壊れない法人ポートフォリオへリバランスする
法人は含み損を無視して待つという戦略を取りにくい。先日、財務ポリシーを策定する過程で、私自身が法人の資産運用の学びを深め、現在のポートフォリオはややリスク資産の比率が高いことを把握した。
財務ポリシーの視点から決算前に含み損を確定することにも理がある。当社は3月末決算のため、次の2つを実際にやってみることにした。
ポートフォリオのリバランスオペレーションを行う
事業利益と投資損失を相殺させる損益通算を行う
また ChatGPT に相談したことを自身で理解する意図も含め、本稿に整理していく。誤っている可能性があることも考慮して読み進めてほしい。
損益通算とは
同じ年度の利益と損失を合算して課税対象の利益を減らす仕組みを損益通算と呼ぶ。
運用事業部では100万円の黒字になった
開発事業部では60万円の赤字になった
このとき、最終的な利益は 100 - 60 = 40 万円となる。この40万円の利益が課税対象となり、法人税等を支払う。法人における損益通算は、本業における事業損益と、金融投資における運用損益を合算して最終的な利益を確定できる。
この損益通算をしてよい範囲が法人と個人で異なる。法人は原則としてすべてまとめた上で課税所得を計算できる (少し例外はあるが本稿では割愛) 。一方、個人では所得区分ごと別々に計算するという思想で課税制度が設計されている。たとえば、個人は次のような所得を別々にわけて損益通算しないといけない。
上場株式等の譲渡所得等
先物取引に係る雑所得等
不動産所得・事業所得
山林所得
一時所得
個人がこれらの区分をまたいで損益通算できない背景としては次になる。
所得の性質が異なる
税率/課税方式が異なる
租税回避防止
しかし、これらの内容は法人でも同様に思える。なぜ個人では損益通算が禁止され、法人では損益通算が許されているのか。
その答えは個人と法人に対する課税思想が根本的に異なるからである。個人は所得の種類ごとに担税力を測る。法人は、会社という1つの経済主体に対して課税するという思想になる。
法人はすべての活動が営利目的とみなされる。そのため、事業 (本業) も金融投資も不動産も配当もすべてが事業活動の一部と解釈される。法人は会社という事業体の純利益に対して課税される。また法人はリスクを取る主体としても制度設計されているため、歴史的に法人税は投資活動を阻害しない。経済を活性化させるためにも利益のあるときに損失を相殺できる設計になっているという。
課税思想の違いから個人と法人の違いを深めていくのもおもしろい。
ポートフォリオのリバランス
財務ポリシーを策定する過程で法人の資産運用は守備的でよいと学んだ。オペレーション前のポートフォリオは次になる。

リスク資産 (株式) と守備資産 (債券) がだいだい半々の割合になっているのを守備的に移す。結論から、今回のオペレーションによって次のポートフォリオになった。

リスク資産が 5.6+27.7=33.3%、守備資産が 9.8+44.7=54.5%になった。金は通貨不信や地政学リスクへの保険のような位置づけになる。防御的な資産ではあるが、債券とは守る対象が異なる。金はオルタナティブ資産に分類される。
詳細は後述するが、オペレーション前の評価損益率は2.83%であったのが、損出しによって2.89%になった。これは投資資金が減ることにより、分母が小さくなっただけで利益そのものが増えたわけではない。損出しによって評価損益率は上がるという見た目の数値が変わるという気づき。今回のオペレーションによって含み損のうち48%を確定し、その損失を事業利益と損益通算する。
リバランス後のポートフォリオは防御を優先した構造といえる。仮に将来リーマン・ショック級の株式の下落 (▲50%) が発生したとしても、いまのポートフォリオでは株式比率が 33.3% であるため、ポートフォリオ全体では 33.3% * 50% = ▲16.6% の評価損ですむ。この程度の評価損であれば、法人財務に影響しにくいということを財務ポリシーの策定で学んだ。
また依然として含み益に占める割合は金の高騰が大きい。もし金の比率が15%を超えたらまた売却してリバランスする。
リバランスのオペレーション
オペレーション方法として次がある。
売却によるリバランス (フル・リバランス)
新規資金投入によるリバランス (キャッシュフロー型)
売却せず買わないリバランス (新規購入を停止する)
定期リバランス (時期固定)
閾値リバランス (乖離主導)
今回は1番目の売却によるリバランスを行い、投資した資金はなにも変えない。今後の経済見通しにあっていないリスク資産を売却して守備資産へ移すというオペレーションを行う。偶然か必然か、次のテーマ型のリスク資産が含み損となっている。
フィンテック
FANG+ インデックス
これらのリスク資産を売却して損出しする。ふりかえりとして、投資を始めた2025年10月頃は AI 投資の右肩上がりな雰囲気がもう少し続くと私は楽観的に考えていた。それから5ヶ月経って、いまは当時より楽観的にみれないのと、財務ポリシーの視点も加え、守備的なポートフォリオへ移行する。
テーマ型のリスク資産は守備フェーズに存在価値なし
これらのリスク資産を売却した資金で先進国債券 (為替ヘッジあり) を購入した。ポートフォリオ全体でみて先進国債券の配分が $${\frac{1}{3}}$$ 以上となった。
段階的な移行
ChatGPT はリスク資産 (株式) の比率を25%に減らすことを提案した。25% という数字の根拠は次になる。
悲観シナリオへの耐性
株式が50%暴落したとき
株式比率 25%: 全体としては12.5%のマイナス
株式比率 40%: 全体としては20%のマイナス
このときに経営判断を歪めないか?
