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第三章|「売る」は、言葉で設計できる

価値は、作るものではなく、
伝え方と体験の中で立ち上がる。

この章では、マーケティングを
「売る技術」ではなく「価値を言語化する設計」として捉え直す。


1.マーケティングの世界はモノ→コトを売る世界に|「売れている理由」が変わったという話


―― 技術や機能だけでは評価されにくくなった理由

売上のない企業はない

全ての事業会社は、何かしらのモノか、何かしらのコトを売って活動している。

マーケティングとは、売る方法のことと定義される。コトラーを始め、マーケティングについてはアメリカ発祥でいくつも理論が提示されているが、どの本であっても、マーケティングとブランディングはセットになっている。

あなたが日頃接している事業会社も、売り方で悩んでいる。どうすれば「高く、効率的に」売れるのか。大胆に言えば営業をせずしてポコポコと売りたい。そしてそれが未来永劫続いて欲しい。そう願いながら、願いは叶わないことを知りつつ、マーケティングについて考えている。

最初に結論を言ってしまえば、世の中はモノを売る時代から、コトを売る時代に進化している。百貨店に魅力を感じなくなっていることは気付いているだろうか。「大きいことはいいことだ」「大は小を兼ねる」でやっていけた時代はもう久しい。百貨店はどんどん潰されている。

モノを買うのに、そこでなくてはならない理由が必要になっている。筆者の個人的な意見では、書店と家電量販店を除くと、大きいことのメリットを感じない。その両者も、アマゾンの進出・発展が、生鮮食品まで扱ってその日のうちに届くような時代になって、これまた潰れていく。書籍に触れないでネット通販で買い、電子書籍を読むということが普通になって、老いた世代は気に食わないかもしれないが、新聞社もそのうち淘汰されるであろう。

テレビを見てみよう。あるチャンネル独自の番組をあなたはいくつ思い付くであろうか。どの番組も、クイズか食べ物か旅番組で、多くの芸人が出演し、ドンチャン騒ぎで時間を稼いでいる。これは、局側の予算的な都合もあるだろうが、「予算の都合」だけを理由とするのは論理的(ロジカル)ではない。

マーケティングの基礎理論、「競争する2つの事象は真ん中に近付く」という必然的な結果である。テレビ番組という身近な例を出して、ゆっくり図を書いて「真ん中に近づいたがゆえに食べ物番組が増える」理由を説明できるようにしよう。

さて、必然的に中庸な品質のサービスが溢れかえる中で、一体どのようにしたら、中小企業の活路は見いだせるのであろうか。

大企業に立ち向かうには、経営資源が不足している。そこで、小さな企業であっても太刀打ちできる「模範困難性の高いコト」を売ることが肝要だ。これが冒頭に結論づけた、「世の中は、モノを売る時代から、コトを売る時代に進化している」という命題そのものの解答だ。


コトラー

今日のマーケティングを語る上で、コトラーを外して語ることはできない。コトラーは1930年代の生まれで、マーケティングのという概念の道を拓いたとされる。我々がよく知っているマーケティングの4Pはコトラーの記したものではない(マッカーシーという人が提唱した理論だ)が、それに応用を加えた6P理論や、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングを記したSTP理論などが有名だ。

マーケティングの4P・4C

社会人としては、4Pだけ言えるのでは1年生なので、内容を理解して進もう。

4Pを復習すると、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)で、6Pとなるとそこに、public opinion(世論)・political power(政治力)が加わる。ここまでで2年生だ。

何度も言うようにフレームワークは道具であって、6個に分解しなくてはならないというわけではない。その時々によって使い分ける必要があるが、大切なのはお客様に説明するときに、なぜ4つでないのか(6つでないのか)を明らかにすることにある。

コトラーのマーケティングの定義と、アメリカマーケティング協会の定義を見比べてみよう。

コトラー「マーケティングとは、個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズや欲求を満たす社会的・管理的プロセスである」

