「人嫌い」が出会った濃密な4年間|創作大賞感想
アルロンさんの作品を読んだ。
アルロンさん渾身のこの作品は、こんな書き出しで始まる。
人間が、嫌いだった。
今のアルロンさんのnoteでの活動を見ている限り、アルロンさんと人間嫌いという言葉は結び付かない。だから、人間嫌いをどう克服していったのか、興味を引いた。冒頭のこの一文で、グイッと引き込まれた。
中学時代のいじめが原因で、人間不信に陥っていたアルロンさん。短期間ながら私もいじめに遭っていたことがあるので、人間不信にならざるを得なかったアルロンさんの状況には、読みながら心を痛めた。
それでもアルロンさんは、Kinki Kidsの堂本剛さんのドラマをきっかけに獣医師を志したおかげで、きっと暗黒だったであろう中学時代を乗り切った。夢を持つことは人を強くする。アルロンさんも夢の力に助けられたひとりなのだ。
ところが、高校の三者面談で獣医師の夢は潰えてしまった。私も学生時代に将来の夢を挫折した経験があるから、きっとショックが大きかっただろうと思って読み進めた。しかし、意外とアルロンさんのショックが大きくないことに正直驚いてしまった。「あらあら」と思わず声に出してしまった。でも、この箇所を読んで納得した。
僕は僕で「じゃあ同じ大学の畜産学部にします」と答えているのだから、挫折と呼ぶにはひどくあっけない。今思えば、本気でなりたかったわけではない気もする。「動物が好きだから」の一点張りで、なんとなくこの道を志した感はある。
好きと将来なりたいものは、一致するようで実は一致しない。早い時期に気づけて良かったのかもしれない。
大学の畜産学部に入学した後のエピソードが盛りだくさんだ。アルロンさんの濃い大学生活をのぞいた気持ちになった。
まず、寮生活のこの一文が、どうしても存在感が強い。
これから住むことになる自室の壁にいたっては、「4年=神、3年=貴族、2年=平民、1年=奴隷」というありがたーい数式がしかと刻まれていた。
平成後期に、まだこんな階級制度(?)が残っていたんだという驚いた。しかも、先輩の横暴さが信じられなくて、目が点になった。私の世代の体育会系ならあっただろうけど、アルロンさんの世代でもまだこんな理不尽なことがあったのかと思った。
あと、アルロンさんがダンスサークルに入っていたのも意外だった。キラキラのキャンパスライフを夢見て、というある意味よこしまな理由。そちらのほうでは、残念ながら花開かなかったようだ。でも、ダンスに苦労しながらでも面白さに目覚めたようで良かった。確かにダンスって気恥ずかしい面もあるけど、みんなと一緒に踊ると楽しい。私のダンス歴なんてほんのちょっとだけど、みんなでダンスを仕上げた時の達成感は素晴らしいものだったから、「踊る側も見る側も楽しくなるエンターテインメント」だというのも分かる気がした。
また、文学部だった私からすると、畜産学部の実習内容なんて全然想像がつかなかった。知らない世界の一部を垣間見れて、新鮮な気持ちになった。でも、衝撃的で一番印象に残ったエピソードは、やはり豚の屠殺。「最後はソーセージにしておいしくいただく」と書いてあるが、しばらくお肉食べられなくなるのも分かる。このシーンを読んだ後にわが家の冷凍庫に入っている食肉を思うと、心が少し痛む。こういうことをしてくれている人がいるからこそ、私たちは当たり前のようにおいしい食事にありつけていることを、あらためて認識させられた。
卒論のエピソードもすごい。担当教官が厳しいなんて、目を覆いたくなる。それでもアルロンさんはやり切った。餞別の言葉もいただけた。余計なひとことをのぞけば、うれしかっただろう。
これらの経験を、アルロンさんはちゃんと糧にした。私が同じ立場だったら、途中で心折れていただろう。それをアルロンさんはやり切った。4年間を乗り切ったからこそ、今のアルロンさんがある。人嫌いを克服して、「人も悪くないかも」と思えるようになったのは、きっと大きな収穫だったはずだ。
畜産学部でのあの4年間は、なにも得られなかったように見えて、たくさんの一期一会をくれた。その出会いの軌跡が、今の僕へと確かに続いている。夢は叶わなかったけれど、より大切なものを僕は手に入れた。
この部分が、輝いて見えた。
素晴らしいエッセイを読ませてくださり、感謝の気持ちでいっぱいになった。
