でも、愛し合うことだけが、どうしてもやめられない【プラネテス #名言ノート94】
今回紹介させていただく名言はこちら!!
でも、
愛し合うことだけが、
どうしてもやめられない
幸村誠先生による『プラネテス』という漫画からの一言です。

超名作マンガ『プラネテス』

プラネテスは私が一番好きな漫画です。全4巻と短いですが、これほどまでに『愛』について深いところまで掘り下げられている作品はなかなかないんじゃないかなと思います。
主人公ハチマキは20代中盤の青年ですが、一度は夢をかなえるために自分以外のすべてを拒絶するという愛とは正反対の修羅の道を選ぶことを決めます。しかし、それこそ『愛』という名前の女性との出会いを通じて、アタマではなく経験で『愛』とは何なのかを体験していくというストーリーになっています。
あらすじ

『プラネテス』は、幸村誠によるSF漫画で、2070年代の宇宙を舞台に、宇宙のゴミである「デブリ」を回収する仕事を巡る人間ドラマを描いています。
主人公の星野八郎太(通称ハチマキ)は、宇宙でデブリを回収するテクノーラ社デブリ課のサラリーマン宇宙飛行士です。いつか自分個人の宇宙船を持つことを夢見ていますが、日々の仕事と理想の狭間で葛藤しています。
宇宙開発が進み、人類が宇宙での生活を当たり前とするようになった時代が舞台ですが、そこで生きる人々は、地球上と同じように「愛憎」「差別」「戦争」「弱者と集団」「罪と罰」「神と愛」といった普遍的な問題に悩み苦しみます。様々な登場人物たちがそれぞれの人生や夢、葛藤を抱えながら生きていく群像劇でもあります。
ハチマキは当初、自分の宇宙船を持つという夢を追いかけますが、デブリ回収という地道な仕事を通して、そして様々な人との出会いと衝突を通して、人間として大きく成長していきます。特に、新人の田名部愛(タナベ)との出会いは、ハチマキの価値観に大きな影響を与えます。タナベは「愛」を信じ、皆と一緒だからこそ進めるという考えを持ち、ハチマキの「一人だからこそ突き進める」という考えと対立しながらも、お互いに影響を与え合います。

宇宙開発がもたらす光と影、人類の進むべき道、そして究極的には人間の存在意義といった深いテーマが描かれています。木星往還船のクルーを目指すハチマキの姿を通して、人類が未知の世界へ挑む意味や、その過程で何を得て何を失うのかといった問いも投げかけられます。
全4巻とコンパクトながらも、人生や社会、宇宙といった壮大なテーマを深く掘り下げた、濃密なSF作品として高い評価を受けています。
プラネテスのすごいところ

プラネテスのすごいところは『愛』とは何たるかを描き切っているところです。
主人公ハチマキの成長を軸に『愛』とは何なのかを掘り下げていく構成になっているのですが、その主人公の成長の描き方がそんじょそこらのエンタメ作品とは一線を画しています。
一般的に主人公の成長物語は、
目標を見つける(起)
一人で突っ走ろうとする(承)
挫折を経験する(転)
仲間や家族の大切さを知る(結)
といったような、いわゆる『起承転結』で描かれる構成になっているかとおもいます。ストーリーとしてもわかりやすいですしね。
しかし『プラネテス』は違います。
目標を見つける(起)
一人で突っ走ろうとする(承)
挫折を経験する(転)
仲間や家族の大切さを知る(結)
悟りすぎて結局生きてる意味が見いだせなくなり完全に無気力になる
『自分』が『好き』な人が誰なのかをはっきりと自覚する
独りではないから生きていけるんだということ結論に至る
といったように、1~4までの一般論から、さらに深いところまで潜っていって『じゃあ【自分】が生きている意味は何なんだろう』という問いに立ち返って、さらにはその答えを『愛』だという結論まで描き切っているところが唯一無二であると思います。
フツーの作品だったら1~4までの起承転結を描き切れているだけでも十分名作扱いされますからね・・・。しかも作者の幸村誠さんは、プラネテスがデビュー作だったのでここまで深いテーマを20代前半から連載した作品で描き切っています。
主人公ハチマキが『愛』に至るまでの過程

主人公のハチマキは宇宙空間で宇宙のゴミである「デブリ」を回収する仕事をしています。宇宙飛行士ではありますが、彼が生きる2070年代ではデブリ屋はどちらかというと肉体労働者の仕事という位置づけで、決して社会的地位は高いとは言えません。『就職するのにそこまで高い学歴は求められず、危険だけれども給料はいいガテン系の仕事』といった位置づけです。
スタート地点

