水色の隙間|掌編小説
【作品紹介】
私はたまに、水色の光を見る。その光が現れるところは世界の隙間であり、そこにあるのは昨日見た夢の続きだったり、遠い惑星の呼吸だったり、あるいは誰かが置き忘れた未来の記憶の断片だったりする。そして私はいつも、水色の光に誘われる…。
水色は、いつも世界の隙間を教えてくれる色だ。私にだけ見える、日常の小さな違和感。
今日もそうだ。会社からの帰り道、いつものコンビニで買ったミルクティーを一口飲んだ時、マグカップの欠けた縁に一瞬、その色を見た。マグカップ自体はクリーム色なのに、欠片から覗く何かが、光を吸い込むような淡い水色に輝いていた。
私は立ち止まり、周囲を見回す。ここは新宿の雑踏から1本入った裏通り。ビルの非常階段、埃っぽいアスファルト、自販機の低いモーター音。全てが現実で、全てがぼんやりと鈍い色をしている。この灰色の世界の中で、あの水色の輝きだけが、別次元から届く信号のように鮮やかだ。
「またか……」
私は心の中で呟き、マグカップの欠けを指でそっと撫でた。
水色の光は、私たちが当たり前だと信じている常識みたいなものが、少しだけ緩んでいる場所を示す。それは、昨日見た夢の続きだったり、遠い惑星の呼吸だったり、未来の記憶の断片だったりする。
以前、この水色に誘われて、古びた地下鉄のホームから、星が降る庭へと迷い込んだことがある。空気がプラチナのように重く、音が一つもなかった。あの時の冷たい風を、今も鮮明に覚えている。
マグカップの縁の水色は、今日の隙間が非常に小さいことを示していた。まるで、針の穴のように。でも、無視はできない。なぜなら、この水色が消えると、私はいつも何かしらの贈り物を受け取るから。
私はミルクティーを飲み干した。最後の水滴が消えて、水色の光もフッと消えたと同時に、ポケットの中のスマートフォンが微かに振動した。確認すると、見覚えのないアプリがインストールされている。画面には、「現界観測所」という名前のアイコンがあり、恐る恐るタップすると、画面に一つの座標が表示された。
――はいはい、今日はあそこまで行けってことね。
それは、この街の地図上で、ただの空き地として示されている場所だった。でも、私は知っている。私にとって、そこは今日、世界が最も薄くなっている場所だ。
水色は消えたが、その余韻がまだ手のひらに残っている。私だけの秘密の冒険は、いつもこんな風に、さりげなく始まる。
(了)
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