【閑古鳥雑貨店のプク】むっちゃん万十の黄身がポトリ…。慌てる店主と椅子の足元で毛づくろいを始めた猫|コジット 洗濯石鹸ケース
エプロンに黄身を落とした午後。
慌てて洗ったら、泡がふわりと立ちました。
見ていたのは、椅子の下の猫だけ。

秋に入ったはずなのに、
まだまだ暑い九月初旬の午後。
この店もまだまだ閑古鳥が鳴いています。
扇風機の風にレースのカーテンがゆらゆら揺れて、
店の奥では、猫のプクがテーブル上でながく伸びていました。
「……うん゛」
とつぜん、小さな寝言のような声が聞こえてきて、
そっと顔を向けると、プクが前脚をぴんと伸ばして、
背中をくいっと反らしています。
長く寝ていたらしいその顔に、ちいさなあくびがひとつ。

「そんなにのびたら、下に落ちるよ」
くすっと笑ったそのとき、
店のガラス戸がさらりと開きました。
ご近所のクリーニング屋さんの奥さまです。
「お預かりしてたセーター、できましたよ。
毛玉も少なかったし、楽でした」
渡されたサマーセーターは、ほんのりと風の匂いがして、
まるで陽だまりを包んでいるような、やさしい肌ざわり。

「ありがとうございます……
あの、ちょっと相談なんですけど」
そう前置きして、最近悩んでいたことをお話しました。
「白シャツの襟がどうしても、すっきり落ちなくて。
石けんでこすれば取れるのは分かってるんですけど、
手も置き場所もぬるぬるになるし、つい後回しで……。」
奥さまは「それなら」と、スマホを出して写真を見せてくれました。

「これね、最近お客様に教えてもらったやつ、よく売れてるみたい。
中に石けん入れて、ブラシをコロコロするだけ。
そしたら泡がぶくぶくと。
終わったらそのまま立てておけば、乾きやすいのよ。
もちろん細かくなった石けんも使えるし」

便利だけど、どこか不器用だった洗濯石けん。
それがちょっとだけ整えられて“道具”らしくなるような。
そんな雰囲気に惹かれて、私はすぐ「それ、調べてみます」
と答えていました。
「プク、これ、いいんだって」
帰っていく奥さまの背中に、プクが尻尾をぽふぽふ揺らして応えました。

その日の夕方。
テラスに置いたカゴの中。
プクは半目でごろりと寝返りを打っていました。
「プク、さっきのやつさ、やっぱり買おうかなと思って」
「……ん゛?」
「泡が立つんだって。こすって、そのまま置けるの。
シャツの襟、こないだ落ちなかったし……ね、プクちゃん、買っていい?」
「……んー゛(伸び)」
「それ、賛成ってことでいいの?」
プクはもう一度あくびをしてから、わたしの顔をちらりと見て、
くるんと丸くなって、しっぽで顔を隠しました。
それを“承認”と受け取った私。
ネットでぽちりと注文。

数日後。
届いたのは、先日注文した泡立つ洗濯せっけんケース。
早速、店の洗面所の片隅にそっと置いた日の昼。
近所の子におすそわけでもらった、むっちゃん万十のハムエッグを、
テラスで食べていたそのとき――
あっ。
黄身が、ちょうどエプロンのど真ん中に落ちてしまったのです。
わざとでも狙えないような、まるで「どうぞ」と言わんばかりの位置に。
「プク、ねえ……タイミング良すぎない?」
プクはうつ伏せのまま、耳だけこちらを向けていました。

ケースに石けんを入れ、ブラシをころころ。
少し時間をかけると、ふんわりとした泡が立ち上がり、
その泡で、襟の黄身跡をくるくると撫でるようにこすりました。
水で流すと、するりとあとかたもなく消えていた汚れ。
「……うん、いい。これはいいかも」

「プク、落ちたよ。襟、きれいになった」
「……ん゛」
「この“ん゛”は……感心の“ん゛”?それとも眠いの?」
「……ん゛(毛づくろい)」
椅子の足元で毛づくろいを始めたプクを見ながら、
私は使い終えた石けんケースをトンと洗面所に立てました。

今日もお店には誰も来ていません。
でも、使ってみたい道具がひとつ増えたこと。
それをいちばんに伝えたくなる相棒が、すぐそばにいること。
「……ねえプク、今日も、いい日だったね」
プクは何も言わず、しっぽだけをふわりとゆっくり揺らしました。
うん、きっとそういう日。
きょうもお付き合いいただいて、ありがとうございました。
むっちゃん万十、美味しいですよね。
またいつでも、ふわりとお立ち寄りくださいね。
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