11. はじめてのOTと真夏の果実【すっとんきょうな出来事 〜精神科に入院した私の記録〜】


※この記録は実体験をもとに書いています。登場人物はすべて仮名とし、個人が特定されないよう、一部の設定や時系列などの細部を変更しています。

おはようございます。
スットンキョウと申します。

私が緊急入院したのは土曜日でしたが、希望して月曜日の午前中からOTに参加することになりました。

OTとは
Occupational Therapy(作業療法)のことです。
病棟には作業療法士の先生がおり、毎日さまざまなプログラムを開いてくれます。

OTは入院生活最大の楽しみと言っても過言ではありません。

元気な人たちは、
「今日のOTなんだっけ?」
「午後OT行く?」

なんて会話を毎日のようにしています。

私もOTが大好きだったので、入院中は「OT」という単語を1日30回くらい口走っていました。

プログラムは大きく分けると
・運動系OT
・文化系OT
・勉強会

の3種類。

精神科の患者さん向けなので激しい内容ではありませんが、意外なほど種類が豊富です。

私のお気に入りは、

・カラオケ
・刺し子(刺繍のようなもの)をしながらのおしゃべり
・音楽鑑賞
・ボッチャ
・ベース演奏

などでしょうか。

ちなみにOTとは別で、入院中は麻雀にもどハマりしました。
その話はまた別の記事で書こうと思います。



初めて参加したのは運動系OTでした。

文化系は参加者が多いのですが、運動系は比較的人数が少なく、この日は男女合わせて7人ほど。

この日も「THE・精神科病棟」という出来事がありました。

OTの予定表に手書きで

「中止になるかもしれません」

と書いてあったのです。

当然、病棟は少しざわつきます。

「今日はOTないらしいよ」
という噂まで流れていました。

ところが。

突然、
「今からOTやりまーす!」
というアナウンス。

「えっ、今日あるの?」
「マジ?」

と、みんな慌ててラウンジへ集合。

いや、もう少し早く教えてくれてもいいよね。

まだシャバの時間感覚が抜けていなかった私は心の中でツッコミを入れました。

でも病棟では、あるならある、ないならない。
直前に変更になっても怒らない。

そんな心持ちが案外大事だったりします。



この時、OT担当の白石先生とも初対面しました。

20代後半くらいの爽やかな男性なのですが、ちょいちょいボケを挟んでくるタイプです。

運動OTの部屋へ向かうため、閉鎖病棟の重い扉の前に二列で整列。

人数確認をして、看護師さん引率のもと移動します。

病棟から外へ出るのは一大イベント。

逃げ出さないよう人数確認も徹底されています。

ほぼ囚人です。

でも久しぶりに吸うシャバの空気に、私はかなりテンションが上がっていました。



運動OT室は小さなジムのようでした。

サイクルマシンが6台。
バランスボールが1つ。
筋トレマシンが1台。

自由に好きな器具を使って運動してください、というスタイルです。

先輩患者の皆さんは迷わずサイクルマシンへ向かいます。

人数とマシンの数がほぼ同じなので、まず場所を確保するのが正解なのです。

しかし脱出ゲームマインドの私は一味違います。

今回の主目的は運動ではありません。

退院への手がかり探しです。

まずは部屋をゆっくりと一周。

すると棚に入った大量のCDを発見しました。

……もしかしてここに退院へのヒントが?

っていうか、普通に音楽聴きたい。

そんな気持ちで眺め始めたのですが、

何このラインナップ。

まったく聞いたことのないアーティスト。

謎のコンピレーション。


どこで見つけてきたんだろうと思うくらい、有名どころが一枚もありません。

ある意味、戦慄です。

シャバとは違うマーケットが広がっているようでした。

聴きたいCDが見つからず、仕方なく空いているサイクルマシンへ。

先生がチラッとこちらを見ています。

初参加なのにいきなりCDを物色し始めたので、気になったのでしょう。

先生に怪しまれてはいけない。

そう思い、15分ほど真面目にサイクルマシンをこぎました。

その後、再び手がかり探し開始。

ちょうど別の女性患者さんも手持ち無沙汰そうにしていたので、

「倉庫、ちょっと見てみません?」
と誘いました。

一人だと怪しまれそうだったので、同行者を確保したのです。

倉庫にはサッカーボールがありました。

そういえば昔、リフティングを5回続けられたことがあります。

「私、リフティング得意なんですよ。」

と言って挑戦。

1回。

ボールは入口までコロコロ。

「あっ。」

……

女性患者さんはノーリアクション。

「いやー、久しぶりだから。」

ともう一度。

2回。

ボールコロコロ。

そのタイミングで白石先生登場。
どうやらボールの音で気付いたようです。

「なんだ、リフティングか。」

そうつぶやいて去っていきました。

危ない危ない。
やっぱり警戒されています。

リフティングをしていなかったらどうなっていたことか。

私は静かにボールを元の場所へ戻しました。



運動OTは1時間半。

サイクルマシンとリフティングで約30分。

あと1時間どうしよう。

飲み物を飲みながらふらふらとCDプレイヤーの側へ向かいます。

するとプレイヤーの横に乱雑に積まれたCDの中に

サザンオールスターズ

の文字が。

あーーーー!!サザンだーーーー!!

一瞬でテンションが上がります。

さらにユーミン、嵐まで発見。

やっと知っているアーティストです。

勇気を出して、先生に声をかけます。

「サザン流してもいいですか?」

先生は一瞬間を置いて
いいですよ、と言ってCDをかけてくれました。

聞き覚えのあるイントロ。

♪ なみだが〜  あふれる〜 
 かなしい〜  きせつは〜 ♪

『真夏の果実』が流れました。

精神病患者達がまったりと運動する部屋に流れるサザン。

良い。

良すぎる。


マンピーのGスポットじゃなくて、本当に良かった。



皆さんも少し動きを止めて耳を傾けます。

「真夏の果実、好きなんですよ。」

そう笑顔で話してくれた男性患者さん。

音楽の力ってすごい。

こうして私は大満足で、初めてのOTを終えました。

次はユーミンを流そう。

そう心に決めながら。

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スットンキョウ わぉ、こんなスットンキョウな私にチップを贈りたいと思ってくれたんですね。その気持ちだけで十分です。すみませんカッコつけました、チップぜひお願いします(土下座)