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RSPOが「不完全な最善解」である理由:パーム油問題の構造と進化する国際基準

私たちの身の回りにある多くの製品、チョコレート、ポテトチップス、シャンプー、洗剤に至るまで、驚くほど多種多様なものにパーム油が使われている。

その理由は、パーム油が非常に効率的で、安価に生産できる植物油だからだ。

世界の植物油の需要が急増する中、パーム油は不可欠な存在となった。

しかし、この植物油には暗い側面があった。

需要の急増に応えるため、パーム油の原料となるアブラヤシのプランテーションは急速に拡大した。

結果として、特にインドネシアやマレーシアといった主要生産国では、熱帯雨林が大規模に伐採され、オランウータンやスマトラゾウなどの貴重な野生生物の生息地が失われた

泥炭地での開発は大量の二酸化炭素を排出し、気候変動を加速させる要因にもなったのだ。

また、プランテーション開発の過程で、先住民族の土地の権利侵害や、過酷な労働環境といった社会問題も深刻化した。


立ち上がった円卓会議

深刻化する環境破壊と社会問題に対する国際的な懸念が高まる中、「このままではいけない」という強い危機感を持った人々が立ち上がった。

その結果、2004年にパーム油に関わる多様な利害関係者が一堂に会し、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil / 持続可能なパーム油のための円卓会議)が設立されたのである。

RSPOの目的はただ一つ。

「パーム油を持続可能な形で生産・利用するための世界的な基準と仕組み」

を確立することである。

その最大の強みは、その多角的なメンバー構成にある。

加盟組織は、以下の7つのセクターに分類され、互いに監視し、協調しながら基準の実効性を高めている。

  1. パーム油生産者(アブラヤシ・プランテーション運営企業)

  2. パーム油加工業者・トレーダー(商社、精製業者)

  3. 消費財製造業者(食品、日用品メーカー)

  4. 小売業者(スーパーマーケットなど)

  5. 銀行・投資家(金融機関)

  6. 環境NGO(WWF、グリーンピースなど)

  7. 社会開発NGO(労働者、人権団体など)

ユニリーバ、ネスレ、P&Gといった世界的企業が多数加盟し、認証油の需要を牽引している。

(昨今、この手の巨大グローバル企業の名前を挙げるとかえって不信感を持たれる場合も多いので念のため補足すると、ドクターブロナー、The Body Shop、イヴ・ロシェといった有名エシカルブランドも加盟している)

日本国内でも、サラヤ、不二製油、三井物産、日清食品、ポーラなど、多くの企業がRSPOに参加し、認証油の利用促進のための連携組織であるJaSPON(日本サステナブルパーム油プラットフォーム)を通じて活動を加速させている。

これらの様々な団体や企業が、それぞれの立場で、「認証された油を使おう」「普及させよう」と約束(コミット)することで、RSPOが目指す「持続的に環境が守られる仕組み」が、実際に市場で力を持つようになるのだ。

RSPOの核となる基準(P&C)と絶えざる改善

RSPOの活動の中核は、持続可能なパーム油(CSPO)を保証するための厳格な認証システムである。

この認証の根幹を成すのが「原則と基準(P&C)」であり、これは「環境保護」と「社会的な公正」という二つの柱から成り立っている。

■環境保護の徹底

RSPOの基準は、過去のパーム油生産が引き起こした問題を解決することを目的としている。

環境面では、特に生物多様性が高い「高保護価値(HCV)」エリアや、炭素貯留量の多い「高炭素貯留(HCS)」エリア、そして「泥炭地」における新規開発を厳しく禁止している。

これにより、重要な生態系と気候変動対策の要である炭素を保全している。

■社会的な公正

社会的な側面では、人権と地域社会の権利尊重を徹底している。

農園や搾油工場で働く人々の公正な労働条件を確保するほか、地域住民に対しては、開発計画に関する十分な情報を提供し、自由意思による事前の情報に基づいた同意(FPIC)を得ることを義務付けている。

