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蘭 9話 秋と彩度

 葉は黄色へ、茶色へと変わっていく。ふるりとふいに葉は落ち、僕の目にゆっくりと色を残す。風はすっと心地よくて、過ごしやすく一定の温度を空気の中に保つ。時に少し冷たすぎて、風を見上げる。秋は僕らに何かを感じさせるための時間だと思う。

 僕らの住む町の池の周りの木々は見事に赤色だった。でもだんだんとたしかに茶色に変わっていくんだということを思い出した。
僕らは池を囲う大きな公園を散歩していた。池に浮かぶボートをいくつかのカップルが静かに漕いでいる。水はたまに響くボートの櫂を回す心地いい音につられて静かに揺れる。僕らが歩く道は途中にベンチがポツン、ポツン、とおかれていて、たまに誰かがそこに座っているのをみかけたが、皆何をするでもなく微笑んでただ身をその場になじませて、目をつむって心地よさそうにしていた。蘭の横顔をみる、蘭は気がついて僕を見返した。

最近蘭は落ち着いた、深い静かな目をするようになった。そこには他人を責めるような色も、何かを恨むようなものがあるわけでもない。薄く細い笑みで僕を見る。すっとした、薄く水色がすけた透明な色が彼女を彩ってる。
蘭の薄いマフラーが風で揺れ、くるりとした髪が肩の下で揺れた。彼女はニット一枚とカーキ色のブーツカットのコーデュロイのパンツに、その薄く軽いマフラーを巻いていた。僕が学校の話をし始めれば蘭は愉快そうに笑って聞き、すこしクレイジーな発言をして僕を笑わせた。

「蘭の学校は?」
「うーん、何も。でも訓練になるから。そういうとこにいても自分でどうにかする、楽しかったって言えるようにするの。」と真剣な顔でいって得意げにしてみせる。僕は少し微笑んで、
「それは素敵に聞こえる。そういえば今度文化祭があるけど来る?」思い出してそういった。
「いいな、楽しそう。行ってみようかな。何するの?出し物とかやるんでしょう?いいなー」楽しそうな声が僕の耳を鳴らす。
「うんうちのクラス仲いいんだ、だからみんな張り切ってやると思うよ。」僕はうなずく。
「しゅんは楽しみじゃないの?」
「ちょっと楽しみ。みんないいやつなんだ、本当に。」蘭に聞かれて少しワクワクした感覚を覚え、蘭を振り向きそういった。蘭は僕の後ろを池に沿って歩いていた。
「居心地がいいんだね。行ってみるよ。」蘭はにっこりと笑っていた。蘭の学校は文化祭も体育祭も何もなかった。蘭が寄宿学校みたいなんだよ。と言っていた入学したばかりの時のことを思い出す。でもやることはやらないとな、死ぬほど狭くるっしくてもなんでも。とか言っていて、僕はそれを思い出して少し笑った。

「たまーに友達が蘭と少し似て見えるよ。」
「へー顔が?」蘭が僕を驚いたように見る。
「いや、キらッとした目をするときとか、反応とかかな。」
「反応?私の反応、自分じゃあわからない。」首をひねってそういった。
「素直なんだよ。表情が豊か。相手が引き込まれちゃうだろう?笑っちゃって、驚いて感情が動くだろう。」
「私の友達もそういう。でもそれ、みんなが素敵だからだよ。だからいっぱい反応したいことがたくさんで、表情がくるくる変わる。」前をみたままそう言った。
「それは蘭が素直だからだ。」ぼくは思うままにそう返す。
「そうかあ?素直だ。とか言われても、素直じゃない人なんてそんなにいるかな?っていうふうに思う、素直じゃない人に会ったことがない。」考えてみてから、困り果てたみたいな顔をした。
「いるよ。うーん、そうなるのを忘れちゃったっていう人もいるだろうし」蘭と会う前の自分を思い出しそう言った。
「あとは恥ずかしいって人もいるだろうな。」
「周りにいなさすぎるんだ、そういう人。そういう人がいても見ていないのかもしれないね。あのさ、素直じゃなくて、肝心なこと、どうしても言いたいこと、伝えなきゃだめなこと、それらを言えなかったらどうすんの?それってありえないじゃない。そしたらそのレベルの想いだったってことだと思う。」
「うん。」それはそうかもしれなかった。どこかで諦めてしまう。それを破るほどの衝動が起きなければ伝えないのなら、その程度のものだから。
「とにかく、だからちょっとそういう人の存在を信じられないんだ。会ったことがないから。」
「なかなか珍しいことじゃないかな。」
「そうか?んーー、知ったほうがいいことなら、後にわかるだろうね。」と蘭が言った。そうだねと僕は言い、蘭は僕に頷き返してから、団子を見つけたからと言い買いに行った。
僕らは座って団子を食べ、たけるについて話し、どんなところが似てるのか頭をひねって考えてみてくれというから僕は頭をひねって考えてみたりした。


