【コンビニ人間】 芥川賞読んでいく:12冊目【2016年受賞作】
芥川賞の受賞作を片っ端から読んでいくということをしています。
今回は 第155回 芥川賞受賞作 コンビニ人間について考えていきます。
コンビニに居続けるには『店員』になるしかない

そんなコンビニで働く私は、同僚とコンビニについて話している。
「白羽さんの言うとおり、世界は縄文時代なのかもしれないですね。ムラに必要のない人間は迫害され、敬遠される。つまり、コンビニと同じ構造なんですね。コンビニに必要ない人間はシフトを減らされ、クビになる」
「コンビニ……?」
ムラとコンビニはいらない人間を排除する構造を共有しているという。
「コンビニに居続けるには『店員』になるしかないですよね。それは簡単なことです、制服を着てマニュアル通りに振る舞うこと。世界が縄文だというなら、縄文の中でもそうです。普通の人間という皮をかぶって、そのマニュアル通りに振る舞えばムラを追い出されることも、邪魔者扱いされることもない」
「何を言っているのかわからない」
コンビニにいるためには店員になるしかない。
ムラにいるためにはムラにとって普通の人間で居続けるしかない。
最近読んだ別の作品もムラに居続ける条件を書いていた。ムラに居続けるためには考えすぎてはいけない。普通にして掟を守らないといけない。
皆の中にある『普通の人間』という架空の生き物を演じる
「つまり、皆の中にある『普通の人間』という架空の生き物を演じるんです。あのコンビニエンスストアで、全員が『店員』という架空の生き物を演じているのと同じですよ」
「それが苦しいから、こんなに悩んでいるんだ」
「でも白羽さん、ついさっきまで迎合しようとしてたじゃないですか。やっぱりいざとなると難しいですか?そうですよね、真っ向から世界と戦い、自由を獲得するために一生を捧げる方が、多分苦しみに対して誠実なのだと思います」
白羽さんは言葉がない様子で、コーヒーをただ睨んでいた。
「だから、難しいなら無理することはないんです。白羽さんと違って、私はいろんなことがどうでもいいんです。特に自分の意思がないので、ムラの方針があるならそれに従うのも平気だというだけなので」
ちょっとよくわからないな。「『店員』という架空の生き物を演じ」ることは、「真っ向から世界と戦」っていることだから「苦しい」んだろう?
私も「ムラの方針があるならそれに従」っているわけだから、周囲に対して『普通の人間』になろうとしている点は同じなのではないか。
皆が不思議がる部分を、自分の人生から消去していく。それが治るということなのかもしれない。
ここ二週間で14回、「何で結婚しないの?」と言われた。「何でアルバイトなの?」は12回だ。とりあえず、言われた回数が多いものから消去していってみようと思った。
私は躊躇なく「皆が不思議がる部分を、自分の人生から消去していく」。それは苦しみを生じないのだろうか。
芥川賞受賞作の『杳子』でも同じようなテーマが潜んでいる。
「姉さんが、病院に行くよう君を説得してくれって言ってたよ」
「あなたが行けって言えば、今すぐにでも行くわよ」
「病院に行ってどうなるの」
「健康になるのよ」
「健康になるって、どういうこと」
「まわりの人を安心させるっていうことよ」
近いうちに記事を書きます
普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ
小説中には過激な言い合いも
「それはね、あんたがおかしすぎたからですよ。36歳の独身のコンビニアルバイト店員、しかもたぶん処女、毎日やけにはりきって声を張り上げて、健康そうなのに就職しようとしている様子もない。あんたが異物で、気持ちが悪すぎたから、誰も言わなかっただけだ。陰では言われてたんですよ。それが、これからは直接言われるだけ」
「え……」
「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。でもね、僕を追いだしたら、ますます皆はあなたを裁く。だからあなたは僕を飼い続けるしかないんだ」
普通じゃない人間を裁判して排除する。
プラトンのソクラテスの弁明は、アテナイの青年たちを腐敗させたことと神を冒涜した罪でソクラテスが死刑になる。いつの時代も集団から排除される構造というのはある。ただ、その構造の中身は複雑だ。
最後には結局、私はコンビニを辞めることになる。
全てを、コンビニにとって合理的かどうかで判断していた私は、基準を失った状態だった。この行動が合理的か否か、何を目印に決めればいいのかわからなかった。店員になる前だって、私は合理的かどうかに従って判断していたはずなのに、そのころの自分が何を指針にしていたのか、忘れてしまっていた。
普通の判断には、何か目印となるものが必要なのだ。コンビニで合理的だったことは、コンビニの外では合理的ではないし、それはどんな場所だっておなじことだ。ただ、恐ろしいのは人間がどんな環境にだって慣れてしまえるところにあるのかもしれない。
こちらに読んだものをまとめています
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