絶賛された仕組みほど、次の崩壊の種を抱えやすいのはなぜか
ほめられた仕組みが、なぜか続かない
新しい仕組みを立ち上げたことがあると思います。
社内の困りごとから生まれたのかもしれませんし、思いきった投資だったかもしれません。とにかく、やってみたら評判が良かった。
お客様にほめられ、同業から見学が来て、場合によっては取材も来ました。
ところが、環境が少し変わった途端に、その仕組みが思ったより脆かった。
そういう経験はないでしょうか。
まわりは「時代に合わなかった」で片づけます。けれど、なぜ脆かったのかは、誰も説明してくれません。
そして説明されないまま、次の仕組みも同じ形で立ち上がっていきます。
ここには、たいてい共通の構造があります。しかもその構造は、うまくいっている最中に見えるものです。
強みと土台が、くっついている
質問をひとつ。
あなたの会社の強みは、それを支えている土台と切り離せますか。
ここで言う強みとは、データでも、ノウハウでも、接客の質でも、独自の体験でもかまいません。土台とは、その強みを生んでいる設備・店舗・人員・場所のことです。
多くの会社では、この2つががっちりくっついています。
くっついていること自体は、悪いことではありません。
問題は、外から何かが1つ止まったときです。
お客様の足が止まる。仕入れが止まる。人が抜ける。何でもかまいません。
そのとき、強みと土台がくっついていると、両方が同時に止まります。
強みが生まれなくなるのに、土台の費用のほうは減りません。
やっかいなのは、その土台が、あなたを画期的にした設計そのものだということです。
平時には、どこから見ても美点にしか見えません。
だから点検されないまま、静かに重りに変わっていきます。
鏡として、ある会社の話をします
b8ta(ベータ)は2015年にシリコンバレーで生まれた、売らない店です。
新しい機器や新興ブランドの商品を、説明用の端末を添えて並べます。来店客は売り込みを一切受けずに、自由に触って試せる。気に入ればその場でメーカーのサイトから買う。
店は販売在庫を持ちません。稼ぎは、出店するメーカーから受け取る固定の出店料です。
世界中の小売関係者が絶賛しました。
ところがb8taは、米国では2022年に、日本でも2025年に全店を閉じています。
理由を聞くと、多くの人が「コロナで来店が減ったから」と答えます。
けれど来店減は、どの店も経験しました。それでも生き残った店はあります。では、なぜb8taはとりわけ脆かったのか。
因果関係マップという道具で描くと、原因が3つ浮かびます。価値の中心が来店データだったこと。稼ぎが売れ行きと切り離された固定の出店料だったこと。そして体験の質を支えるために一等地に広い店を構えていたこと。
この3つは、どれもb8taを画期的にした設計そのものです。
平時にはすべて美点でした。裏返すと、来店が止まった瞬間に、価値も収益もコストも一斉に逆回転する形になっていました。
[図1:因果関係マップ ←ここにPNGを貼る]
実はb8taは、対立を解く手つきそのものは見事でした。
売ることと体験することを切り分け、店から売上のプレッシャーを消した。さらに体験と計測を切り分け、リアルな店で取れなかったデータを商品に仕立てた。
実はこれ、TRIZという方法論で見ると、名前のついた解き方です。対立する2つの要求を、別々の担い手に振り分けて両立させる考え方(TRIZでは「分離の原理」と呼びます)にあたります。
止まったのは、その次でした。
価値であるデータと、それを生む一等地の店舗。この2つを切り離せなかったのです。
いちばん身軽なはずの価値を、いちばん重い土台に縛りつけたまま置いていました。
[図2:分離の階段 ←ここにPNGを貼る]
あなたなら、どこを点検するか
ここからは、あなたの会社の箱を描く番です。紙とペンがあれば、今日できます。
① 消した不便の裏で、何を抱えたかを書く
あなたが最近なくした不便を1つ書いてください。待ち時間、手間、売り込まれる圧迫感。何でもかまいません。
その横に、それを消すために新しく抱えたものを書きます。設備、人員、場所、契約。
有益な機能を高めると、必ず新しい負担が生まれます。ほめられている機能ほど、裏の負担が見えなくなります。
② 強みと土台を、2つの箱に分けて書く
左に強み、右にそれを生んでいる土台を書きます。
そのうえで、右の箱に横線を引いてみてください。この土台が3ヶ月止まったとき、左の強みは残りますか。
一緒に消えるなら、その2つは癒着しています。
③ 他人の土台に載せられないかを考える
自前で重い設備を抱えるのをやめて、すでに人や物が集まっている場所に、自社の価値を層として載せられないでしょうか。
答えが出なくてかまいません。手が止まった箱が、いま一番点検すべき場所です。
おわりに
b8taが消えたのは、外の環境が変わったからではありません。
環境が変わったときに全部が同時に逆回転する構造を、絶賛されている最中に内側に抱えていたからです。
そして同じことは、うまくいっている会社ほど起きます。画期的な仕組みほど、その成功の設計の中に次の崩壊の種を抱えやすいからです。
因果関係マップとTRIZは、その癒着を見つける道具です。紙とペンでも描けます。
ひとりで描くと手が止まるという方は、Idea Realize AI で同じ考え方を使った壁打ちができます。
本記事で取り上げた事例は、『DX経営図鑑』(金澤一央/DX Navigator編集部 著、アルク、2021年)を着想元に、公開情報をもとに独自に再構成したものです。書籍本文・図版の転載は行っていません。
この記事は、bp-d.com の「なぜ『売らない店』b8taは絶賛されたのに消えたのか──成功の設計に潜む崩壊の種を、因果関係マップとTRIZで読み解く」を、読者自身の会社に置き換えて書き直したものです。元の分析はこちら → https://bp-d.com/?p=3862


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