ハチマキはもともと人生に目標はなく。宇宙に来たのもなんとなく・・・といった20代中盤に見られるような、ちょっとがさつだけども楽天的で気のいいあんちゃんみたいな人間でした。
実は父親が歴史に名を残すような超凄腕の宇宙船エンジニアというバックボーンはあるのですが、ハチマキは特に父親のこねなどは使わずに自分の身の丈に合ったデブリ屋という仕事で日々を過ごしていきます。
そんなハチマキにも転機が訪れます。ある日のデブリ屋の仕事中に事故が起きて、暗闇の宇宙空間で長時間遭難してしまいます。幸いにも遭難していた際に漂っていた場所が月の影になっていた場所で、太陽からの放射線を回避できていたので、身体への放射線の影響はゼロに等しかったのですが、長時間暗闇の宇宙空間を漂っていたために精神的に疾患を患ってしまうことになります。
ハチマキは宇宙空間での遭難という経験を通して『空間喪失症』になってしまいます。これはプラネテス作品内のオリジナルの症例です。
真っ暗な部屋でどの程度耐えることができるかというテストを実施した際に、もともと何時間も平気だったハチマキは、たったの数重病で過呼吸、動機、吐き気、耳鳴り、頭痛といったような肉体的に拒絶反応が出るようになってしまいました。

もちろんこんな状態では宇宙服を着て宇宙空間での船外活動など務まるはずもなく、ハチマキは強制的にリハビリという名の強制休暇を言い渡されることになります。
いままで宇宙空間で働くことが当たり前のようにできていたハチマキは、この経験を通して、自分は宇宙で何をやりたいのかということを強く意識するようになります。というよりは、これまでのハチマキの思考過程をみていると、どちらかというと『地球に帰らないための理由を無理やり宇宙に見出す・・・』ことを無意識にしているように見えます。
ハチマキは以前から冗談半分で『自分の宇宙船を持つ』ことを夢だと語っていました。しかし一介のジブリ屋では一生分の給料でもとても個人の宇宙船を持つなんてことはできません。例えば、工場で3交代勤務に従事する社会人が、いつか何千万もする自分専用の大型クルーザーを所有して、好きな時に好きな場所へ出かけたい・・・と言っているようなものでしょうか。
ハチマキ本人も自分の夢に対して現状があまりにも不釣り合いなことを自覚していて、宇宙船を持つという夢に対してそこまで真剣に考えてはいませんでした。
ただ、宇宙での遭難、そしてもう宇宙空間で働くことができなくなってしまうかもしれないという『空間喪失症』という試練を通して、ハチマキは己の夢を強く意識するようになります。
点火-IGNITION-

『空間喪失症』に関しては、ハチマキの同僚の気遣いによって全快のきっかけを得ます。漫画『プラネテス』では、2075年には核融合エンジンが実用化されており、さらに次世代の核融合エンジンとして「タンデムミラー核融合ロケットエンジン」が開発されているという設定になっています。ハチマキはこのエンジンに触れることで、理屈ではなく心で、自分の目指すべき道を見出します。
ハチマキは「タンデムミラー核融合ロケットエンジン」に直接触れるという経験を通して『空間喪失症』から回復したことをきっかけに、木星往還船のクルーに選ばれることを目指すようになります。
「タンデムミラー核融合ロケットエンジン」を積んだ木星往還船のクルーに選ばれれば、地球から木星へ行き、そして帰ってくるのに数年はかかります。クルーに選ばれれば一躍超有名人になります。数年がかりのミッションを無事に終えて地球に帰還すれば、破格の報酬と知名度が一気に手に入ります。つまり最終的には自分の宇宙船を持つことだって夢ではなくなります。
このロジックからハチマキは木星往還船のクルーに選ばれることを真剣に目指すようになります。トレーニングが嫌いだったのに休日でも筋トレやランニングマシンに熱中するようになり、同僚や友人との付き合いも意図的に疎遠にしていきます。
会話相手は『空間喪失症』を患ったときに自覚していらいずっと付きまとってくる『もう一人の自分の人格』のみです。夢に向かって突き進みつつも心はどんどん荒んでいく中でもう一人の自分に対して吐き捨てるように言ったセリフはとても印象的でした。

正直、10代や20代のころはプラネテスの中で一番好きなセリフはこれでした。そしてわたしも何もかも捨てて自分のために突き進むハチマキのようになりたいと思っていた時期がありました。若かったです・・・。笑
悟り期

木星往還船のクルーに選ばれるために様々なものを捨てていくハチマキはどんどん社会から孤立していきます。それでも己の夢のためと信じて進み続けるハチマキは、精神的にも肉体的にもどんどん追い詰められていきます。
あるタイミングで地球の実家に帰省することになったハチマキは、いつも通り自問自答を繰り返しながら夜の峠を自転車で下っていたところ、考え込みすぎて対向車線上を走ってしまっていたこともあり、反対車線にいたトラックと正面衝突しそうになり、そのまま海に投げ出されてしまいました。
そこで初めて『死』を実感したことで、この世界はすべてがつながっていることを直感的に理解します。