特に、先住民族や地域コミュニティの土地の権利の尊重は、この認証において最も重視される要素の一つである。

この基準は作って終わりではなく、常に改善が求められる。

RSPOは、外部からのグリーンウォッシング実効性の問題といった批判を真摯に受け止め、定期的なP&Cの改定を通じて基準を強化している。

例えば、2018年の改定では「森林破壊ゼロ」のコミットメントを明確化し、監査の厳格化を進めた。

このような外部からの意見を取り入れ、基準を絶えず高めていく自浄作用こそが、RSPOの認証システムの信頼性を維持する鍵となっているのである。

認証の信頼性を支える多層的なサプライチェーンモデル

RSPOの認証は、生産段階の認証(P&C認証)に加え、製造・加工・流通過程の組織を対象としたサプライチェーン認証(SC認証)によって担保される。

パーム油の複雑な流通経路を管理するため、SC認証には厳格性に応じた4つのモデルが存在する。

  1. アイデンティティ・プリザーブド (IP:分別保持):認証された単一の農園からの油と、他の油を完全に分離して流通する。最もトレーサビリティが高い。

  2. セグリゲーション (SG:分別):認証農園からの油のみを、非認証油と分離して流通する。IPに次いで信頼性が高い。

  3. マス・バランス (MB:混合管理):認証油と非認証油が流通過程で混合されることが許容される。ただし、認証油の帳簿上の数量は厳密に管理され、市場への供給総量を増やす役割を担う。

  4. ブック・アンド・クレーム (B&C:クレジット):物理的な油の移動を伴わず、認証油のクレジット(証券)をオンラインで取引することで、遠隔地の生産者を支援する。

マス・バランス(MB)モデルは、認証油と非認証油を混ぜて流通させても良い、というルールであるため、パーム油を安く流通させて市場を広げる助けになる。

一方で、消費者の手元に届く製品には物理的には認証されていない油が含まれている可能性があるため、批判の対象となることも多い。

しかし、この柔軟なモデルが、認証油の市場での流通量拡大に大きく貢献しているのも事実である。

小規模農家と市場の責任の深化

パーム油産業における小規模農家の存在は、RSPOが取り組むべき課題の核心をなしている。

彼らの経済的・社会的な包摂が不可欠であることは、具体的な数字を見れば明らかだ。

まず、世界のパーム油総生産量の約40%を、約300万人の小規模農家が担っている。

これらの生産者の圧倒的多数は、世界のパーム油供給の約85%を占めるインドネシアとマレーシアに集中しているのである。

特に、世界最大の生産国であるインドネシアにおける小規模農家の比重は極めて高い。

インドネシアのパーム油農園の総面積のうち、小規模農家が所有または管理する農地は40%以上を占め、これに関わる農家は数百万世帯に上ると推定されている。

この莫大な数の農家こそが、貧困、低収量、そして非持続的な農法に起因する森林破壊といった問題が起きている現場の最前線である。

一方、第2位の生産国であるマレーシアでも、生産面積に占める小規模農園の割合は2020年時点で16.7%に達しており、依然として重要な生産基盤を形成している。

これらの数字が示すのは、RSPOが掲げる「持続可能な生産」という目標は、約300万人という圧倒的な数の生産者を無視しては達成し得ないという事実である。

環境基準の遵守を求めるだけでなく、彼らに持続可能な農法への技術支援や経済的な利益を確実に提供し、システム全体に組み込むことが、RSPOの信頼性と実効性を高める上で極めて重要となるのである。


小規模農家が直面する壁:認証への道のり


パーム油生産の現場を支える多くの小規模農家は、以下のような課題により、認証取得に必要な技術や資金、ノウハウが決定的に不足している。

  • 資金の壁: 認証取得には、監査費用や、環境基準を満たすための排水処理設備、廃棄物管理システムの導入が必要となるが、その初期投資をまかなう資金力がない。

  • 技術の壁: 森林保護区の設定、土壌・水質管理、農薬の適正利用といったRSPOの基準は、最新の農業技術や厳格な記録管理を要求する。組織化されていない小規模農家にとって、これらは大きな技術的障壁となる。

  • 組織化の壁: 個々の農家がバラバラに認証申請しても、監査コストが高くなりすぎるため、彼らは「グループ」として組織化する必要がある。しかし、そのためのリーダーシップやマネジメント能力の育成が困難である。


RSPOの戦略:IS認証と能力開発支援


この状況を変えるため、RSPOは、小規模農家にもルールを守って生産してもらうことを、重要戦略として進めている。

RSPOは、「独立小規模農家」向けの認証基準を設け、彼らが認証を取得しやすいよう、大規模農園とは異なる柔軟なアプローチを導入した。

  • 手続きの簡素化: 大規模プランテーション向けの複雑な文書作成や監査要件を、小規模農家グループの実態に合わせて簡素化し、費用負担を軽減する措置を講じている。

  • グループ認証と能力開発: RSPOは、地域NGOや行政と連携し、小規模農家が共通のマネジメントシステムを持つ「グループ認証」の形成を強力に支援している。これにより、監査コストの分担を可能にし、同時に、持続可能な農業技術や環境管理に関する集中的なトレーニングを提供している。