アメリカマーケティング協会(2007年)「マーケティングとは、顧客やクライアント、パートナー、さらには広く社会一般にとって価値のあるオファリングス創造・伝達・提供・交換するための活動とそれに関わる組織・機関、および一連のプロセスのことを指す」

かつて、経済学の分野でケインズが有効需要の原理を説くまでは、つまり作ればモノが売れるという時代においては、「はじめに製品ありき」で生産中心志向となっていた。その後、大量生産が可能になった段階では、製品を市場に出して反応を見るプロダクト・アウトの考え方に変化する。

そしてドラッガーは「マーケティングの究極の目的は押し売りを不要にすることだ」と説いて、プロダクト・アウトには限界があるとした。ようやく顧客志向になる。マーケットインという時代になる。市場にあった製品を生産しよう、販売しようという、成熟市場のマーケティング・コンセプトだ。

コトラーは、生産志向と販売志向の中間に製品志向という考え方を位置づけた。製品志向は簡単にいえば、「企業は不断の努力を以って製品を改良せよ」ということである。さすがに第一人者だけあり、説得力がある。

第二次世界大戦後、1960年代から、マーケティングは社会との関わりが重要であるという概念に到達し、ソーシャルマーケティングの時代になる。

コトラーの教科書では、マーケティング・マネジメントプロセスを7つの段階に整理している。こんなの、記憶しようとは思わないこと。

①マーケティング環境の分析
②マーケティング目標の設定
③市場細分化
④標的市場の選定
⑤市場ポジショニング
⑥マーケティング・ミックスの開発
⑦マーケティング・ミックスの実行

あなたが、新規ビジネスを検討しているベンチャー企業の社長さんに助言(コンサルティング)をするとしよう。本テキストをここまで読了してくれたあなたは、もうすでにわかっているはずだ。有効に相手にモノを伝えるためには、フレームワークは省略されることがしばしばある。しかし、どこを省略したのかははっきりと意識しなくてはならない。そのために、フレームワークを理解しておくことは必要だ。理解していればいい。覚えておく必要はない。いつでも確認のためにネットで調べることができるからだ。

マーケティング環境の分析では、外部環境の分析をマクロ・ミクロ両面から行い、次にその企業の内部資源(リソースという言葉が慣れていればそれだ)を分析する。保育事業を計画するときに、まさかインドでやろうという人はいないだろうから、日本ないしは東京を中心とした首都圏となる。その部分を資料化するのか説明を省くのか、優れた社会人は「ない部分」にも配慮しよう。

マーケティング目標の設定では、売上や利益、シェアや、ソーシャルマーケティングの考えに基づいて企業イメージの向上など、定量的・定性的[3]両面を設定しよう。売上、利益等については、別の講義において、「財務会計」の入門を学習するので、そのときにしっかり学ぼう。

市場細分化では、マーケティングの目標に基づいて、ターゲットを絞る。ここで本章の冒頭で説明したことを思い出そう。なぜ市場を「細分化」しなくてはならないのか。それは、日本市場をターゲットにするのでは、もはや消費者の嗜好やニーズに合致しない。合致しない商品は、特徴のないテレビ番組と同じだ。

テレビからYouTubeに視聴者が流れているのはなぜか。YouTubeであれば消費者は、自分の嗜好を充足する動画を好きなときに好きなだけ(オンデマンドというコトバも古くなった)見ることができる。一方、テレビに至ってはその番組が始まるまで待たねばならないというマイナス要因がある。マスマーケティングの時代は終わったので、市場を細かく分けて、最も効果的なマーケティング戦略を打とうとしているのである。

市場細分化を行う場合にはお作法がある。

a)測定できること(定量的に購買力を把握できること)
b)到達できること(物理・論理両面でたどり着けること)
c)維持できること(ワンショットで終わらないこと)
d)差別化できること(製品が既存のものと違う反応を得ること)
e)実行できること(当たり前だ)