法人特有の制約
法人は含み損を無視して待つという戦略を取りにくい
これは 財務ポリシーを策定 したときに確認したこと
25%固定というわけではない
25%まで落とした後、状況をみて35%に戻してもよい
一理あるとは思えるが、もう少し様子をみながらのオペレーションでもいいかと考え、43.3%→35% (実際のオペレーション調整により33.3%)→25%への二段階戦略で反論してみた。ChatGPT は二段階でオペレーションすることは構わないが、比率を25%に下げる数値トリガーを運用ルールとして事前に設定すべきと主張する。具体的なトリガー設計として次がある。
市場構造トリガー
マクロ・金融トリガー
法人固有トリガー
本稿ではこれらのトリガーの詳細には触れない。もし将来25%に下げるタイミングがきたときにまた整理する。段階的に移行する意思決定がこの先どうなるのかを将来ふりかえるためにも、意図的にこのことを書いておく。
2026-03-07 追記 地政学リスクを考慮しポートフォリオのリバランス
日本株の扱い
財務ポリシーを策定したときに次のような提案もあった。
法人が日本で事業を営んでいるということは、事業・雇用・税制のリスクが日本に集中している状態といえる。国のバイアスを減らすためには日本株の割合を減らして外国債券を増やした方がよいのではないか?という提案があった。
この機会に日本株を売却すべきかどうかを相談した。結論からいうと、売却せず保持するという意思決定をした。そのときのやり取りをまとめる。購入しているファンドは次になる。
TOPIX 連動型ファンド
余談だが、いまは金の次に高い評価損益率となっている。
前提としての日本集中リスク
日本で事業を営む会社は次の日本リスクをもつ。
売上
顧客基盤
雇用環境
税制
社会保険制度
規制変更
円という通貨
事業そのものが大きな日本ポジションとみなせる。日本株を増やすこと自体が日本リスクを積み増すという考え方は正しい。
現在の日本経済のマクロ状況は次になる。
日銀は緩やかな正常化局面にある
多くの専門家は潜在的成長率を1%前後とみている
人口減少は構造的である
これらの状況も踏まえ、財務ポリシーとして日本株を積極的に増やす理由は少ない。
日本リスクと TOPIX 5% という比率
法人が日本リスクを負っていることはたしかだが、同じ日本であっても、TOPIX 連動型ファンドが負っているリスクの質は異なる。TOPIX 連動型ファンドは次の特性をもつ。
流動的
分散されている (約1700社)
レバレッジなし
いつでも売却可能
そして5%という比率でもつことはポートフォリオの構造上のバランスをとる上で意味がある。仮に日本の経済環境が悪化して株式が30%下落したとしても、5%の比率であれば、ポートフォリオ全体への影響は1.5%程度になる。この程度の変化であれば資産運用において致命傷にならない。
壊れないための設計の本質
資産評価の変動や一時的な損失によって、
事業継続・意思決定・精神状態が損なわれない状態を指す。
日本株を5%もつ目的は今後の上昇期待ではない。下落局面となり、仮に含み損を抱えたとしてもそのまま保持し続ければよい。リバランスの原則は次になる。
上がったら売る
下がったら買う
5%という構造上の比率を維持するためのリバランスであって、未来の価格予想をして当てにいくものではない。たとえば、目標レンジを3-7%と定めた場合、中央値を5%と決めておく。比率が8%になったら7%まで売却、2%になったら3%まで買い増しというオペレーションを行う。そのときのトレンドや価格をみて判断しない。経営者の感情で投資判断しない。
壊れないための設計とは、どこかの国の経済状況が悪化しても法人が生き残るポートフォリオの構造にすることでもある。この例で言えば、日本に賭けていないし、全否定もしていない。期待でも悲観でもない構造バランスとして5%をもつことに意味がある。
まとめ
税理士さんとも相談し、壊れないことを優先して決算前にリバランスを実施した。リスク耐性を高めるポートフォリオの構造へと整えた。そして実際の損益通算のオペレーションから実務を理解する機会にもなった。
またリバランスのタイミングで日本株の扱いを相談したことで、壊れないための設計とその構造への理解が進んだ。前回とは真逆の提案を受け、その背景や論理を詰める過程で、自身の意思決定の基準がより明確になった。