認証参画がもたらす「二重の意義」


小規模農家がRSPO認証に参加することは、貧困問題の解決違法伐採の抑止という二重の意義を持つ。

  1. 経済的安定(貧困問題の解決): 認証を取得した小規模農家は、より高い価格で認証油(CSPO)を販売できる市場へのアクセスを得るか、あるいは「RSPOクレジット」を販売することで安定した収入源を確保できる。これは、彼らの生活水準を向上させ、持続的な生産へのインセンティブとなる。

  2. 森林保護の最前線: 組織化され、認証基準に縛られた小規模農家は、無規制な生産を行う農家とは一線を画す。彼らが土地利用計画と環境基準を遵守することは、結果として無計画な森林伐採や違法な泥炭地開発への抑止力として機能する。認証油市場の拡大は、貧困層を支援しながら環境保護も達成する、「持続可能な開発」の理想的なモデルの一つなのである。

RSPOが直面する最大の課題の一つは、小規模農家の参画拡大である。

パーム油生産の現場を支える多くの小規模農家は、認証取得に必要な技術や資金、ノウハウが不足している。

RSPOは、「独立小規模農家」向けの認証基準を設け、彼らが認証を取得しやすいよう手続きを簡素化し、技術支援を強化している。

小規模農家の生産性が向上し、認証に参加することは、貧困問題の解決と違法伐採の抑止という二重の意義を持つ。

RSPOに対する批判と私の見解

RSPOは、環境破壊や社会問題への対応を巡り、常に厳しい批判に直面している。

その批判は、RSPOが目指す理想と現実とのギャップを指摘するものであり、傾聴に値する。

しかし、世界規模の持続可能性の課題を評価する際、「絶対的な完全性」を唯一の尺度とする姿勢は、現実の構造的な課題から目を背けた議論に他ならない。


「RSPOは不完全だ。基準が理想に達していない」


RSPOが「不完全である」という点に関しては私も同意見だ。

しかし、いま不完全であるかどうかは、本質的には問題ではない。

問題を認識し、理想に向かって改善し続けているかどうかが重要なのだ。

パーム油による熱帯林破壊や人権侵害といった問題が世界中で認識され、行動が始まったのは、2000年代に入ってからである。

初めて対峙する問題に対して、誰もが手探り状態で、試行錯誤を繰り返しながら制度をつくってきたのだ。

いまRSPOを批判している人たちですら、それ以前はパーム油問題を認識していなかったし、有効な解決策を知らなかったはずだ。

設立当初から、完璧な解決策を期待することは、極めて非現実的な要求である。

なによりRSPOは、環境NGO、生産者、サプライヤー、消費者など、立場が異なる多様な利害関係者が、激しい議論と葛藤の末に生み出したプラットフォームである。

全ての利害関係者が100%満足できる提案をすることなど不可能だ。

それでも各々が60%くらいは納得できるような妥協点を見出しながら、少しずつ利害を調整していくしかないのだ。

これまでRSPOは、外部からの批判や最新の科学的知見を基に、粘り強く基準の改定を実行してきた。

特に、環境負荷の大きい泥炭地における新規開発の原則禁止にまで踏み込んだ規制強化は、初期の基準から見れば明確な進歩を示している。

私はこれまで、RSPOに対する数多くの批判を見聞きしてきたが、正直に言ってRSPOよりも実効性が高く、より多くの当事者が受け入れられる「実現可能性のある代替案」を一度も見たことがない

正直に言って、これまで見聞きしたことのあるRSPO以外の提案はどれも

「アナタはその案を受け入れられても、他の人たちは受け入れられるの?

