「マネーフォワード総合研究所」を始めます
本日、2025年10月1日より、これまで約10年間活動してきた「マネーフォワードFintech研究所」の名称を「マネーフォワード総合研究所」へと改め、これまでのFintechを中心とした発信に加えて、マネーフォワードならではのデータを活用した発信や社会貢献など、より幅広い活動へと踏み出すことにしました。
これまでの活動を振り返りながら、その狙いについてお伝えできればと思います。
1.Fintech研究所の10年間で見えたこと
2015年7月に、マネーフォワードFintech研究所は設立されました。
研究所の設立意図は、こう記載しています。
実務的・社会的な関心によりお応えし、Fintech に関る整理された情報提供を行うとともに、企業と金融機関や官公庁、専門家との実務的な接点を拡げる取り組みを進めるべく、この度、『マネーフォワード Fintech 研究所』を設立いたします。
この設立当時、私は複数の葛藤を抱えていました。上場前、いわゆるN-2期でまだこれから収益性を実現するべき会社にとり、無駄な活動だと思われないか。エンジニアでもなく、研究者としても中途半端だった自分が、新しい技術について研究者を名乗ってもよいのか。大きな主語のテーマを、個社のレベルで名乗ってよいのか。そもそもFintechは重要テーマと思ってもらえるのか。今思い出しても、なかなか煩悶していたなと思います。


とはいえ、その後の10年間、Fintechの発信や啓蒙にとどまらず、様々な政策の形成やエコシステムの拡大に関与させていただくことができました。スマートフォンやクラウドを活用したサービスが広く社会に普及したことで、実に多くの金融活動が手元で、分かりやすく実現できるようになりました。そして、私たちは10年前には名前を知らなかったような、税制やサービスを使いこなせるようになりました。
Fintech研究所で、とりわけこだわってきたのは現場・ユーザー目線での提言でした。私が働いている会社は、新しい技術を扱うだけでなく、それをユーザーの手元に届けたときの反応を観察できる現場でもあります。当社の技術的な強みであるアカウント・アグリゲーション(口座情報の集約)であったり、クラウド基盤・AIを活用した作業の省力化・自動化を利用したときに、私たちは目を輝かせるユーザーの姿を目撃することがあります。それは、自分の情報を手元のアプリで見ることができた、オフィス以外で会社の業務を処理することができた、サービスが前回の処理を覚えていてくれたなど、活字にすると見過ごされそうで、メディアでも記事になりにくい一瞬です。でも、それによって、これからの生活に少し自信が持てた、月末を憂鬱に感じなくなった、といった小さな変化をユーザーが体感するたびに、会社をやってきてよかったなと心から思える瞬間があります。
そんな、技術が持つ人生の改善実感を、限られた人のものではなく、すべての人の当たり前とできるように、政策提言を行ってきました。そして、金融口座のAPI化がもたらす社会へのインパクトであったり、利用者に多様な選択肢をもたらす金融仲介の新形態、新しい時代における本人確認基盤のあり方、政府のDXそのものなど、様々なテーマで政策提言を行い、それが一部は実現することで新たな社会の景色を見ることもできました。
研究は、部分的にはとても孤独な作業を伴う仕事です。そのような仕事を、私に限らず複数のメンバーが心折れずに続けられた裏には、多くの方による、時には見えない形での応援がありました。とても言葉で尽くせる思いではないのですが、そのようなご支援の一つ一つに、感謝を申し上げます。
2.マネーフォワードのデータが持つポテンシャルについて
マネーフォワードの提供するサービスでは、多くの貴重なデータが利用されています。個人向けでは生活や資産に関するデータが、事業者向けでは日々の事業活動を支えるデータがサービス体験の基盤となっています。私たちは、このお預かりしているデータを大切に、自分のデータを扱っているように丁寧に扱いたいとの考えのもと、たとえ統計的な利用であったとしてもその目的や取り扱い方法などに細心の注意を払ってまいりました。金融用語でいえば、お預かりしているデータに対してフィデューシャリー・デューティ(受託者責任。意訳すれば、大切な人のデータと同様に扱うこと)を考えてきました。
ただ、これらのデータは、適切に扱えばユーザーにとって利便性が生まれることも事実です。例えば、うまく貯金ができている人の行動傾向を参考にすることで、自身にとっての適切な予算を立てることができるかもしれません。2015年6月にアップグレードした予算管理機能では当時、貯金がうまくできている世帯を「ビッグデータ解析」することで、新しい利用者体験を提供しました。このような機能は、予算という個人が悩むことが多い意思決定に対して、利便性の高い情報を提供することで、ひいては将来の安心を得ることにつながります。
また、マネーフォワードにあるデータを統計化すれば、政府の補助金や税金のあり方に客観的な評価を行えるかもしれません。2021年4月に発表した研究論文では、コロナ禍における緊急対策として支給された1人当たり10万円の定額給付金が、どのような効果・反応を得たのかを明らかにすることができました。このような研究は、政府の役割や支出のあり方に向けて、より正確で目的に対して効果的な議論を行うことを可能にします。
