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歩くには、少し遅い 第三十二回

朝の赤穂市は穏やかだった。

海は昨日と同じ色をしている。

県境を越えた実感は、
もう身体に馴染んでいる。

東へ。

国道を歩く。

交通量は少し増える。
町の気配も濃くなる。

姫路が近い。


昼前、腹が鳴る。

立ち寄ったのは
えきそば まねき 姫路駅店。

姫路名物、えきそば。

和風出汁に中華麺。

不思議な組み合わせだが、
これが妙にうまい。

甘い出汁が身体に染みる。

立ち食いのカウンターで、
隣の作業着の男と肩が触れる。

それが嫌じゃない。

少しだけ、人の温度を受け入れている自分に気づく。



食後、スマホを取り出す。

初めて、観光地を調べる。

姫路城。

別名、白鷺城。

世界遺産。
現存天守。
四百年以上、ここに立ち続けている。

写真を拡大する。

白い。

圧倒的に、白い。

備前の土色とは正反対だ。

削るだけではなく、
積み上げる強さもあるのかもしれない。

少し、胸が高鳴る。



午後、姫路市街へ入る。

姫路市。

駅前からまっすぐ伸びる大通り。

その正面、遠くに白い影。

近づくにつれて、大きくなる。

城は逃げない。
堂々としている。

これまでの町とは明らかに違う。

観光客も多い。
外国語も飛び交う。

だが、不思議と気後れはしない。

むしろ――
少し楽しみだ。

中に入ってみようと思う。

天守からの景色を見たいと思う。

そんな自分に驚く。



城の前で立ち止まる。

石垣。
白壁。
空に伸びる屋根の曲線。

巨大だ。

人間の一生など、
この城から見れば一瞬だろう。

それでも、
俺はここまで歩いてきた。

四十八年。
そしてこの旅。

小さいが、確かな積み重ねだ。

城は威圧しない。

ただ、在る。

ならば自分も、
ただ立てばいい。

無理に強くならなくてもいい。

積み重ねればいい。

そう思えた。


夕方、城を背に市街を歩く。

今日は少し、姫路を楽しもう。

この旅で初めて、
観光が楽しみになっている。

それも悪くない。

城の白は、
どこか未来の色に見えた。

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