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世界中の夜食文化を私はもっと真面目に知りたい

夜食は、身体にそんなに良くない。

これはもう、だいたいみんな知っている。
夜遅くに食べるのはよくない。
太るかもしれない。
胃にも悪いかもしれない。
翌朝ちょっとだるいかもしれない。
健康診断の紙に書いてあるタイプの正しさから見れば、夜食なんてだいぶ怪しい。

でも人は、夜食を食べる。

よくないと知っている。
でも食べる。
理性は反対している。
でも、鍋に湯を沸かす。
冷凍庫を開ける。
コンビニへ向かう。
あの感じ、かなり人間の核心に近い気がする。

夜食って、身体にとってはそこまで褒められたものではないのだろう。
でも、心にとってはかなり優秀な栄養素だ。

一日が終わった。
仕事も終わった。
人間関係も終わった。
今日の失敗も、微妙なLINEの返しも、あの会話ちょっとミスったかもも、とりあえず全部いったん脇へ置く。
その上で、温かくて、しょっぱくて、ちょっと重たいものを食べる。
これが効かないわけがない。
夜食というのは、胃袋を甘やかしているようで、実際にはメンタルを延命している。

私はここで思う。

これって絶対、日本人だけではないだろう、と。


世界中に夜食はあるはずなのだ。
あるに決まっている。
だって人類はみんな夜に疲れるし、みんな少し終わった顔で「今この時間にこれ食べたらあかんよな」と思いながら食べているはずだからだ。
それが人間という生き物の、かなり信用できる部分だと思う。

なのに、世界の夜食文化ってあまり語られない。

どこの国の本を読んでも、昼の名物が出てくる。
伝統料理。
必食グルメ。
屋台文化。
ローカルフード。
もちろんそれもいい。
でも私が知りたいのは、もっと夜の、人に見せにくいほうの食だ。

その国の人は、夜中の一時に何を食べるのか。
飲んだあと、何で締めるのか。
疲れて帰宅して、冷蔵庫の前で三秒考えた末に、何をレンジへ入れるのか。
そこが知りたい。

私は、夜食こそその国の本音だと思っている。

昼の食文化には、ちょっとした顔がある。
ちゃんとしている。
お客さんに見せてもいい。
これがうちの文化です、と説明できる。
でも夜食は違う。
もっと無防備だ。
もっと言い訳が少ない。
ただ、「今これが食べたい」という欲望だけで成立している。
だからこそ、その国の素が出る。

想像してみてほしい。

世界のどこかで、夜中にだけ妙に愛されている麺があるかもしれない。
別の国では、チーズがやたらのった何かが、人々の終電後を支えているかもしれない。
また別の国では、甘いものを夜中に平気で食べて「まあ人生やし」で終わっているかもしれない。
スープかもしれない。
パンかもしれない。
揚げ物かもしれない。
冷たいプリンみたいなものかもしれない。
何にせよ、そこには絶対、その国の「夜の正直さ」がある。

しかも夜食って、だいたいちょっと恥ずかしい。

堂々と文化です!とは言いにくい。
深夜の炭水化物なんて、栄養学的にはたぶん褒められない。
油も多い。
塩も多い。
判断もだいぶ鈍っている。
だから観光本でも、あまりそのへんは前に出てこない。
「この国では夜中にみんなしっかり麺と揚げ物を流し込んでいます」
みたいなことは、あまり美しく書けないのだと思う。

でも、だからこそ私は見たい。

もっと世界中の夜食文化を、真面目に、でもちょっとニヤニヤしながら研究したい。

理想を言えば、そういう本がほしい。
国別・夜食大全。
朝食でも昼食でもない。
名物でも晴れ舞台でもない。
「みんながちょっと疲れていて、でもまだ眠るには腹が減っている時間の食べ物」だけを集めた本。
最高ではないか。
かなり売れると思う。
少なくとも私は買う。
二冊買う。
保存用まで買う。

YouTubeでもいい。
「世界の深夜メシを見に行く」だけのチャンネル。
観光地には行かない。
絶景もいらない。
夜の街へ出て、飲み終わった人が何を食べているかだけを追う。
コンビニの棚、屋台の湯気、謎に混んでる小さい店、そういうものだけを見せてほしい。
たぶん私はかなり真剣に観る。
なんならコメント欄で「この国、深夜にやたら炭水化物へ優しいですね」とか書くと思う。

夜食はしだらしない。
でもそのだらしなさの中に、その国の優しさがある気がする。

人を夜中にどう慰めるのか。
どんな味で一日を終わらせるのか。
疲れた人間に、何を最後に差し出すのか。
そこには、その国の食文化の「建前じゃない部分」がかなり出る。

健康ではない。
美しくもない。
でも、切実にうまい。

私はそういう食べ物が好きだ。

ちゃんとした料理ももちろん好きだ。
手間のかかった名物料理も好きだ。
でも、人間の本音はたぶんもっと遅い時間に出る。
日付が変わる頃、少し疲れて、少し気が緩んで、少し人生を許したくなっている時間。
あの時に食べられているもののほうが、ずっと正直だ。

夜食は身体に悪い。
でも、だからこそ文化として強い。
人は正しさだけでは生きていけない、ということを、夜食は毎晩しれっと証明している。
しかも世界中でたぶん同じことが起きている。
その事実、かなり希望ではないかと思う。

どこの国にも、深夜に理性を捨てる食べ物があるはずだ。
私はそれをもっと知りたい。
観光名所より、世界遺産より、まずその国の夜中の一杯、一皿、一袋が知りたい。
罪悪感と一緒に食べるものほど、たぶん人類の本音に近いから。

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