 校庭では、出し物の為声を上げている生徒やダンス部の人が準備している様子が見えた。そろそろ門が開き外部の人が入ってくる時間で、蘭がそろそろ来るだろうから僕は門を見てなんとなく待っていた。
「しゅん何してんの?」とたけるがベランダに出てきて、僕の横に来て言った。
「んー蘭を待ってる。」
「ラン。誰それ、友達?」僕を覗き込む。
「うん。そうだよ。家が隣なんだ」
「えっそうなの?知らなかったな。幼馴染がいたんだね。」
「いや幼馴染じゃないよ。中学生の時に蘭越してきたもの。でもすごく気が合うんだ。」
「ふーんいいな、それ。俺も今日話せるかな。」といってたけるが笑った。
「うん。話せるだろう、ここにも来ると思うよ。」
「そっか。今もう見える?」
「んー、ああ、あれ蘭かも。」まだ来てないだろうなと思ってちらっと外をみたら、ネイビーと白のフード付きのパーカーにジーンズをはいてる蘭が周りを見渡している姿が見えた。
「蘭!」きょろきょろと周りを見渡した蘭がパッと上を向き、僕らのいる教室を見た。僕らがいるのは四階だから少し高くて、蘭がまぶしそうに眼を細める。僕が手を振ると、蘭が両手で大きく手を振り返した。僕は笑って、
「たけるに少し似てるんだよ。」といった。
「え?ほんとう?」と驚いて僕をみた。
「うん。凄く似てるところがあるんだ。」
「うーーんイメージできない。」首をかしげる。
「ちょっと行ってくるね、僕らカフェだから料理の準備したら、あとは何もしなくていんだよな。」
「うん、僕らは料理だけの担当だからね。ほぼ終わったしね、行ってきなよ。」
「ありがと。帰ったらすぐ手伝うから。残ったのでクッキーでも作ればいいかなって思うんだけど、どう思う。」教室への窓をあけながら尋ねる。
「あのレーズンのやつ?俺あれマジで好き。」たけるがしかめ面で言った。
「了解!」ぼくは笑って教室に入る。
「あ、しゅん何してんだ、お前。準備しろよ。そんな窓のとこで上から見物しちゃってさー。」
「お前本当にうるさい。」とたけるが窓から顔をのぞかせてげんなりしたように言う。
「あらたけるもいるの。何、なんかかわいい子いた?」
「あーー俺おまえ嫌いかも」たけるが叫ぶように下を向いてそう言っているのが見えた。僕は笑いながら教室のドアから出て蘭を探しにいった。

階段を下りながら探していると、何人かサッカー部のやつに会った。なにをしてるんだだの、出し物に出ろなどうるさいから逃げるようにして、走って降りていく。二回の階段を下りているタイミングで、蘭を見つけた。
「あ。」と蘭が言って、僕と目があう。
「よかった。探してたんだ。何したい?」ぼくは少し息が上がっていて、息を整えながら尋ねる。
「いや、特にないよ。学校、見てみたかったんだ。絵かざってるところあったからそこ見てみようかな。軽音部あるんだね。いいなあ。」と悔しそうな顔をする。
「僕のクラスにも来なよ。カフェだし、蘭の好きなクッキー作ることになったんだ。」
「ほんとう?でも面倒くさいことにならない?」
「うん。友達があれ好きでさ。ならないでしょ、すげーいい友達がいるんだ。あいつは絶対そんなことしないよ。大事ないくつかの人達が分ってくれてればいい。だろ?」と僕は言った。
「あはは。その通りだ。いいね、いい友達がいるんだね。クッキーが好きな子?」
「そう。あー、ちょっとだるいやつもいるかもしれないんだけど。」ハルのことを思い出してそういった。
「でもいいやつだし、しゅんは好きなんだ。」とまっすぐに僕を見て言う。
「うん。そうだな。」
「行ってみる。けど、いつ行こうか。」頷いてそういった蘭を混んできた階段から、ギャラリーの方に連れて行きながら僕は考える。
「あー、今からまだちょっと作るから、一時間後来なよ。お昼少し前の時間。そんなすげー混んではないでしょその頃。」
「おーけい分かった。じゃあまたね。」と言って、蘭がギャラリーの方に消えていく。入るまで見ていて、入ったなと思った瞬間ドアから手だけが出てきて僕に手を振った。僕は笑って、教室の方へ向かう上り階段を上った。


 教室のある廊下を歩いてると、僕の名前を呼ぶ声がした。
「村上くん。何をそんな笑ってるの?」横にならんで、同じクラスで学級委員の川瀬さんが尋ねる。
「え。僕笑ってた?」顔に手をやって尋ねる。
「うん。なんか面白いことでもあったのかなって。」
「いや、とくには」
「そっか。村上くん料理担当だっけ。朝たくさんお菓子作っていたよね、たけると。」
「そうそう。たける、お菓子作るのはそんな得意じゃなくてさ、めっちゃ一生けん命作ってたんだよ。でも若干イラついてるんだよ。分量とか計るの、面倒だって。」思い出して笑いながらそう言った。
「あはは、そうなの?なんか楽しそうに笑ってたから。こっちやることないから、みんな料理担当の人たちのとこいって、見てたんだよ。」
「あ、そうなの?気がつかなかったな。ハルが入って来て俺もやるっていうからやらせたら意外とうまくてびっくりしてさ、教えるのに必死だったの。」
「ハル妹かお姉ちゃんがいるから、その影響でなんかよく作ってたらしいよ。」
「ああ、そうなの。」ぼくはなるほど、と思ってうなずいた。