と感じるものばかりだった。

世界には2000万ヘクタールを超えるアブラヤシ農園があり、数百万人規模の人たちが、パーム油という産業に関わっている。

パーム油は様々な利害関係者たちが入り混じるからこそ、解決が難しい問題なのだ。

自分だけが納得できる解決策は、パーム油問題の解決策とは言えない。

一人でも多くの人を巻き込める代替案でなければ、一本でも多くの木を伐採から守ることはできない。

たしかにRSPOは不完全な解決策かもしれない。

しかし、世界経済に不可欠なパーム油に対して、最低限の透明性と持続可能性を国際的に担保できる、現存する最も現実的かつベターなアプローチであると言わざるを得ない。


「認証農園でも森林伐採が行われるなど、基準の遵守が不十分だ」


RSPOは度々、認証されているはずの農園で不正な森林伐採が行われた事例がある、という指摘を受けてきた。

だが、この批判の焦点は、「なぜそれが公にされたのか?」という点にあるべきだ。

違法な森林伐採は、認証農園であれ、非認証農園であれ、起こりうる問題だ。

人間が関わる生産活動である以上、不正や規範逸脱のリスクは避けられない。

しかし、非認証のパーム油生産だと、違法伐採が行われても、その場所、規模、責任の所在は特定することが極めて難しい

一方、認証農園で不適切な活動が発覚し、問題視されるのは、RSPOが定めた厳格な監視システムが機能していることの証左である。

この監視システムは、独立した第三者機関による定期的な監査と、NGOや地域住民が利用できる透明性の高い苦情・申し立てメカニズムによって構成されている。

認証制度がなければ、これらの不正行為は隠蔽され続ける可能性が高い。

さらに、違反が確認された場合、RSPOは認証の一時停止、または取り消しという厳しい懲罰的措置を講じる。

この監視、開示、懲罰のメカニズムは、企業に対し基準遵守を強く促す強力な抑止力として機能しており、他の植物油の生産には見られない構造的な利点である。

RSPOに対する批判は、しばしば「非認証油だったらどうなる?」という本質的な視点を欠いている。

RSPOに対する評価を「絶対評価」(理想と比べてどうか)に終始しているうちは、その真価を捉えることはできない。

RSPOが非認証油よりも事態を悪化させているのなら明確に非難されるべきであるが、非認証油と比較した「相対評価」において、少なからず状況が改善されているのなら、それはベターな選択なのだ。

不正を明るみに出す仕組みの存在そのものが、認証制度の真の価値であることを、私たちは理解する必要がある。


「マスバランス(MB)は認証油と非認証油を混ぜるため問題だ。規制を厳しくすべきだ」


MB(マスバランス)方式は、認証油を比較的安価かつ柔軟に調達したい企業にとって最も使いやすい仕組みである。

この仕組みがあることで、より多くの企業がRSPO認証油の購入を始めやすくなる。

一方、MBは、認証油と非認証油の混合を許容する点で、「グリーンウォッシュに繋がる」という批判を招きやすい。

(グリーンウォッシュ:企業が実際には環境保護に貢献していないにもかかわらず、自社の製品やサービス、あるいは企業活動全体が環境に配慮しているように見せかける行為)

しかし、グローバルなサプライチェーン全体でこの分離を徹底するには、莫大なコストと物流インフラへの投資が必要となる。

ここで求められるのは、厳格さと普及性の戦略的なバランスである。

規制を厳格化しすぎれば、RSPO認証パーム油は一部の企業しか利用できない高コストな製品となり、市場への影響力は低下する。

その結果、残りの非認証市場では、無規制な生産が加速し、かえって広範な環境破壊を招く。

MBは、企業だけではなく、小規模農家にとっても恩恵がある。

多くの企業がMB方式で認証油を調達することで、小規模農家が苦しんでいた「認証しても買い手がつかない油」が減る。

これは、小規模農家が「認証を取得すれば報われる」という安心感とインセンティブにつながる。

  1. 参入障壁を高くして認証油を減らす

  2. 参入障壁を低くして認証油を増やす

1と2では、どちらの方が、結果的に森林伐採の合計面積を減らすことに繋がるだろう?

RSPOは、MBという現実的な落としどころを設けることで、認証パーム油の流通量を最大化し、市場全体を持続可能性への移行へと導くことを優先している。

これは、実効性を高めるための合理的な選択であると言える。

繰り返しにはなるが、私たちは、RSPOに対する評価を「絶対評価」(森林伐採ゼロ)に終始していては、問題解決に近づくことはできない。

認識すべきは、全てが非認証油だったときの森林伐採面積と、RSPOを普及させることで減らせる森林伐採面積との比較(相対評価)こそが、真の進捗を示す指標であるということだ。


「RSPOはグリーンウォッシュの道具だ。ドキュメンタリー映画で批判されている」


私はパーム油問題を積極的に発信しており、RSPOに対して批判的な考えを持つ人と交流することも多いのだが、批判の根拠として、特定のドキュメンタリー作品が提示されることが少なくない。

