「封印された校舎 ―― 旧白銀学園の呪い」②
第2話「蘇る過去の影」
月明かりに照らされた旧白銀学園の校舎は、昼間よりも一層不気味な姿を晒していた。藤原琴音は、懐中電灯の明かりを頼りに、錆びついた鎖を慎重にくぐり抜けた。
「やっぱり来ちゃった...」
自分の行動に後悔の念を抱きながらも、琴音の好奇心は抑えがたかった。夢の中で見た少女の言葉が、彼女の耳に残り続けていたのだ。
重い木製のドアが軋むような音を立てて開く。琴音は息を飲んで中に踏み入った。
廊下は埃と蜘蛛の巣で覆われ、朽ちかけた下駄箱が無残な姿を晒していた。しかし、その光景は突如として変化した。
「え...?」
琴音の目の前で、廊下が徐々に鮮やかになっていく。埃は消え、壁は新しい塗装で輝き、下駄箱も綺麗に並んでいた。そして、古めかしい制服を着た生徒たちが、まるで琴音など存在しないかのように、廊下を行き来し始めた。
「これって...50年前の...?」
困惑する琴音の耳に、かすかな声が届いた。
「助けて...」
振り返ると、一人の少女が琴音をじっと見つめていた。痩せこけた顔に大きな目、そして絶望的な表情。琴音が声をかけようとした瞬間、幻影は霧のように消えてしまった。
「うそ...今のは...」
動揺を隠せない琴音だったが、探索を続けることを決意した。階段を上がり、2階の教室に足を踏み入れる。
そこで琴音は、再び不思議な現象に遭遇した。教室の黒板に、チョークで必死に何かが書かれていく。しかし、書いている人の姿は見えない。
文字が形になるにつれ、琴音は息を呑んだ。
「彼らが来る前に真実を知ることができるだろうか?」
その瞬間、激しい頭痛が琴音を襲った。目の前が真っ白になり、次の瞬間、琴音は50年前の教室にいた。
生徒たちが必死に勉強している。しかし、その表情は苦しげで、まるで何かに追い立てられているかのようだ。教壇に立つ教師の目は異様に輝いており、「より効率的に、より強く」と繰り返し叫んでいる。
幻影が消えると同時に、頭痛も和らいだ。琴音は壁に寄りかかり、深い息をついた。
「これが...私の能力...?」
動揺を抑えきれない琴音だったが、この不思議な能力が、隠された真実への鍵になるかもしれないと直感した。
一方、その頃、健太は図書室で黙々と調査を続けていた。
「もう、琴音のやつ。約束したはずなのに...」
心配しつつも、健太は友人の行動を予測していた。だからこそ、より多くの情報を集めようと必死だった。
古い新聞や学校誌を読み漁る中、一冊の古びた日記を見つける。そこには、消えかけたインクで「オメガ計画の生贄」という文字が書かれていた。
「オメガ計画...?これは一体...」
健太が首をひねっていると、背後から声がした。
「佐藤君、こんな遅くまで何をしているの?」
振り返ると、そこには村上先生が立っていた。いつもは穏やかな表情の司書だが、今日はどこか緊張した面持ちだ。
「あ、村上先生。これは、その...課題の調べ物をしていて」
「本当かい?琴音さんと二人で、旧校舎のことを調べているんじゃないかな」
健太は言葉につまった。村上先生はため息をつくと、周りを確認してから小声で話し始めた。
「気を付けて。彼らはまだここにいる」
「彼ら...って?」
「オメガ計画に関わった人たちだよ。50年前の悲劇は、まだ終わっていない」
村上先生の目には、深い悲しみと恐怖が宿っていた。
「先生、何か知っているんですか?」
「今は話せない。でも、もし本当に真実を知りたいなら...」
そう言いかけた瞬間、図書室のドアが勢いよく開いた。
「おや、こんな遅くまで何をしているんですか?」
鋭い目つきで二人を見つめる男性がいた。副学長の吉田先生だ。
「吉田先生...課題の調べ物です」
健太が慌てて答える。
「そうですか。でも、もう閉館時間ですよ。さあ、帰りなさい」
吉田先生の態度には、どこか威圧的なものがあった。健太と村上先生は、言われるがままに図書室を出た。
別れ際、村上先生は健太に小さく囁いた。
「明日、放課後に来なさい。大切な話がある」
健太が頷いて去った後、吉田先生は図書室に戻り、健太が読んでいた資料を確認し始めた。その表情には、焦りと恐怖が混ざっていた。
一方、琴音は旧校舎の探索を続けていた。3階に上がると、そこには音楽室があった。
ドアを開けた瞬間、かすかなピアノの音が聞こえてきた。しかし、部屋に入ると音は止んだ。
琴音が部屋の中を歩き回っていると、足元で何かが光った。屈んで拾ってみると、それは古い鍵だった。
「これは...」
鍵を手に取った瞬間、再び激しい頭痛が琴音を襲う。目の前に広がったのは、音楽室でピアノを弾く少女の姿。しかし、その演奏は次第に狂気じみたものになり、最後には絶叫と共に倒れ込んだ。
幻影が消えると、琴音は冷や汗をかいていた。
「これが...オメガ計画の犠牲者...?」
そう考えを巡らせていると、突然校内放送が鳴り響いた。
「藤原琴音さん、至急職員室まで来てください。繰り返します...」
琴音は慌てて旧校舎を出た。そして、新校舎に向かう途中、健太からメッセージが届いた。
「大変だ。オメガ計画のことで新しい情報が。明日、村上先生と会う約束をした。一緒に来てくれ」
琴音は返事を送ろうとしたが、職員室に着いてしまった。ドアを開けると、そこには厳しい表情の吉田先生が待っていた。
「藤原さん、君に聞きたいことがある」
琴音は緊張しながらも、毅然とした態度で部屋に入った。
その時、琴音は気づいていなかった。吉田先生の机の引き出しに、「オメガ計画極秘資料」と書かれたファイルが隠されていることを。
そして、旧校舎の地下に繋がる秘密の入り口が、彼女たちの発見を待っていることも。
第2話 終
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