このような分析は、実は簡単に行えるものではありません。第一に、データガバナンスが必要です。データを用いた研究は、当社のユーザーを筆頭として様々なステークホルダーから、その目的や手段に対して理解が得られていないと、サステナブルに行うことができません。それは単なる利用規約やプライバシーポリシーを超えた、社会契約ともいえるものでもあり、ユーザーデータガイドなどを通じて、説明責任を果たしていければと考えています。
また、ステークホルダーからの理解があったとしても、データは簡単には分析できません。当社ユーザーのデータに見られる偏りや、大量のデータを正確に処理するための基盤、それらを適切に扱える人材の確保も容易ではありません。幸い、この論点は長年にわたる分析基盤の構築と、それを扱うことができるメンバー(本業ではないにもかかわらず、分析を可能にしたいと献身的に動いていただいた方々の努力も含めて)が徐々に増えてきたことで、現実的に解決できる状況となってきました。
データガバナンスと、データの分析基盤、そして分析が行えるメンバーの3つが揃ってきたことで、近年、上記の給付金論文に加えて、日本銀行との研究協力であったり、本年の経済財政白書でも10ページ(本文p148~)にわたって取り上げていただいた投資補助金の効果推計(概要は説明資料p7に記載)などが可能になってきました。このような環境整備を受けて、今回、マネーフォワード総合研究所という新たなプロジェクトを開始したいと考えています。
3.マネーフォワード総合研究所が目指すもの
マネーフォワード総合研究所では、当社がこれまで行ってきた研究・提言活動に加えて、①生活者・事業者がより適切な意思決定を行えるようにすること、また、②政府の意思決定がより効果と理解を得られる状況を創出し、社会を前に進めることに貢献すること、を目指したいと考えています。どちらも、非常に大きく、困難なゴールです。
①適切な意思決定に向けては、不確実で見通すことが難しい未来に対して、少しでも現実的に、生活者が自己実現でき、事業者が事業を維持・成長できるための環境創出を、研究を通じて実現していきたいと考えています。その勝ち筋はまだわかりませんが、足元の取り組みの一例として食費水準を独自推計するなど、当社が大切にするValuesの一つである「User Focus」でできることを一歩一歩、試していきます。
②については、例えば、政府支出がコロナ以降膨張し、高齢化社会で社会保障費も容赦なく拡大する中で、政府の意思決定をサポートし、より良い政策実現につなげることができないかといった問いに向き合いたいと考えています。家計簿や会計ソフトなどを提供する会社として、国の帳簿に響く影響を真摯に捉え、将来世代に対して、これまた当社が大切にするValuesの一つである「Fairness」を確保できる意思決定を後押しできるように、経済学や分析ツールを駆使して、挑んでいければと考えています。また、デジタル化や技術進歩が急速に進む中で、これからの社会に必要とされる統計のあり方についても、問題意識をもって貢献したいと思います。
当然ながら①も②も、すでに多くのシンクタンクであったり、学術機関が手掛けられているものでもあります。理想として、様々な研究機関と連携することで、より多くの正確なインサイトを届けることもしていければと考えています。
4.総合研究所という名前
今回、上記の取り組みを実現していくにあたって、名称については色々と議論をしました。「総合」研究所という言葉は、とにかく主語として大きいです(笑)。私はもともと、野村総合研究所で新卒時の内定を頂いた人間ですので(内定中に異動のような形で野村證券に移りました)、この名称が、そしてシンクタンクが果たすべき社会的役割については、それなりに理解をしているつもりです。
しかし、マネーフォワード自体は、私も創業者の一陣として、これからの時代により必要とされ、個人・法人の重要な基盤として成長していく会社だと考えて、日々、活動しています。そこで生まれるユーザーとの営みや、社会への貢献に向けて発揮すべき付加価値を考えれば、大きくベットするべきだとの思いがあります。
幸い、冒頭に述べた10年前の葛藤に比べれば、現在の私たちははるかに恵まれた環境にいます。足元では、小西先生をはじめとして、研究所のこれからの発信を行っていく体制はすでに構築が始まっています。自ら豊富なデータのユースケースを示し、場合によっては外部の皆さまとも色々な協業を行いながら、社会を前に進める原動力となれればと思っています。
当社では、色々な苦労があったとしても、チームワークを信じて、ビジョンを追いかけるときに"Let's make it together!"、という標語を唱えています。日本社会の抱える、様々な困難に対しても、このアプローチを信じて前に進んでいきたいと考えています。
ユーザーの皆さま、メディアの皆さま、様々な組織の研究者の皆さま、一緒にアイデアを考えて、研究をしていければ幸いです。ぜひお気軽に、マネーフォワード総合研究所までご連絡を頂ければと思います。
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