調理室に入って、たけるのいる机を探す。もう開店が近づいているから、受付係も混じってごっちゃになって準備していた。たけるに声をかけると、分量計りに奮闘していたたけるが振り返った。
「おお、しゅん!クッキーの分量、量ってた。」指についた砂糖をなめながら言う。
「ん。さんきゅ。とっとと終わらせようぜ。僕ランチのメニューいろいろ確認しなきゃみたい。」
「うん、だよな。これ、腹立つ。」うなずいて、今度はヘラをかき混ぜながら、たけるが言った。
「ハルにやらせよう。ハル、出番だぞ。」
「任せなさい。いつも涼しい風吹かせてるたけるが、イラついてるところなんて見せられないからね。」と言って、腕まくりをして得意げにやってきた。
「クソ。腹立つ。」と言いながら、たけるは素直にハルにヘラを渡した。ハルと僕でクッキーの生地を完成させて、たけるはレーズンとかをトッピングした。それが終わりスープやカレーの準備をしている班のもとへいって仕上げを手伝っているうちに、開店の時間になった。受付係が意気揚々と宣伝のために外に飛び出て宣伝を始めた。思っているより人がたくさん来て、みんな驚きながらもあわただしく準備を始めた。
 
 
 オーダーが一通り済みキッチンが準備を始め、少しずつクッキーとかケーキとかのカフェメニューから先に提供されていく。そのころ、蘭が開け放たれているドアから入ってきた。
「いらっしゃいませー」と言い席に案内するクラスメイトの隣に行って、蘭の席に一緒に座った。
「しゅん、なんだか落ち着かないよ。」しゅんだって働かなきゃでしょ?とか言いながら周りを見渡す。
「ただのクラスじゃないか。同い年の。」ぼくはあきれて言う。
「みんな自分たちの会話に夢中だよ。それか働いてる。」ぼくはクラスメイトが、オーダーを取ったり、ランチメニューを提供したりしているのを指さして言った。
「そうなんだよね、なんか慣れなくて。しゅんの好きな友達は今いるの?」
「いや一人は休憩言ってて、もう一人は宣伝に言ってるよ。午後の方が混むだろうから。」
「そっか。お腹すいたんだ、何か食べるね。オムライスあるの?」
「ないよ蘭。オムライスを文化祭で出すの、無理があるだろう?」蘭がカレーを好きじゃないのを知っているから、僕はカフェメニューを引っ張って開いた。
「じゃあクッキー食べる。もう帰るから近くで何か食べて帰るよ。」と言ってから、僕にオーダーお願いしますと言った。

僕は隣の調理室へ行き、クッキーとアイスティーをもって戻る。教室に入ると蘭が窓の外を見ている姿が、ものすごく静かで大人びて見えた。ぼくはなぜか悲しくなって、蘭の名前を呼んだ。
「なに?」驚いた蘭が振り返って言った。
「いや。なんだろう」
「なんだそれ。クッキー!」僕の運ぶクッキーののった皿をみて蘭が笑う。
「いっぱい食べなさい。いくらでも盗んできてやる。」ぼくは椅子にまたがるように座って、真顔で言う。
「私そんなガキじゃない」顔をクシャっとして僕を見てから、レーズンが多いクッキーを探した。
「おいしいーー私が作ってもこうならないんだけどね。しゅんまた家で作るでしょ?こんなにもってきてくれたのか?」
「だって蘭好きじゃないか。」
「うん、そうだけど。ありがとう。オムライスも楽しみー」といってイヒヒと笑う。表情のコロコロ変わるやつだと今更ながら思い、僕はハイハイと話を聞く。
「絵はどうだった」ぼくはふと気になって聞いた。
「うん、すごくよかった。一つすごい好きな写真があってさ。」クッキーを食べる手をとめ、紅茶を飲んでから言う。目がキラッとひかった。
「誰だったかな、すごくよかった。」ハッとしたように目を開いて、幸福そうに笑って言った。その瞬間のことを思い出したみたいに。
「みててすっと、何かが心にのこった。豪華な感じとか、すごい愉快な感じとかそういうことじゃないんだよ。ただすごく惹かれる感じがして。すごく明るい感じとかでもないんだ。すこし不思議な、私の知らないあたたかみ、そんなのがあるって想像したこともないようなね、そんなあたたかみがそこにあったの。なにか気がついてないような、忘れていたみたいなものがその写真の中にあったの。」蘭が懐かしい良いものをみているような顔をする。それはとても柔らかく良い表情だった。
「そう、僕もあとで見に行ってみる。」蘭のクッキーをつまみながら言う。
「うん。すごくよかった、見れて。」
「へえ、だれなんだろうな。」
「うーん、ちょっと気になるなー。」といって蘭が楽しそうに笑った。


 



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