なぜ真面目にDXを進めるほど、消耗戦になってしまうのか

真面目にやっているのに、消耗している

「うちも去年、システムを入れ替えました」

そう話す経営者の方に、私はよく出会います。ホームページも作り直した。SNSも始めた。AIも使い始めた。やるべきと言われたことは、ひととおりやってきた。

それなのに、見積もりを出すと必ず値段で比べられます。去年より忙しいのに、手元に残るお金は増えていません。

やることは増えたのに、抜け出せた感じがしない。

この感覚には理由があります。しかもそれは「やり方が足りない」ではありません。もっと手前にある、たった一つの前提のせいです。

そしてやっかいなことに、その前提は、たいてい会社の中でいちばん自信のある部分に隠れています。


なぜ、頑張るほど抜け出せなくなるのか

あなたの会社にも、たぶん3つの「当たり前」があります。

一つ目は、資産の当たり前です。「うちの強みはこの設備だ」「この立地だ」「この職人だ」。ここに投資してきたから今がある、という感覚です。

二つ目は、稼ぎの当たり前です。「この商品で食べてきた」「この手数料が柱だ」。売上の内訳を見れば、すぐ分かるものです。

三つ目は、自己定義の当たり前です。「うちは印刷屋だ」「うちは工務店だ」。名刺に書いてある、あの一言です。

ここからが本題です。

この3つは、いずれも過去に成功をもたらしたものです。だからこそ、疑いにくい。

そして疑いにくいからこそ、重りになります。

設備が強みだと信じるほど、その設備を使わない方法へは動けません。その商品が柱であるほど、その商品を要らなくする提案はできません。「うちは印刷屋だ」と決めているほど、印刷しない仕事は自分の仕事に見えません。

つまり、変われない理由は怠慢ではないのです。過去にいちばんうまくいったものが、そのまま足かせになっている。この構造が、真面目な会社ほど抜け出せない理由です。

もう一つ、見落とされやすい点があります。

稼ぎの柱が、お客様の不満の原因と同じになっている場合です。この形になると、稼ごうとするほど嫌われ、喜ばれようとするほど稼げなくなります。どちらにも進めません。

[図1:因果関係マップ ←ここにPNGを貼る]


鏡として、ある会社の話をします

ビデオレンタル最大手だったBlockbusterは、2010年に経営破綻しました。

理由を聞くと、多くの人が「Netflixの方が便利で安かったから」と答えます。けれど、これは表面の説明です。便利さの差なら、追いかければよかったはずです。資金も店舗網も持っていました。

追いかけられなかったのは、さきほどの3つの当たり前が全部そろっていたからです。店舗網が資産、延滞料金が収益の柱、そして「より良いレンタル店であるべきだ」という自己定義。

とくに延滞料金は、収益の柱でありながら、お客様が一番嫌がるものでした。取れば嫌われ、やめれば収益が消える。まさに、どちらにも進めない形です。

Netflixがしたのは、この板挟みを我慢して分け合うことではありませんでした。

課金を「1本いくら」から「月いくらの定額」に変えたのです。すると「延滞」という状態そのものがなくなります。延滞がなければ、取るか取らないかという対立も消えます。

実はこれ、TRIZという方法論で見ると、はっきり名前のついた解き方です。対立する2つの要求を、別々の条件に振り分けて両立させる考え方(TRIZでは『分離の原理』と呼びます)にあたります。妥協ではなく、設計で対立そのものを消したわけです。

もう一つ、Netflixは自社を「レンタル店」と定義しませんでした。「エンタメ視聴体験そのもの」という一段上の目的に自分を置き直しました。これも名前のある動きで、先に上位の目的を設計した者が勝つ法則(TRIZでは『スーパーシステムへの移行の法則』と呼びます)と言われるものです。

だから店舗を惜しまず手放せました。土俵を替えたのです。

[図2:スーパーシステム階段 ←ここにPNGを貼る]


あなたなら、どう問い直すか

ここからは、あなたの会社の話に戻します。紙とペンがあれば、今日できます。

① 稼ぎの柱と、お客様の不満を並べて書く

売上の内訳を上から3つ書き出してください。その横に、お客様から言われる不満を3つ書き出します。

同じものが両方に出てきたら、そこがあなたの板挟みです。Blockbusterの延滞料金と同じ位置にあります。

② 「うちは何屋か」を、一段上げて言い直す

名刺に書いてある肩書きを、そのまま書いてください。次に「それは、お客様の何のためにあるのか」を1行で書きます。

売っているのはドリルでしょうか、それとも穴でしょうか。この一段上の言葉が、次の土俵の場所を教えてくれます。

③ 5年後の上位の目的を、今の言葉で決めておく

競合が今の商品の性能で戦っている間に、5年後にお客様が本当に欲しがるものを先に言葉にしてしまう。先に決めた人が、その土俵を設計できます。

3つとも、答えが出なくてかまいません。書いてみて手が止まった場所が、いま一番大事な論点です。


おわりに

変われない理由は、たいてい弱さではありません。過去にいちばんうまくいったものが、そのまま重りになっているだけです。

両者を分けたのは便利さではなく、一段上の目的へ登る発想があったかどうかでした。

紙に3つ書き出すところから始めてみてください。

もし、自社の板挟みを整理する手順そのものを試してみたい方は、Idea Realize AI で同じ考え方を使った壁打ちができます。


本記事で取り上げた事例は、『DX経営図鑑』(金澤一央/DX Navigator編集部 著、アルク、2021年)を着想元に、公開情報をもとに独自に再構成したものです。書籍本文・図版の転載は行っていません。

この記事は、bp-d.com の「なぜ同じDXで差がつくのか──Netflixに学ぶ「上位システムを先に設計した者が勝つ」法則」を、読者自身の会社に置き換えて書き直したものです。元の分析はこちら →


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