見出し画像

僕とフクロウの星空|掌編小説

 夏の終わり、夜風が少しだけ肌寒くなってきた頃、僕の秘密基地は一番の輝きを放つ。秘密基地と言っても、近所の神社にある大きなご神木の裏手にある、大人一人分くらいのスペースのことだ。昼間はセミの声がうるさいけど、夜になると、そこは僕だけの特別な場所になる。

 金曜日の夜は、心置きなく夜空を楽しめる日だ。お父さんとお母さんに見つからないように、こっそり家を出る。懐中電灯の光を頼りに、砂利道を進み、神社の石段を駆け上がり、ご神木の裏手へ行く。いつもの場所に着くと、僕は持ってきたレジャーシートを広げ、ごろんと寝転がった。
 木々の隙間から見上げる空は、もうすっかり暗い青色に染まっていて、小さな星たちが、ぽつりぽつりと瞬き始めていた。僕のお気に入りの時間は、ここからだ。最初はいくつかしか見えない星が、時間が経つにつれてどんどん増えていく。まるで、暗闇に散らばった宝石が、一つずつ姿を現すみたいに。
「うわぁ……」
 思わず声が漏れた。今日の星空は、いつもに増して綺麗だ。夏の大三角形も、天の川のぼんやりとした光も、全部くっきり見える。図鑑で見たオリオン座やカシオペア座を探すのはもちろん楽しいけど、僕はただぼんやりと星を眺めている時間が一番好きだ。
 星を見ていると、なんだか心が落ち着く。学校であったちょっと嫌なこと、友達との些細なケンカ、そういうモヤモヤが全部、星の光の中に溶けていくような気がする。
 ふと、隣に小さな光が見えた。
 ――ホタルかな?
 目を凝らすと、それは僕が持ってきた懐中電灯のスイッチだった。どうやら、寝転がった拍子に腕が当たって点いてしまったらしい。慌てて消そうとした、その時。
「わっ!」
 懐中電灯の光が、ご神木の幹に掘られた小さな窪みを照らした。普段は暗くて気づかなかったけど、そこには小さな木彫りのフクロウがちょこんと座っていた。手のひらサイズで、つぶらな瞳が星空を見上げているような顔をしている。
「いつから、ここにいたんだろう?」
 僕はそっとフクロウに触れてみた。ひんやりとした木の感触が、手のひらに伝わってくる。もしかしたらこのフクロウも、僕と同じように、夜な夜なここで星を見上げていたんじゃないか。そんな気がした。
 それから僕はフクロウと一緒に星を見るのが日課になった。僕が寝転がって星を眺めていると、フクロウも僕の隣でじっと空を見上げている。1人で見る星空もいいけど、誰かと一緒に見る星空は、もっと温かい。例えそれが、言葉を話さないフクロウの置物だとしても。
「いつもありがとう。また明日、ここで会おうね」
 次の日も、その次の日も、星は僕たちを優しく見守ってくれている。秘密基地の夜空の下で、僕と小さなフクロウのささやかな秘密はこれからも続いていく。
 この星空が、僕の心の中にある限り。

(了)


こちらもどうぞ。

いいなと思ったら応援しよう!

トガシテツヤ ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!

この記事が参加している募集