三毛猫の贈り物|毎週ショートショートnote
雨の午後は、三毛猫のミケと過ごすに限る。膝の上で丸くなるミケの体温は、湿った空気で冷えた僕の指先をじんわりと温めてくれる。
ミケは元々、この古いアパートの前の住人が飼っていた猫だ。前の住人というのは、半年前に亡くなった偏屈な時計職人の老人だった。
「なぁ、ミケ。君の元の飼い主さんは、一体何を隠したんだろうね」
僕が独り言を呟くと、ミケは面倒そうに少しだけ両目を開け、「フニャ」と短く鳴いた。
事の始まりは、一週間前に届いた一通の手紙だった。差出人は、亡くなった老人の遺産を管理しているという弁護士。手紙には、老人が遺言書とは別に、僕宛に「ある贈り物」を遺したと書かれていた。だが、その贈り物の在処については、「三色の道標が示す場所」という奇妙な一文が添えられているだけで、詳しいことは何も書かれていなかった。
僕は当初、それがこの三毛猫のことだと思ったが、ミケをいくら観察しても、首輪に鍵が付いているわけでも、体に地図が記されているわけでもない。ただの、食いしん坊で少し生意気な猫だ。
時計の針が午後三時を指した時、ミケが不意に膝から飛び降りた。ミケは部屋の隅、老人がかつて作業台として使っていた古い書き物机の前まで歩くと、そこに座り込んだ。
「……ミケ?」
ミケは僕を振り返り、前足で机の脚の付け根をトントンと叩く。僕は半信半疑でその場所に指を這わせた。すると、古びた木材の継ぎ目に、わずかな隙間があることに気づいた。そこには、小さな小さな、真鍮製の鍵が隠されていた。
鍵を手に入れたものの、今度は鍵穴が見当たらない。机の引き出しも、備え付けのクローゼットも、どの鍵穴も、この鍵に対して大きすぎた。
再びミケを見ると、今度は部屋の隅に鎮座している大きな古時計の前に移動していた。その時計は、僕が入居した時から止まっている。
「まさか、ここか?」
時計の文字盤の下、細工が施された木枠をよく見ると、目立たない場所に小さな穴が開いている。僕は慎重に真鍮の鍵を差し込んだ。カチリ、と乾いた音がして、時計の底板がゆっくりと開いた。
中から出てきたのは、一冊の古いノートと、錆びだらけの工具だった。ノートを開くと、そこには何かの設計図と、走り書きのメモが並んでいた。
『この時計は、現存する最後の時計だ。売ればいい金になるだろう。設計図と修理方法を記しておく。修理して自分で使うか、売って金に換えるか、好きにするといい』
――は?
僕はノートを手にしたまま固まった。こんな古い時計、売れるとは到底思えない。むしろ、処分料がかかる粗大ごみだ。
「困るなぁ、まったく……」
ミケの頭を撫でると、ミケはニャゴニャゴ言いながら眠ってしまった。
一年後。
僕は念願の庭付き一戸建てを購入した。
――現金一括払いで。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
お題は「三毛猫トリプルアクセル」です。
三毛猫と言ったら、もう赤川次郎の「三毛猫ホームズ」しか出てこない!
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