[記憶がやさしい人たち] 「Pretty old woman|介護現場で出会った、人生を楽しむ天才」―人生の最後に残るのは、記憶ではなく感情なのかもしれない―
「私は、Pretty old womanよ」
照れくさそうに、
でもどこか誇らしげにそう言った彼女を囲んで、
私たちは思わず歌い出していました。
♪ Pretty woman, walking down the street…
彼女は、
記憶がとても「やさしい」人です。
壁に飾られた古いお父さんの写真を見上げては、
遠い日の思い出を慈しむように話してくれます。
その表情は、
まるで春の日だまりのようでした。
見ているこちらまで、
自然と心がほどけていくのです。
介護の現場では、
体が思うように動かなくなる不自由さや、
少しずつ記憶がこぼれていく切なさに出会います。
けれど彼女の中を流れる時間は、
それらをすべて「やさしさ」というフィルターで包み直しているようでした。
特に忘れられないのは、
フルホイスト(移動用リフト)で移動するときのことです。
体が宙に浮き、
ゆらゆらと揺れる。
人によっては、
怖さや不安を感じる時間かもしれません。
でも彼女は、
その瞬間に笑いながら言いました。
「あら、ブランコみたい。楽しいわねぇ」
ケタケタ、ケタケタ。
子どものような笑い声が、
介護という日常の重たさを、
ふっと軽くしてくれた瞬間でした。
私はその時、
歳を重ねるということは、
失っていくことばかりではないのかもしれないと思ったのです。
そして同時に、
少し怖くなりました。
認知症になったから優しいのではなく、
もともとその人の中にあったものが、
最後に残っているだけなのかもしれない。
もしそうだとしたら——
今の私が抱えている怒りや後悔、
手放せない悲しみや不安は、
この先、
どこへ向かうのでしょう。
介護の現場で出会った人たちは、
大きく二つのタイプに分かれていました。
穏やかに笑う人。
怒りや不安に飲み込まれる人。
その違いは、
認知症の進行度ではありませんでした。
私は長い間、
その理由を考えてきました。
この記事では、
一人の「Pretty old woman」から学んだ、
やわらかく歳を重ねるための心の整理術について、
もう少し深く書いてみようと思います。
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