市場細分化を行う場合には、共通のモノサシが必要となる。ジオグラフィック(地理的)基準、デモグラフィック(人口統計的)基準、サイコグラフィック(心理的)基準、行動変数基準などがモノサシとして有効だ。身近な事例に当てはめて理解を深めよう。

標的市場の選定では、市場間の差異を考慮せず単一のマーケティング・ミックスを投入する無差別型、市場ごとにニーズに適合した複数のマーケティング・ミックスを投入する差別型、特定市場に限定して最適なマーケティング・ミックスを投入する集中型の3つをコトラーは述べている。もちろん、各々の型でメリデメはある。1つずつ型のイメージを思い浮かべてみよう。

市場ポジショニングにおいては、知覚マップを使う。4つの象限で分析するのは、例えばビールでやってみると面白い。実践してみよう。

マーケティング・ミックスの開発 マーケティング・ミックスの実行 の2点は、マーケティングの4Pや6Pを使って、競争優位性を保てるように実行するフェーズだ。企業への提案もそうであるが、計画段階は大変大事だ。⑥以降になって失敗しないために、①〜⑤に時間をかけるのが通例である。

購買行動

当然の話だが、マーケティング・ミックスは、購買してもらわないことには始まらない。コトラーは、購買意思決定プロセスについて、5つの段階があるとした。
① 問題認知
 → ②情報探索
 → ③代替品評価
 → ④購買決定
 → ⑤購買後の行動

こういうプロセスは、実際に経験したことを元にした方が理解しやすいのは、本テキストのテーマである。各自プロセスのひとつひとつについて、卑近な事例で考えてみよう。

情報の探索においては、購買者の身近にいる人が影響を持つ。この影響を与える集団のことを準拠集団と呼ぶ。端的に言えば、パソコンを買おうとするときに、身近にいるWindows派、Mac派どちらの声が大きいかで、購買行動は左右される。となれば、マーケティング側としては、準拠集団を作ってしまって拡大すればよい。「iPhoneにしなよ」の声が大きいのは、自然発生ではない。アップルという企業が仕掛けているのだ。

本項の仕上げとして、消費財においては、消費者の購買特性の違いによって、最寄品・買回品・専門品・非探索品の4つに分類されることを記しておく。自分の周りにあるものが、どれに当てはまるのか、考えてみよう。

ブランディング

さて、ブランドの語源について、あなたはすぐに言えるだろうか。もともとは識別子としての牛の烙印のことだ。ある企業が、または製品がマーケットで一定の評価を得るためには、他と区別できる、つまり競争優位に立っていることを証明するブランディングが重要になる。

ブランドの使用者が製造側ならNB、販売側ならPBだ。NBを製造している企業は、工場閑散期の稼働率向上および平準化を図るため、PBを請け負うことがある。あるコンビニやスーパーのPBのポテトチップをどこが作っているのか、調べてみると興味深い。

ブランドは更に、5つの戦略に分けることができる。

①ファミリー統一ブランド(マクドナルド、キッコーマン)
②ダブルブランド(キリンラガー・キリン一番搾り)
③ブランドプラスグレード(ベンツのCクラス、Eクラス、Aクラス)
④個別ブランド(NECのパソコンにおいて、コンシューマーモデルを「LaVie」、コーポレートモデルを「VersaPro 」とする)
⑤分割ファミリーブランド(ナショナルとパナソニック)

ブランドには機能がある。

①出所表示
②品質表示
③宣伝広告
④資産価値(ブランド・エクイティ)

  a)知名度
  b)ロイヤルティ(忠誠心)

  c)知覚品質
  d)ブランド連想


ブランドと製品カテゴリー

ライン拡張は、ポテトチップスを思い浮かべるといい。のりしお、コンソメパンチ、その他の味が出ている。生産ラインの拡張だ。

ブランド拡張は、ホンダが車、バイク、スノーモービルなど様々な分野に共通の「ホンダ」ブランドを拡張していったことを指す。

マルチブランドは、ルイヴィトンを展開するLVMHを思い浮かべよう。マルチブランドとしてクリスチャンディオールなども展開している。マルチブランドには、デパートなどで売り場を占めることができる効用と、ブランドスイッチ(ブランドを切り替えてしまう)する購買者を引き止める効果がある。


