24. パジャマを着た悪魔【すっとんきょうな出来事 〜精神科に入院した私の記録〜】


※この記録は実体験をもとに書いています。登場人物はすべて仮名とし、個人が特定されないよう、一部の設定や時系列などの細部を変更しています。

おはようございます。
スットンキョウと申します。

うちの病棟はオールインクルーシブで、
靴下からパンツまで、生活に必要なものは一通り用意されていました。

入院患者コスチューム(基本形)

でも。

毎日毎日、同じ服を着ていると、
おしゃれがしたくなるものです。

シャバではおしゃれにまったく興味がなかった私も、

この限られた物資の中で、
なんとかおしゃれできないだろうか。

というか。

おしゃれや化粧をして、一般の人と同じような雰囲気になれば、

「退院が早まるんじゃないか」

そんな、よこしまな作戦を思いついたのです。

まずは化粧だ。

そう思い立ち、病棟イチのおしゃれ番長に相談しました。

この方、お風呂上がりのスキンケアに、
あの大谷翔平くんが宣伝している
コスメデコルテを使っているほどの
おしゃれ番長。

売店で売っている、アルコール臭がきつい
聞いたこともない化粧水を使っていた私とは
格が違います。

というか。

瓶の持ち込みは禁止らしいのに、
なぜか番長は瓶入りのコスメデコルテを
使っていました。

どういう裏技なんだ。

番長に「化粧したい」と相談すると、

「たぶん許可されないよ。」

とのこと。

理由はよく分かりませんが、
病棟では化粧はNGらしいのです。

確かに化粧をしている人は一人もいません。

まあ、そもそも精神科病棟ですからね。

みんなスッピンです。

でも、この頃の私は一日でも早く退院したくて
仕方がありませんでした。

「お化粧して頭がまともな人だと認知される作戦」

(ひどい作戦名や。)

を決行することにします。

まずは物資の調達です。

20分だけのスマホタイムを利用して、夫へLINEを送りました。

(原文ママ)

「私、元気出てきたから、病院で少しお化粧したい。
私のメイクポーチと、メイク落とし
の2点を差し入れお願いします。

気分がいい日は少しみなりを気をつけようかなと。

なんか、瓶のファンデは持ち込み禁止みたい。
だから、適当なプラスチックに入ったファンデ買って欲しい。できたら。

安いので、オークル系ならなんでもいいです。

キャンメイクとかいいかも。ドラッグストアに売ってる」

普段ほとんど化粧をしない夫には、なかなか荷が重い任務です。

「キャンメイク」なんて、人生で初めて聞いたんじゃないでしょうか。

それでもすぐに、

「了解!」

と返事が来ました。

今日の夜、差し入れしてくれるそうです。

よしよし。

作戦は順調。

明日の朝には、

・いつものメイクポーチ
・ファンデーション
・メイク落とし

が揃って、いつものメイクができる。

ウキウキしながら眠りにつきました。

翌日。

私は毎朝6時に起きてスマホタイムをしていました。

夫からも、

「差し入れ終わったよ。」

との連絡が来ています。

やったーーー!

私は看護師さんのところへ向かいました。

「あの、夫から差し入れが届いていると思うのですが。」

すると看護師さんが、少し困ったような顔をしています。

「あぁ、確かに届いているんですけど……。」

むむむ。

やっぱり化粧って難しいのかな。

少し不安になります。

すると看護師さんが差し入れを見せてくれました。

そこには、

新品のファンデーション。

メイク落とし。

だけ。

なんで!?

メイクポーチは!?

眉毛描けないやん。

この奇妙な差し入れに、看護師さんも困惑。

「これで何をする予定だったのかなって……。」

ですよね。

このままだと、

ファンデだけしっかり塗った、
肌だけ異様にマットな眉毛なし精神病患者が
病棟を徘徊することになります。

想像しただけで恐ろしいです。

どうやら夫がLINEを読み違えた様子。

仕事終わりに一生懸命来てくれたことを思うと、怒る気にもなれず。

とほほ。

さらに看護師さんからも、

「病院なので、お化粧はちょっと……。他の患者さんへの影響もあるので。」

と、やんわり言われました。

分かりました。

化粧は諦めます。

しかし。

おしゃれは諦めません。

病院で手に入る物資だけで勝負することにしました。

売店の注文表を眺めると、

おしゃれピン 2P 158円

の文字が。

これこれこれーーーー!

一気にテンションが上がります。

おしゃれしたい人のための商品じゃないですか。

しかも2個で158円。

安すぎて逆に不安になります。

それでも注文。

ついでにヘアゴムも注文しました。

私はボブだったので、あまり出番はなさそうでしたが、一応。

看護助手さんに代理購入をお願いし、しばらく待ちます。

届いた「おしゃれピン」。

ただの黒いパッチン留めでした。

危なくないやつ。

ちょっとガッカリしましたが、贅沢は言えません。

パッチン留めとヘアゴムを使って試行錯誤した結果、

前髪を7:3に分けて三つ編みにし、パッチン留めで固定するスタイルに決定。

うん。

なかなかいい。

ラウンジで披露すると、

「かわいい!」

と、みんな褒めてくれました。

よしよし。

作戦は順調。

次なる挑戦は、パジャマの着崩しです。

学生時代、校則ギリギリでおしゃれしたあの感じ。

病院着でもできるはず。

まずはカーディガンのプロデューサー巻き。

見よう見まねで肩に巻き、おしゃれ番長に見せます。

すると。

巻き方が違うとのこと。

・ボタンは全部留める。
・ボタンのある面を上にする。

なるほど。

衝撃です。

私は今まで、

「カーディガンなんて適当に巻けばいい。」

と思って生きてきました。

番長の手にかかると、

CanCamのモデルみたいな巻き方になります。

さすがです。

次はズボン。

病棟には、

・標準のピンクストライプ綿パンツ
・紺のジャージ
・うぐいす色のスラックス

の3種類がありました。

私は迷わず、

うぐいす色のスラックス。

着ている人が少ないレア衣装だからです。

看護師さんにお願いすると、その理由が判明しました。

Lサイズがない。

Mサイズまでしかないのです。

最近すっかりLサイズが定番になっていた私。

その瞬間、頭の中に某『プラダを着た悪魔』の編集長が現れます。

おしゃれは我慢よ。

……そんなセリフがあったかどうかは知りません。

でも私は、Mサイズを履きました。

やっぱりきつい。

でも履く。

快適さより、おしゃれ。

こうして、

前髪を三つ編みにしてパッチン留め。

プロデューサー巻きのカーディガン。

うぐいす色のスラックス。

という完全装備の私が誕生しました。

完全に読者モデルです。


なんやこれ まったくスットンキョウじゃないけど大丈夫か 勝手にTOEIC受けることになってる


番長に見せると、

「いいじゃん。」

と一言。

やった。

私はアン・ハサウェイ気分でラウンジを闊歩するのでした。

なお、このおしゃれ作戦のおかげかどうかは分かりませんが、

私は病棟でもおそらく最速クラスの3週間で退院が決まりました。

次回、いよいよ退院です!

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スットンキョウ わぉ、こんなスットンキョウな私にチップを贈りたいと思ってくれたんですね。その気持ちだけで十分です。すみませんカッコつけました、チップぜひお願いします(土下座)