中でも『グリーン・ライ 〜エコの嘘〜』というドキュメンタリー映画が有名だ。

企業が環境に配慮していると謳いながら、実際には環境破壊を続けている「グリーンウォッシング」を暴くという内容だ。

そしてパーム油産業とRSPOはその主要な事例の一つとして取り上げられている。

たしかにドキュメンタリー作品は世論を喚起する上で重要な役割を果たすものの、あくまで「製作者の主張を伝えるための作品」であることを、理解する必要がある。

この手の「不正を暴く」系のドキュメンタリー作品は、海外では批判の声も多い。

  • 取材方法が極めて強引

  • 自分たちの主張にとって都合の良い専門家の取材だけを見せる「チェリーピッキング」

  • 特定の団体の主義主張を宣伝するためだけに作られたプロパガンダ

という批判も数多く存在する。

そしてグリーン・ライでは、RSPOの問題点を徹底的に追求する一方で、「認証制度がなければ事態はさらに悪化していた」という側面や、「RSPOの改善に向けた努力」が意図的に省略されている。

信頼できない組織だというメッセージ性が薄まってしまうからだろう。

グリーンライの主要なメッセージは、「購買行動を通じて世界を救うことはできない」という点にある。

作品は、企業が提供するあらゆる「グリーン製品」や「フェアな生産プロセス」を基本的に疑いの目で見ており、消費者の選択の力を過度に否定しているという批判がある。

また、共同制作者の一人が著名な環境専門家であるにもかかわらず、作品が特定のイデオロギー(例:消費者行動ではなく政策や社会構造の変革が唯一の解決策であるという立場)に偏りすぎているという批判がある。

なにより、こうしたドキュメンタリー作品は、現行制度を疑問視する割には、「では、他にどのような代替案があるのか?」という建設的な提言を全くしていない

グリーン・ライでは視聴者に対して「大量消費からの脱却」を提言しているが、この手の作品を見る人たちはそもそも環境意識の高い人たちだという視点が欠けている。

実際、類似のテーマを扱う他の作品(例:ブライト・グリーン・ライズ)の論評に見られるように、環境問題への取り組みや、大量消費への批判は、富裕層・中間層の考え方に偏りがちで、貧しい人々が抱える切実な問題や、経済的な立場の違いについて考慮されていない、という指摘がある。

環境問題を解決するうえで、行動変容を促していきたいのは、むしろ「無関心な人たち」「行動できない人たち」ではないだろうか?

そうした人たちに「大量消費からの脱却」という理想論を提案して、彼らは本当にライフスタイルを変えてくれるだろうか?

そんなことが可能なら、気候変動はとっくに解決しているはずだ。

「今日からポテトチップスを食べるのをやめなさい」と言われても、無関心層は簡単に受け入れることなどできないのだ。

彼らにとっては「ポテトチップスをやめなさい」と言われるよりも「認証のあるポテトチップスを選ぼう」という提案の方が受け入れやすいのだ。

パーム油問題は、「自分が納得できる解決策」ではなく「みんなが納得できる解決策」でないと、有効なアプローチとは言えないことを、改めて強調させて頂きたい。

そして客観的な判断を下すためには、ドキュメンタリー作品をあくまで一つの「作品」、すなわち特定のメッセージを持つクリエイティブな表現として捉える必要がある。

批判的思考の基本は、単一の情報源に依拠することではない。

学術機関や公的機関、複数の国際NGO、そして相反する意見を持つ団体など、信頼性の高い情報源を意図的に多角的に検証する姿勢こそが、複雑なサステナビリティ問題の本質を見抜く鍵となる。


「森林泥炭の破壊を完全禁止する動きをとっていない」


ナチュラルコスメブランドのLUSHなどが過去に提起したこの批判は、RSPOが設立当初から2018年以前にかけて、泥炭地などに対する開発規制が不十分であったという歴史的事実に基づいている。