サービス・マーケティング

さて、今まではモノについてのマーケティングを述べた。次は、我々の業態でもある、サービス・マーケティングについて述べる。サービスの特性は下記の5つだ。

消費財と何が異なるのか、どのように対応したら、サービス・マーケティングとして適切か、よく考えてみよう。

①サービスは無形性を持つ。触れない。よって、サービスは例えば資料やクライテリア[5]などで可視化することが求められる。

②サービスは品質の変動性を持つ。時と場所によってサービスのレベルは均質に保てない。よって、マニュアルや訓練などによる正確性・再現性が求められる。

③サービスは不可分性を持つ。サービスを提供する側と、提供される側は、必ずその場にいる必要があり、生産と消費が同時に行われることになる。よって、同時に多数の相手にサービスができる方法などを考えねばならない。

④サービスは消滅性を持つ。生産と消費が同時に行われるため、在庫を持つことができない。よって、需要が多いときと少ない時の差を平準化する必要があるし、供給サイドとしてはバイトを増やすなどの対応が必要だ。

⑤サービスは需要の変動性を持つ。よって、④と同様の対応が必要だ。


新しいマーケティング

本章の最後は、新しいマーケティングの概念だ。コトラーを始めとする、マーケティングの4P(6P)に代表されるモデルは、今日限界を迎えている。時代は常に変化し、嗜好は多岐に渡る。顧客の嗜好の多様性と呼ぶ。CRMの概念は、顧客との関係性をマネジメントしようということであり、CRMは決してシステムの名前(コールセンターや見込顧客の整理システム)ではない。

あなたは、パレートの法則とロングテール理論をきちんと定義できるだろうか。企業の売上の80%は、20%の優良顧客で占められているため、基本的にはCRMにおいては、上位20%を囲い込むことが要求される。

一方で、PLC(製品ライフサイクル)は短くなり、パソコンの機能は上がる一方で、個別の消費活動はマスマーケティングでは対応できない。更には、ロングテールの部分にもアピールせねばならない。

CRMの中には、RFM分析やFSPによる囲い込みなども含まれる。消費者の行動を分析するためにAIDMA(アテンション・インタレスト・ディザイア・メモリー・アクション)モデルやAIDCA(Cはコンヴィクション:確信)モデル、一方で経験価値マーケティングを展開し、インターナルにもエクスターナルにもマーケティングを実施していかなくてはならない。わざと用語を羅列したが、マーケティングも、システムの世界同様、日々進化し、新しい言葉が生まれては消えていく。ちなみにコトラーは、1931年生まれで、2024年現在、ご存命だ。

モノを売るだけでは生きていけないと悟った企業は、コトを売るようになった。顧客の囲い込みが大変で、ブランドスイッチの危険性もあるため、一人に対して矢継ぎ早に押し売りする時代ではなくなった。顧客生涯価値を高める方策を、企業は模索し続けている。

あなたは優れた社会人だ。あるモノを売ってくれと言われたら、コトを売りましょうと誘導せねばならない。原価と売上の差が利益というのは不滅の公理であるが、その原価の捉え方、売上の捉え方は、顧客一人ひとりが生涯生み出す売上によって決まる。ライフタイムバリューの考え方を理解し、拙速な商売にはしることを阻止せねばならない。そうすることで、顧客に対して価値のある提案になろうというものだ。

※本note記事は、これまでに公開してきた記事をもとに、構成を見直し再編集したものです。

👉第四章 会議は「話し合い」ではなく「合意形成の装置」だ

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