見えない贈りもの ――春の音 短編小説
続きです。蛇足かなぁと思うけど😓
見えない贈りもの ――春の音
春の駅には、新しい風が吹いていた。
ホームの隅で耳を澄ます美咲の髪が、ふわりと揺れる。
あの日から、もう何度目の春だろう。
彼が残してくれた点字の手紙。
「ありがとう」の文字に、どれだけの想いが込められていたのか、いまも言葉にはできない。
けれど、あれから彼女の世界は少しずつ変わった。
彼のように――
見えない誰かの、見えない心に寄り添える人になりたい。
その思いで、美咲は点字教室の講師になった。
「指で読むって、不思議ですね」
生徒たちの小さな声が、春の陽だまりのようにあたたかい。
ある日、一人の青年が教室に訪れた。
優しい声、静かな足取り。
何かを抱えながらも、前を向こうとしている空気をまとっていた。
「昔、大切な人が、点字を教えてくれたんです。
自分にも、それができるようになれたらって……」
その言葉に、胸がつまった。
「……お名前、聞いてもいいですか?」
「遥翔(はると)」と、彼は照れたように名乗った。
――遥人と同じ、名前。
偶然かもしれない。でも、なぜか涙がこぼれそうだった。
「よかったら、一緒に覚えていきましょう」
美咲は微笑んだ。
その笑顔は、春の風のようにやさしく、どこか懐かしさを含んでいた。
教室の窓の外、桜の花びらが舞っていた。
彼からもらった、見えない贈りもの。
それは今も、美咲のなかで、確かに息づいていた。
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