かつての基準は、一部の開発を許容する余地を残していたため、「破壊を黙認している」という批判を受ける構造にあった。

しかし、この批判は、現行のRSPO基準に対する評価として、完全に過去のものとなっている。

RSPOは、外部からの圧力、科学的知見の蓄積、そしてステークホルダーからの強い要請を受け、2018年に基準の抜本的な改定を行った。

この改定の核心は、森林破壊ゼロ(No Deforestation)と泥炭地新規開発ゼロ(No Peat)の原則を明確に組み込んだ点にある。

具体的には、2018年11月以降に改定された原則・基準(P&C)において、以下の点が義務付けられた。

  • 新規植林のための泥炭地の準備、植栽は禁止:深さに関わらず、すべての泥炭地における新規開発を原則として禁止した。

  • 既存の森林伐採の禁止:高保護価値(HCV)地域および高炭素貯留(HCS)地域におけるすべての新規伐採を禁止した。

この改定により、RSPOは、過去の批判の対象であった「破壊の許容」という曖昧さを払拭し、「泥炭地の完全保護」という最も厳格な水準に自己の基準を引き上げた。

重要なのは、批判の指摘を真摯に受け止め、それを乗り越えて進化するRSPOの枠組みそのものの実効性である。

歴史的責任と、先進国が果たすべき真の行動

何よりも訴えたいのは、現在東南アジアで引き起こされている森林破壊の根源は、日本や欧米をはじめとする先進国の飽くなき経済的需要に他ならない、という点である。

歴史を振り返れば、1900年代に先進国で自動車産業が勃興したことで天然ゴムの需要が急増し、東南アジアに広大な農園を築かせた。

そして1990年代以降、先進国でのスナック菓子やインスタントラーメンの需要爆発が、その土地を今度はパーム油の畑へと移行させたのだ。

先進国側の都合で資源を収奪し、利用し尽くした歴史を経て、2015年にSDGsが採択されたからといって、再び先進国の論理だけで「パーム油をやめよう」と一方的に宣告するだけで良いのだろうか。

東南アジアで農業を営む人々の切実な声に耳を傾けなくて良いのだろうか。


安易な「代替油への切り替え」は責任放棄に等しい


先進国が最大限の利便性を享受し、自然資源を奪うだけ奪った後に、「環境破壊に繋がるパーム油は使わない」「他の地域で代替油を生産する」と一方的に宣言する行為は、責任の放棄に等しい振る舞いである。

これまで使っていたパーム油に問題があることが分かり、「パーム油はやめてココナッツオイルに変えました」と発信すれば、企業イメージの維持には繋がるかもしれないが、パーム油問題の根本的な解決には寄与しない

先進国の企業には「他の地域の油に変える」という選択が容易にできるが、東南アジアで油を生産している農家の人たちには、その地に根差し、生業(なりわい)を続けるという選択肢しかないのだ。

東南アジアの自然資源を活用させてもらっていたのなら、その国の人たちに報い、共に問題を解決しようと努めるのが、先進国の企業に問われるべき倫理の在り方ではないだろうか。


構造的な問題への関与こそが真の責任


この思考の根源にある構造的な問題に本質的に向き合わなければ、油の生産地が変わるだけで、同様の問題が永遠に繰り返されるだけだ。

私たちは、問題に背を向けるのではなく、RSPOなどの枠組みを通じて内部から深く関与し、生産現場の改善を能動的に促すことこそが、先進国が果たすべき真の責任ある行動だと確信する。

不完全さを内包する「未完成のプロジェクト」

この複雑な地球規模の課題を解決する糸口は、あらゆる利害関係者(ステークホルダー)が同じ席につき、議論を交わし、合意形成を目指す以外にない。

議論の席から離脱し、「自分たちの方法で解決します」と宣言することは、パーム油問題の本質的な解決を放棄するに等しい。

私たちは、RSPOが「完成された解答」ではなく、「持続可能性という巨大な目標へ向かう、現時点での最も現実的なツール」であることを、まず理解する必要がある。

そして完全無欠な認証システムを要求し、それを理由に現存する最良の枠組みを否定することは、結果として無規制な非認証市場を利することにつながり、それは熱帯林破壊という課題から手を引くことを意味する。

RSPOは、国、企業、NGO、そして数百万の農家が参加する「未完成のプロジェクト」なのだ。

持続可能性の実現は、RSPOという組織単独の責任ではない。

もちろん批判はあって然るべきだが、「批判のための批判」で終わらせるのではなく、建設的な提言へと昇華させる責任を負う。

そして消費者や企業は、RSPO認証製品を選択し、市場を通じて認証パーム油の需要と価値を高めるという、最も直接的な責任を負う。

その不完全さを嘆くのではなく、その改善と強化に、私たち一人ひとりが「変革の担い手」として関与し続けることこそが、持続可能な未来への最も確実な一歩となる。


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