スネーク満床|毎週ショートショートnote
――ピンポーン。
――ガタガタガタ……。
「はいはいはい! ちょっと待て!」
――まさか、あいつか?
出なくても、誰が来たのか分かる。
引き戸を開けると、予想通り2メートルを超えるであろう、ヒグマが立っていた。
「……冬眠中では?」
「気分転換に起きただけや」
「ちょっと痩せたんじゃない?」
「まぁ、冬眠中はなんも食わんからな」
9月に会った時は「ザ・ヒグマ」と言わんばかりのフォルムだったが、今はシュッとしていて、心なしかイケメンに見える。
「あんたにお客さんやで」
「お客さん? どこ?」
クマの後ろを覗き込んだが、誰もいない。
「あのー……」
小さなヘビがクマの両足の間から首を出している。とりあえずしゃがみ込んで視線を合わせた。
「初めまして。ベンジャミンと申します。近くの診療所で看護師をしています」
「はぁ、どうも……」
ペコリと律儀に頭を下げるヘビに、こちらもお辞儀を返す。診療所でスタッフを募集しているのは知っていたが、まさかヘビでも受け入れオーケーだったとは。猫ではなく、ヘビの手を借りたわけか。
――ヘビって、手があるのか?
いろいろと思うところはあるが、「考えたら負け」の真理に従い、頭を「無」にする。
「実はインフルエンザが流行っていて、診療所のベッドが満床なんです。そちらの物置を一時的に使わせて頂きたいのですが……」
「ああ、どうぞどうぞ」
ヘビは「ありがとうございます」と頭を下げた。
「このクマさんとは、どこで会ったの?」
「道を歩いていたら、たまたま」
「あー、たまたまね……」
クマは「フン」と鼻を鳴らした。
「前にもこんなこと、あったよね?」
「あー、確か秋田柴子さんトコの柴ワンコやったな」
以前、秋田柴子さんの飼い犬の柴ワンコが極寒のオホーツクにやって来た。……と思っていたのだが、実は秋田柴子さんの正体は秋田犬のアキタと柴ワンコのユニットだったと知り、少なからず衝撃を受けたのである。
ユニットってカッコいいな。俺も「トガ&かに」でユニット組むか。
「最近、秋柴さん、活躍しとるらしいで?」
「まぁ、そうらしいね」
「あんたはどうや?」
「俺はほら、仕事が忙しくて」
「あかんあかん。仕事を言い訳にしたら終わりや」
「うっさい」
――クマと違って人間は忙しいんだよ。
心の中で思ったが、口には出さなかった。
「あのー……よろしいでしょうか?」
「あ、ゴメンゴメン」
ヘビが心配そうに、俺とクマを交互に見ている。
「物置の賃料については、また後日ご相談させて頂きますので」
「オーケーです」
賃料を払ってくれるなんて、なんて気前のいい診療所なんだ。あのオンボロ診療所に、そんな金があるとは思えないが。
「金の話が出た途端、目の色が変わったで? 現金な奴やなぁ」
「黙りな」
図星だから余計に腹が立つ。でも、仕方がない。雪国の冬は金が要る。灯油代がバカにならないが、極寒のオホーツクで灯油代を削ることは、命を削ることに等しい。
「さて、あとは2人でやったらええ。ワシは帰るでな」
「ああ、気をつけて」
痩せても、やっぱり岩のような大きな背中を揺らしてクマは歩いて行った。
「1つ聞くけど、毒持ってる?」
「ええ、噛んだら人間は6秒で死にます」
「こわっ! 6秒ってめっちゃ具体的!」
思わず飛び退いた。毒ヘビが看護師やっちゃいかんだろう。
「でも、『毒と薬は使いよう』ですから」
「なるほどね」
さすがに自分のことをよく理解しているようだ。ある意味、人間の看護師よりも優秀かもしれない。
「そう言えば……あのクマさん、どうして大阪弁なんですかね」
「あ! しまった! またまた聞き忘れた!」
いつものように聞き忘れたが、別に聞かなくてもいいかなって思う。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「スネーク満床」です。
「レッドスネークカモン!」しか思い浮かばず、しかし、このネタで書くのは私のプライドが許さなかったので、勝手ながら秋田柴子さんに再登場して頂きました。
秋田柴子さんの登場回はこちらです。
こちらもどうぞ。
テーマ「創作」でCONGRATULATIONSを頂きました!

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