25.クレーマークレーマー【すっとんきょうな出来事 〜精神科に入院した私の記録〜】
※この記録は実体験をもとに書いています。登場人物はすべて仮名とし、個人が特定されないよう、一部の設定や時系列などの細部を変更しています。
おはようございます。
スットンキョウと申します。
タイトルには「クレーマー」と書いていますが、
有名な映画をもじっただけで、
実際にはクレーマーのお話ではございません。
(多分)
正当な内容で病院にたくさんクレーム、もとい、投書をしましたよ、
というお話です。
私は朝の目覚めがとても早く、
毎日4時半ごろには起きていました。
起床時間は6時なので、それまでは電気もついておらず、
誰とも話せないし、テレビも見られません。
かといって病室のベッドで横になっていると、
不安な気持ちや良くない妄想ばかり膨らんでしまう。
なので、そーっとベッドを抜け出し、
ラウンジへ向かっていました。
ラウンジには、同じように早起きの患者さんたちが、
何をするでもなくぼーっと座っていたり、
ゆっくり歩き回っていたりします。
その光景は、さながら
ウォーキング・デッド。
(失礼。)
杖をガチャガチャ鳴らすおじいちゃんを筆頭に、
朝のメンバーはほぼ固定。
毎朝、
「よし、今日もウォーキング・デッドしに行くか」
と軽く気合いを入れて、
ラウンジへ旅立っていました。
6時少し前になると交換用のタオルが出ます。
それを受け取ってタオルを交換し、
音を立てないよう静かに顔を洗う。
やかんの麦茶が出たら、
朝イチで麦茶をしばき、
その日のスケジュールを書き留めます。
といっても、
毎日ほぼ同じ時間割です。
OTの予定が少し変わるくらい。
それでも予定が分かっていないと落ち着かない私は、
毎日メモ帳に一日のスケジュールを書いていました。
そんな朝のルーティンの中に、
新たな暇つぶしが加わります。
病院へのご意見投書です。
よくある「ご意見募集」の紙と投書箱を見つけ、
「これは時間が潰せるぞ」
と、毎日せっせと書き始めました。
書きたいことは山ほどあります。
トイレの便座が全部バラバラなこと。
ウォシュレット付きが一つしかないこと。
ラウンジのカーテンの横幅が足りず、
全部閉めても微妙に隙間が開いていること。
日々の潤いとして、
おやつタイムを設けてほしいこと。
メニューにステーキを出してほしいこと。
後半は完全に私情ですが、
暇つぶしも兼ねて投書を続けることにしました。
病院側からしたら、
暇つぶしで投書されてはたまったものではありません。
ここで私は戦略を思いつきます。
普通に改善要望を書くと、
人は防御的になって受け入れにくい。
だったら、
褒める投書を2通。
改善要望を1通。
名付けて、
2-1フォーメーション。
まずは病院を褒めます。
記念すべき第1号はこちら。
「ご飯がおいしい」
⸻
拝啓
いつもお世話になっております。
おかげさまで健やかな入院生活を送れております。
こちらの病院のご飯はとても美味しく、
毎日の楽しみになっています。
特にお米は、この備蓄米の時代とは思えないほど美味しく、
物価高の中、本当にありがたく感じております。
今後ともよろしくお願いいたします。
⸻
こんな調子で褒めの投書を2通。
そして、いよいよ改善要望です。
⸻
拝啓
平素よりお世話になっております。
本日は改善のお願いを申し上げます。
ラウンジ中央のカーテンですが、
長さが足りず、閉めても隙間が開いてしまいます。
その隙間が何となく不安になる、と
他の患者さんもおっしゃっていました。
改善のご検討いただけますと幸いです。
いつもありがとうございます。
スットンキョウ
⸻
ここには、いくつかポイントがあります。
まず、
「頭のおかしい人が書いた」と思われないように、
丁寧な文章で書くこと。
(※精神病棟なので、書いているのは紛れもない精神病患者です。)
褒めの投書は匿名。
改善要望は記名。
最後に「ありがとうございます」を添えて、
全体の印象を少し柔らかくする。
そんな一級クレーマーの技術を総動員し、
要望が通るよう全力で投書しました。
すると数日後。
看護師さんの中で一番偉い師長さんが、
初めて私に話しかけてきたのです。
「スットンキョウさん、ご意見ありがとうございました。
カーテンの件ですが、
ちょうど取り替える予定になっていて、
今、発注しているところなんです。
もう少し待ってくださいね。」
!!!
ちゃんと読まれてる!!
しかも師長さん直々のお声がけ。
これに気を良くした私は、
その後もせっせと投書を続けます。
「おやつタイムを設けてほしい」
という投書では、
勝手に
スットンキョウ 他20名
と署名しました。
実際に聞いたのは2人だけ。
でも病棟には20人くらいいるし、
きっと全員そう思っているはず。
という、完全なるハッタリです。
そのハッタリが見抜かれていたのか、
カーテン以降、投書が採用されることはありませんでした。
それでも投書活動は、
ムーヴメントを巻き起こします。
私が投書していることを話すと、
「私もトイレは改善してほしい!」
と言って、
別の患者さんも投書を書き始めたのです。
(なお、ムーヴメントと言っていますが、
増えたのはこの一人だけです。)
ムーヴメントの火付け役として、
少しだけ誇らしい気持ちになりながら、
私は退院の日まで、
せっせと投書活動を続けたのでした。
看護師さん。
お仕事を増やしてしまい、
申し訳ありませんでした。

森保ジャパンが取り入れるとか取り入れないとか
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わぉ、こんなスットンキョウな私にチップを贈りたいと思ってくれたんですね。その気持ちだけで十分です。すみませんカッコつけました、チップぜひお願いします(土下座)