8. 経験人数は何本?【すっとんきょうな出来事 〜精神科に入院した私の記録〜】


※この記録は実体験をもとに書いています。登場人物はすべて仮名とし、個人が特定されないよう、一部の設定や時系列などの細部を変更しています。

おはようございます。
スットンキョウと申します。

実は、入院初日の夜はあまり覚えていません。

初めての精神科病院。
初めての部屋。
初めてのベッド。

不安でほとんど眠れなかったこと。

そして夜中、看護師さんをつかまえて、不安な気持ちと初日で気付いた病院の改善点を延々と語り、「もう寝ましょう」と諭されたことだけは覚えています。

印象に残っているのは、むしろ二日目の夜です。

結果から言うと、私は自分のベッドで寝ませんでした。

ナースステーション前のラウンジの和室に布団を敷いてもらい、一夜を明かしました。

なぜか。

病室のベッドにいるのが、めちゃくちゃ怖かったからです。

もともと私は、お化け屋敷や心霊ものが大の苦手。

夜の病院。
しかも閉鎖病棟。

今思えば、自分の精神状態がかなり過敏になっていたこともあって、恐怖心がどんどん膨らんでいました。

しかも、仲良くなった患者さんたちからは、

「あの、まゆみさんと同室なのか……」
「そっかぁ……」
「いや、その……気をつけてね……」

と、意味深なことばかり言われます。

やめてくれ。

そんなこんなで、夜になると恐怖で部屋にいられなくなりました。

トイレへ行くにも看護師さんについてきてもらい、しかもドアを閉めず、看護師さんの背中を見ながら用を足す始末です。

少しでも人の気配がある場所にいたい。

そう思ってナースステーションへ向かいました。

まず私が考えた作戦は、

「看護師さんに話しかけ続ければ寝なくて済む。」

というもの。

最初は優しく話を聞いてくれていました。

しかし10分ほどすると、

「……この人、帰る気ないな。」

と気づいたようで、

「とにかく今日はベッドに戻って寝ましょう。」

を繰り返されます。

それでも私は食い下がります。

昔からお化けが怖いこと。
どうしても部屋に戻れないこと。
ラウンジで寝かせてほしいこと。

必死に訴え続けました。

巡回もしなければならない看護師さんは、だんだん困った表情になっていきます。

すると、

「明日は採血もありますし、もうベッドへ戻って寝ましょう。」

その一言で、私のレーダーが反応しました。

昼間、患者さんから聞いていたのです。

「この病院、採血が下手な人いるよ。」

折り紙が得意な加藤さんは、

「何回もぐさぐさ刺されて、やっと採血できた。」

と話していました。

その話を思い出し、恐怖はさらに加速します。

お化けも怖い。

でも注射も怖い。

「採血……。
本当に申し訳ないんですけど、嫌です。

他の患者さんから、たくさん失敗されたって聞いてるんです。」

普段なら採血くらい我慢します。

でも、このときは精神科病院二日目。

正常な判断力ではありません。

看護師さんは笑顔で言いました。

「安心してください。明日は私がやりますから。私、失敗しませんので。」

いや、逆に怖い。

夜勤明けですよね?

しかもお若く見えますけど、大丈夫ですか?

突然、大門未知子みたいなこと言い始めたけど、その自信どこから来るんですか。


もう止まりません。

「失礼ですけど、こちらで働いて何年目ですか?」

「3年目です。」

「3年目! なるほど。

ちなみに採血って、どれくらいやったことあります?」

「え……どれくらいって言われても……」

「概算でいいです。

あと腕の本数ベースで。

何回刺しても同じ腕なら1本で数えてください。」

「いや、そんなの分かりませんよ。」

「感覚でいいです。

100本くらい?」

「分かんないです…」

「じゃあ1000本。」

「1000本はないです。」

「では50本。」

「50本よりは多いかな。」

「90本。」

「90本よりは少ないかも……。」

「70本。」

「70本よりは多い気がします。」

「はい、出ました。

90より少なく、70より多い。

あなたの経験人数は80本です!」


看護師さんは大きくため息をついて、

「分かりました。

ラウンジに布団を敷きますから、そこで寝てください。」

と言いました。

YOU WIN!!

頭の中で『ストⅡ』の勝利ボイスが鳴り響きます。

こうして押し問答の末、無事にラウンジで寝る権利を勝ち取りました。

(ちなみに女性同士の会話で経験人数が何本とか話しているのを聞くと、なんだか採血以外の話にも聞こえますね、てへ⭐︎)

こうしてラウンジで寝ることになったのですが――

全然、安心できませんでした。

精神科病棟では、夜中でも眠れない患者さんや、徘徊している患者さんがナースステーションへやって来ます。

ラウンジに人が寝ているとは思わないので、布団をかぶった私を見て、皆さん本気でビクッとしていました。

さらに、西エリアの暗闇から、

杖をガチャガチャ鳴らしながら現れる、

杖ガチャガチャおじいちゃん」。

結局、自分の部屋よりラウンジの方がお化け屋敷みたいでした。

次回、突然の部屋交換。
期待してくれよな!

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スットンキョウ わぉ、こんなスットンキョウな私にチップを贈りたいと思ってくれたんですね。その気持ちだけで十分です。すみませんカッコつけました、チップぜひお願いします(土下座)