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【ひとり日和】 芥川賞読んでいく:28冊目【2006年芥川賞】

芥川賞の受賞作を片っ端から読んでいくということをしています。
今出せる自分の力で、読んだ本の感想を書いていきます。
今回は、第136回 芥川賞受賞作 ひとり日和
花弁が混じる葉桜のように刹那的なやさしさであふれる小説です。


他人の私物をくすねる癖のある私は、いろんなものをくすねては箱に入れて保管している。居候している七一歳の吟子さんの部屋からも首の取れたピエロ人形などをとっている。
彼女がとるものはどれも取られても気づかれないような価値の希薄なものだ。彼女は物語の後半、吟子さんを家から離れ一人暮らしをすることを決意する。引っ越す前に吟子さんから拝借したものを返しにくる場面。

その晩、わたしはダンボールだらけの部屋で、あの靴箱を開けた。
靴箱の中の小物たちは最近、わたしを慰めてくれない。心を思い出に引き戻すだけだ。苦かったり甘かったりする記憶を、自分ひとりで楽しむ手伝いをするだけだった。
それでもわたしは箱を捨てることができない。長いあいだ、頼りすぎた。靴箱を持ち上げて揺らしてみると、中のがらくたたちがかしゃかしゃと乾いた音をたてる。
ロシア人形と、緑の別珍の箱と、首の取れたピエロ人形をつかんで吟子さんの部屋に行った。寝込みに忍び込むのは、これで三回目だ。ふすまが音をたててしまうポイントも、きしみが激しい畳の位置も、なんとなく知っている。息を殺して、手に持っているものをひとつずつもとあった場所に戻していった。
何かひとつくらい、ちょっとしたものを記念にいただいていくつもりだったのに、迷っているうちに何も欲しくないような気がしてきた

彼女は欲しくて他人のものをくすねているわけだはない。理由は本人にもよくわからない。

「とらなくたって、あげるのに」

吟子さんの枕元に座ってみる。この小さいおばあさんが、もう悲しんだりむなしくなることがなければいいけど、無理なんだろう。使い果たしたと思っていても、悲しみやむなしさなんかは、いくらでも出てくるんだろう。
「戻って寝なさい」
驚いて、わっと声をあげた。
「起きてたの」
「ああ」
「いつから」
「最初から」
「…...」
「ずっと前、あの人形を取りにここに来たときも起きてたよ。年寄りは眠りが浅いから」
彼女は目をつむったまま言う。
「やっぱりね。起きてると思ってた。全部戻したよ」
「年寄りをばかにしてるねえ」
「うん、してた」
「ばかだね」
「うん……」
「とらなくたって、あげるのに」
でもほしくないんだもん、とわたしが言うと、吟子さんは目を開けて短く笑った。

「とらなくたってあげるのに」という言葉がなんとも静かで心にしみる。

「吟子さん」
「なあに」
「あたし、こんなんでいいと思う?」
吟子さんは答えなかった。静かな視線が、わたしの顔や、肩や、胸や足の上に筆を当てるように、順に動いていった。そのたびに、淡い色をのせられていくような感じがした。
わたしはもう一度同じ質問をした。
「さあ。わからないわね」
吟子さんは静かに微笑むと、寝返りを打ってあっちを向いてしまった。
「吟子さん。外の世界って、厳しいんだろうね。あたしなんか、すぐ落ちこぼれちゃうんだろうね」
世界に外も中もないのよ。この世はひとつしかないでしょ

言葉で説明したくない小説の一つです。読めばわかる。


ちなみに、世の中の外側と内側、その境界について考えさせてくれる小説が好きなら下の小説がおすすめです。


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