文車妖妃のアルエさん③
【文車妖妃(ふぐるまようひ)】
古い恋文にこもった想いから変化した妖怪。
美しい女性の姿をしているが、その体は恋文や巻物によって形づくられている。恋文の魂そのものだからこそ「真実の言葉」だけを見抜くと言われる。
ぼくにとってアルエさんのイメージは、ずっとこの妖怪だった。

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同人誌をつくろう!
大学生になると、友達と一緒にコミケに参加する機会が増えた。
コミケ(コミックマーケット)っていうのは、年に2回東京ビッグサイトで行われている漫画の祭典だ。
幼馴染で漫画家をしているやつがいるけど、こいつはコミケで編集者に声をかけられてメジャーデビューした。意外とチャンスも転がっているのだ。

ぼくはというと、漫画も描くけどコスプレして売り子をするのがメインだった。体格も大きめで、水泳と空手を続けていたおかげでコスプレ映えするマッチョに育っていたからだ。ナマコなのに。
あるとき、同人誌の企画をしている同級生Uが、「アルエさんにも参加してもらおうぜ!」とか言い出した。こいつは中学生の頃からアルエさんが好きで、中学・高校を通して数回振られている。羨ましいアグレッシブさ。

ぼくたちのジャンルは基本的にゲームだ。
CAPC〇Mとか S〇UAREあたり。本は大好きだけど、ゲームなんてやったことがないアルエさんが参加してくれるわけがない。そこで、アルエさんの趣味を把握しているUはこんなセリフで誘った。
「一緒にメイドさん同人誌を作らない?」
釣れた。

とはいえ、オフセット本(ちゃんと印刷所で製本してもらうもの)はゲーム系で出すことが決まっていたので、コピー本(コンビニとかのコピー機で自分で作る本)にせざるを得ない。
アルエさんとの連絡はUがしていたが、イベント当日はアルエさんも売り子をしてくれると聞いて、ぼくはなんだかワクワクしていた。
ちなみにコピー本はUが一人で全部編集し、製本した。おつかれ!
コミケ当日だよ!
新刊はCAPC〇Mの格ゲーとファイナル〇ァンタジー、そしてメイドさん本。ぼくは「雷神」という、褐色の肌のゴリマッチョでヒゲを生やし、眉毛にピアスをつけた半裸キャラクターのコスプレをしていた。

ヒゲとピアスが反映されないんですが…
一緒に写ってるのは、「一緒に写真撮ってー!」って声をかけてくれたコスプレイヤーのお姉さんたち。このためにジム通いを欠かさずプール指導員のバイトと日焼けマシーンまで使って肌を焼いたのだ。すごい努力じゃない?
でもそんな涙ぐましい努力も、Uが用意した衣装に着替えただけのアルエさんの破壊力には全然及ばなかった。

「あら~……すごい衣装ねえ、ナマコさん……」
「アルエさんもな~」

結果、マッチョな雷神が売るゲーム系オフセット本は全然売れなかったが、ガチの美人メイドが売るメイドコピー本は一気に売れて無くなった。
結局、見た目がすべてやで……。

途中で売り子を交代してもらって、アルエさんと2人で屋上のコスプレスペースへ。さっきの雷神のイラストはそのときの写真をイラスト化したやつ。
衣装にもお金をかけたが、それ以上に体づくりにこだわったおかげで、コスプレイヤーのお姉さんたちからモテるモテる……。人生で一番モテたんじゃないだろうか。
しかし、さっきまで隣にいたアルエさんを見ると……。
大量のカメコに囲まれてポーズ指示とかされとる!!
なんやこれェ!!


なんかすごく疲れたけど、楽しい一日だった。
大学のときに会ったのは、この時と、あと一回くらい。
成人式でもアルエさんを探したけど、彼女は忙しいらしくて来ていなかった。
(つづく)