『死』を実感したことで宇宙とのつながりを己の中に見出したハチマキは、逆に無気力になってしまいます。『俺』が夢を達成するために何もかもを捨ててきたのに、『すべて』がつながっているのだとしたら、『俺』がどれだけ頑張ろうが手を抜こうが、『すべて』からしたら変わりはありません。
食べることすらおっくうになり、無精ひげもきにならず、どんどん憔悴しきっていきます。この時期には木星往還船のクルーに選ばれていたので、夢にどんどん地数いているはずなのですが、ハチマキのモチベーションは夢への近さとは反対にどん底まで落ちていました。
そんなハチマキを見かねた木星往還船のクルーの同僚から、『ピクニック』を勧められます。あまりにも変わってしまったハチマキに対して気分転換でもしたらどうかという気遣いですね。ハチマキはこれを承諾して、休日を利用して宇宙空間でのピクニックを実行します。
たった一日の日帰りピクニックだと仲間に言い残して出かけて行ったハチマキは、その後1週間だれとも会っていないことに周囲が気づき始めます。まさか!とおもってハチマキが出かけたピクニック先に向かうと、なんとハチマキは1週間も同じ場所で虚空を見つめ続けていたのでした。
「帰るよ!」と言われても、「帰る・・・?どこへ?どうやって・・・?」と答えるハチマキ。極まってますね。同僚や友人、もしくは家族がこんな状態になってしまったら、心配どころじゃすみません。心配を通り越して恐怖すら感じてしまうかもしれません。


そして愛

何も考えずに日々の仕事を過ごしていた時期
事故がきっかけで己の夢と向き合い他者を拒絶した時期
死と向き合うことで悟りに近づきながらも無気力になってしまった時期
これらの時期を通してハチマキは人生の目標を見失ってしまいます。そんなハチマキの心にふと思い出されるのが、ジブリや時代のかつての後輩である『田辺愛(タナベ)』でした。
タナベはハチマキに対して何から何まで対照的な存在として描かれています。夢や理屈よりもまずは『愛』を最優先にし、論理がどれだけ破綻していたとしても『愛』を説きます。
とはいえ宗教的な印象もなく、ただただ愛にすがっているのでもなく、『愛』が最も重要だと信じるからこそ、まっすぐ、迷いなく生きている姿がハチマキとは対照的です。
そもそも『プラネテス』のタイトル「プラネテス」は、古典ギリシア語で「惑う人」を意味する「πλάνης(プラネース)」の複数形「πλάνητες(プラネーテス)」に由来しています。この「惑う人々」という言葉が転じて、「惑星」を意味するようになったと言われています。英語の「planet(惑星)」も、このギリシア語が語源です。
「惑う人々」の話であり、そして宇宙のはなしでもあるため「惑星」の意味もある『プラネテス』というタイトルは非常に秀逸です。
そんな「惑う人々」のなかでもとくに惑っている代表格がハチマキです。そのハチマキとは対照的に、田辺は決して迷いません。『愛』がすべて!以上!というまっすぐで力強い生き方をしています。
当初、ハチマキはタナベが語る『愛』を雲散臭いものだと一蹴していました。愛で人が救えるのか?じゃあ今この場でやってみろよ。と挑発するセリフもありましたし、つねにタナベとは犬猿の仲のようなふるまいをしていました。
しかし、
何も考えずに日々の仕事を過ごしていた時期
事故がきっかけで己の夢と向き合い他者を拒絶した時期
死と向き合うことで悟りに近づきながらも無気力になってしまった時期
これらの時期すべてで、ハチマキの心のどかには常にタナベの存在がありました。ハチマキは惑いながらも『愛』の大切さをどこか無意識に認識していたんだと思います。だから田辺の存在を意識してしまう。
そんな二人が、物語の最終局面でついに分かり合い、そして家族になることを選択します・・・。

そして最後にハチマキがたどり着いた答えこそが、今回紹介させていただいている言葉でした。
でも、
愛し合うことだけが、
どうしてもやめられない

たった4巻という巻数で一人の人間の性情をここまで描き切っているプラネテスは本当に不朽の名作です。作者の幸村誠先生はとても優れた漫画家であると同時に、歴史に名を残してもいいレベルの哲学者だと思います。
若さゆえの暴走から悟りを得るまでのストーリーは巷に溢れていますが、さらにそこから踏み込んで『愛』とは何ぞやということを描き切っている作品は、名作と呼ばれる文学や哲学書でも早々達成できていません。

アニメ版も漫画版とは違った良さがあるので、どちらもおすすめです。個人的な解釈ですが、原作の漫画版は『愛』を主軸にしているのに対して、アニメ版はあくまでも『人間ドラマ』が主軸になっていると解釈しています。どっちもそれぞれいいんですけど、やっぱり私は原作の漫画の方が好きですね。
スタート地点、転換期、ゴールかと思ったら更なる問いへの始まり、そして愛・・・こんなに深い話はなかなかないと思います。ハチマキの『目』がストーリーを通してこれだけ変化するのにもうなずけます。

ちなみにひとつ前の記事で紹介した名言の出典である『ヴィンランド・サガ』の作者は『プラネテス』と同じ方です。『ヴィンランド・サガ』でも『目』で語る演出が至る所にちりばめられています。
もちろん原作もおすすめです!
アニメ版では原作の良さを生かしつつ、原作よりも多種多様な人間ドラマを描くことにフォーカスしている印象です。こちらも名作です
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