伝わらないのか 番外:ナフサ・石油「目詰まり」という政府の正論が、国民に無視される理由

「ホルムズ海峡危機」が続き、包装などに使われるナフサが不足していると騒がれています。

これに対し、政府は「全体として必要量は確保できている」「流通の目詰まりが原因だ」と説明し、冷静な対応を呼びかけています。

一方、民間の反応は異なります。ある製菓メーカーはポテトチップスのデザインを白黒にしてインクを節約すると発表し、ある小売店ではトレー販売からピックアップ販売に変更するとしています。

これはまさに、連載で述べてきた「データとナラティブ(物語)の衝突」の一例ではないでしょうか。結論から言えば、連載の累計で言う「データの出し手に信用がない」のが原因です。以下で詳しく解説します。

データ(正論)の政府:しかし、「目詰まり」の言葉は曖昧

政府は流通経路を辿って必死にヒアリングをしていると思います。

その中で「全体として量は足りている」というデータを掴んだため、あのような答弁になっているのだと思われます。

また、詳しく聞き取りをしているのであれば、「どこで滞っているのか」
「誰が溜め込んでいるのか」も把握しているはずです。

これをくるっとまとめて「目詰まり」と表現しているのでしょうが、国民としては詳しいデータを示されたわけではないし、目詰まり箇所は「見えない」。そこに「情報の非対称性」が生まれます。

情報の非対称性とは、完全に情報を持っている一方と、不完全な情報しか持っていないもう一方では選択が異なり、最適解が出ないことを指します。

データを持っている政府からすれば、「国民は完全な情報を持っていないから、言うことを聞いてくれない」と映るのかもしれません。

そう思っているのであれば、持っている情報は全て出すことが、政府の求める「冷静な対応」を促す一手になります。

ナラティブ(物語)の国民:政府の「前科一犯」を見ている

詳細なデータを持たない国民は、現状で物事を判断します。「手元に原料がない」「価格が高騰している=希少性が高まっている」という現象です。

しかも、政府がデータを示してきたとしても、そのまま信用できないほど、政府の信用(クレジット)は削り取られています。

政府発表のデータに関する疑念は、以下の記事が鋭く指摘しています。

しかも、政府には「目詰まり」と表現したものの、結果的に誤っていた「前科」があります。

2024年からの「令和の米騒動」です。この時、農林水産省はコメが店頭から消え、価格が高騰している理由について「流通の目詰まり」と当初は分析していました。

その後、新型コロナ後のインバウンド需要の高まりによって供給不足だったことが明らかとなりました。

この反省を活かすなら、政府は安易に「目詰まり」という単語を使ってはいけないことになります。同じ単語を使って説明しているものですから、国民としては「信用できない」と思うのです。

重大な疑念:「足りている」けど「備蓄はどうなる?」

備蓄を放出しているという現状も、疑念を強くします。「足りている」と説明を受けても、「備蓄はいつか底をつく」と普通は考えます。

であれば、手元にある原料を節約したいと考えるのは当たり前のことです。そもそも「足りている、代替調達しているというなら、なぜ備蓄を放出しているのか」と疑問を抱く人もいると思います。

つまり、「足りている」という説明が「備蓄を合わせれば足りている」なのか「代替調達で全て賄えている」なのか、詳細な説明が不足しているのです。もちろん、上で紹介した記事のように詳しく調べれば分かるかもしれませんが、普通に生活している国民からすると見えにくい情報です。

データとナラティブの衝突を解決するには、「対話」しかない

政府が一生懸命、情報を発信しているのに、世の中が狙い通りに動かない。このデータとナラティブの衝突を解決するには、互いの考えやスタンスをすり合わせる作業を粘り強く行うしかありません。

  • データの詳細と取得経路の明示

  • 全体として必要な量と、代替輸入量、備蓄放出量の関係

  • 上記2つのデータの信頼性の確保

  • 「目詰まり」の具体的な箇所と対策

  • 将来像の提示と具体的なロードマップ

政府には上記5点を丁寧に説明する必要があります。データの信頼性を客観的に説明し、分かりやすく提示する。これをしないで、政府の考えを押し付けるだけでは不信感がますます募ることになるでしょう。


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