ノイズの行き着く先は|創作大賞感想
三條凛花さんの作品を読んだ。
ある日、妻の澪が忽然と姿を消した。4月22日。彼女の誕生日のことだった。置き手紙もなく、幼い子どもたちを残しての失踪。夫・寒川拓海は、仕事と育児に追われ、混乱を抱えたまま日々を過ごしていた。そんなある日、拓海は自身の姉から、澪には別の“名前”があったのではないかと知らされる。拓海の知らない澪。彼女が抱えていた問題、心の叫び……。“彼女が書いた言葉たち”に導かれるようにして、拓海は彼女が置かれていた環境や静かに積もっていた悪意に気づいていく──。愛していたはずの人を、本当に理解していただろうか。消えた妻の輪郭が、言葉のなかから浮かび上がる。
ミステリー小説ということで、感想文を書くのは最初のみという約束だった。しかし、気がついたら、全話読んでしまっていた。それほど先が気になる展開で、読まずにいられなかったのだ。
ここからは、ネタバレに考慮しながら感想を書いていく。
最初の序章では、誰かが水の中に沈んでいく様子が描かれている。沈んでいく中で、夏のある1日の思い出が切り取られている。どちらも、情景が思い浮かぶ様な描写で書かれているので、グイグイ引き込まれてしまった。この後、どんな物語になるのか興味が出て、思わず第1章をクリックしてしまった。
第1章。
主人公は寒川拓海。ある日、拓海の妻の澪が失踪したところから、物語が動き出す。最初、妻の誕生日なのに、つい子どもの嗜好を優先してケーキを選ぶって、よくあることだなと思っていた。しかし、拓海の態度や振る舞いに、だんだん腹が立つ自分がいた。ちゃんとパパ業をやっていると拓実は思い込んでいるかもしれないが、全然妻のことを思い遣っている様で思い遣っていないのだ。家事を軽くみている様子が、端々に感じられる。夫の家事への理解度が低いせいで、澪は家で結構苦しい生活をしていたのではないだろうかと思った。子どもを残してという所に引っかかったが、失踪の理由は拓海にあると思わせる展開だった。
ただ、第2章以降を読み進めると、そうとは限らないことがわかる。確かに、拓海と澪は喧嘩しない日が少ないほどすれ違っていたのは事実だ。でも、澪の失踪には、幾重にも理由が重なっている。丁寧に張りめぐされた伏線に、澪の本当の姿。拓海の知らないところで、澪はどんな生活を送っていたのか。そして、澪の失踪の理由とは。ぜひ、本編を読んで確認していただきたい。
個人的な見どころとして挙げたいのは、澪が拓海に知らせずにやっていた、あること。こういう背景を持っている人は、クリエイターさんの中にもたくさんいると思うので、共感する人が多い気がする。
あと、失踪した日の澪の足取りを辿る拓海の心情が変わっていくところも、見どころだ。こんな抽象的な言い方で申し訳ないのだけど、ネタバレになってしまうので、これ以上は言えない。
それと、第4章から出てくる人に対して、私は嫌悪感を抱いてしまった。その人からすると純粋な興味かもしれないけど、普通、そんなことまでやるだろうかと思わされる行動の数々に、背筋が凍りつく思いだった。この部分は、SNSの怖さも感じた。
澪を取り巻く悪意は、もしかしたら自分の身にも降りかかる可能性だってある。怖いと感じるが、自分も気をつけようと思った。
ラストは私個人としては納得のいく終わり方だった。
いろんな伏線が回収されて、中には「それも伏線だったの?」という物まであって、最後まで読みごたえ抜群だった。
ミステリーの感想文は難しかった。抽象的な表現が多いけど、それはすべて限界までネタバレを回避したかったから。この感想文を読んで、凛花さんの「透明なノイズ」を読もうと思ってくださった方が1人でもいてくれれば、うれしい。
