最後のページ|掌編小説(#虹色創作部)
「マジか……」
高校一年の夏、僕は父の転勤でこの田舎町に引っ越してきた。隣は山、裏は畑。都会で育った僕にとって、何もかもが目新しく、そして受け入れがたい景色だった。
新しい学校にも、いまいち馴染めない。馴染むつもりもないが。
「ねぇ、ミステリー小説って読む?」
引っ越して二か月が経った頃、クラスメイトが話しかけてきた。確か、遠野梓、だったかな。彼女はこのクラスで一番都会的で、少しおとなしめの女子だった。僕とはあまり接点がないと思っていたから、少し驚いた。
「うん、結構読む」
「これ、おすすめだよ」
彼女が差し出したのは、一冊のミステリー小説だった。真新しいわけではない。使い古され、少し日焼けした表紙には、見慣れない作家の名前が記されている。
「ありがとう。読むね」
彼女の好意が嬉しくて、僕は素直に受け取った。
家に帰り、早速ページをめくると、付箋が貼られていた。
「序盤は動きがなくてダルい」
きっと、彼女が書いたんだろう。確かに物語の序盤は探偵の生い立ちや依頼人の元を尋ねるまでが書かれており、読んでても何も面白くなかった。
その後も、付箋のメモは続いた。
「彼は嘘つき」
「本当の犯人はこの中にはいない」
「結末が分かっちゃった。つまらないな」
可愛いいたずらだと思いながら、ネタバレのメモを辿っていく。どのメモも、物語の核心を突いているようで、そうではない。読めば読むほど深まる謎。僕はいつしかメモの意図を探ることに夢中になっていた。
物語がクライマックスを迎える頃、こう書かれていた。
「この先を読んではいけない」
付箋ではなく、ページ全体に大きく、しかも直接。
――読まないわけ、ないだろ。
そう思ってページをめくると……何も書かれていない。
――あれ?
しばらく白紙のページを眺めていると、真ん中に赤いシミのような点が浮かび上がった。シミは血のように赤く、あっという間にページ全体を覆い尽くす。
――うわ!?
僕は本を掴み、裏庭に持って行って燃やした。
――クソッ! 何なんだよ!
本からは、血のように赤い炎がうねりながら立ち昇っていた。
夜、警察から電話があった。
父が亡くなった、と。
死因は焼死だった。
(了)
虹くりっぷさんの「虹色創作部」に参加しました。
テーマは「読書」です。
(見出し画像にイラストを使わせて頂きました)
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