【聖なる経済学】 暗号通貨革命①
訳者コメント:
2010年代に登場した暗号通貨は、一体何の役に立つのか分からないという状態から、投機対象として注目され、膨大な電力を使ったマイニングブームの時代を経て、今は更に膨大な電力を消費するAIの影に隠れて沈静化しているように見えます。暗号通貨の当初の目的は、中央集権的な制度に頼らない「価値」の表現手段を作ることでした。これが貨幣制度にもたらす意味を考察していきます。
ビットコインの創設者であるサトシ・ナカモトは謎に包まれています。おそらくは偽名で、本人が誰なのかも特定されていません。なぜそのような登場の仕方をしたかといえば、それが中央集権的な金融権力に反抗する側面を持つ技術だからです。
◆
暗号通貨革命
もしも私たちが「お金」と呼ぶ合意を構成している複雑で厄介な社会・政治的交渉が、公平なアルゴリズムに置き換わったなら、どんなに素晴らしいことでしょう。銀行や中央当局から通貨を発行する権限を奪い返し、それを人々に返還できれば、どんなに素晴らしいことでしょう。
これこそが、ビットコインなどの暗号通貨が掲げた約束ですが、その約束は永遠に地平線の彼方に留まり続けているようです。とはいえ、それらが直面してきた障害は、〈聖なる経済学〉に沿った未来の貨幣制度を構築するために役立つ重要な真実を浮き彫りにしています。
ここで、ブロックチェーンを基盤とする暗号通貨やその代替手段について、詳しく説明はしません。こうした情報はすでに豊富に存在しますから、読者の皆さんが以下の議論を理解するために必要な基礎知識は、自ら習得できるはずです。
ビットコインの原点となった白書で、その伝説的な創設者であるサトシ・ナカモトは、「電子キャッシュ」という新しい形のお金としてビットコインを構想しました。これは的を射た表現です。なぜなら、信頼に依存する信用とは異なり、ビットコインは取引の当事者同士が互いを信頼する必要も、どんな第三者を信頼する必要もないという点で、現金に似ているからです。必要な信頼は、他の人々にそれを通貨として受け入れる意思があること、すなわちその「価値の物語」に対する信頼だけです。
したがって、もし誰かから100ドル紙幣を受け取った場合、それが偽造でないことを確認できれば、支払者を信頼する必要はありません。信用リスクは存在しません。その人はもう私に対して支払いを済ませているからです。しかし、今日の通貨のほとんどは信用通貨です。銀行の残高とは、単に銀行があなたに負っている債務の記録に過ぎず、あなたが小切手を書いたり電子決済を行ったりすると、銀行が受取人に資金を送金し、あなたの口座から適切な金額を引き落とすことを信頼しているのです。銀行は信頼の預かり所です。私がベライゾン〔アメリカの大手電気通信事業者〕の請求書を支払う際、ベライゾンは私を信頼する必要はありませんが、自社の取引銀行、ひいては銀行制度全体を信頼する必要があります。
暗号通貨は、信頼できる第三者の存在を不要にします。誰がいくらのお金を持っているかという記録を銀行やその他の機関が管理する代わりに、台帳が多数のノード〔取引を検証する役割を担うコンピュータ〕に分散されています。各ノードは取引履歴全体のコピーを保持しており、それにはどのユーザー(暗号鍵としてのみ識別される)がいくら分のビットコイン(あるいは何であれ使用されている通貨)を保有しているかが示されています。銀行は理論上、単に口座残高の数字を変更するだけであなたから資金を奪うことが可能ですが、ビットコインの場合、残高がすべてのノードに記録されているため、誰もそのようなことはできません。
しかし同じようにして、銀行やクレジットカード発行会社は不正な請求を取り消すことができます。現金取引だとそれは不可能で、ビットコイン取引でも同じです。申し立てを行うべき第三者は存在しません。信頼の無い取引は取り消し不可能な取引であり、社会が不道徳、非倫理的、犯罪的とみなす支払いを無効にする能力を、著しく制限することになります。
ふつう私たちが仲介役の信用機関に抱く信頼は理にかなったものです。たいていの場合、不正な請求を取り消したり、口座残高を正確に管理したりしてくれると期待できます。銀行規制や預金保険によって私たちの信頼は固められるので、その信頼は規制や政治システムへの信頼へと広がっていきます。過去80年間、先進国では銀行の取り付け騒ぎはほとんど見られなくなりました。私たちの信頼は理にかなったものです。でも果たしてそうでしょうか。
銀行があなたのものだと認めている資金を、使えなくしてしまう状況はいくつか存在します。法律により、特定の種類の犯罪活動に関連する銀行口座の凍結が義務付けられています。ほとんどの人がこれに異議を唱えないのは、その資金はそもそも不正なものだと認識しているからです。法律が公正であり、政府が道徳的であり、金融システムに腐敗がないという前提が正しければ、銀行のような信頼できる第三者に依存する金融システムには、理論的には何の問題もないことになります。
残念ながら、これら三つの前提はいずれも疑わしいものです。例を挙げるなら、次に金融危機が起こったら銀行の「ベイルイン」で対応するという計画はどうでしょうか。米国や欧州など各地の政策に盛り込まれ、2013年にキプロスで実証実験が行われたベイルイン制度は、債務超過で破綻寸前の銀行がデリバティブ負債を返済するために預金口座から資金を引き落とすことを認めるものです。デリバティブ負債は、米国の2010年ドッド・フランク法によれば最優先の地位を与えられています。より一般的な要点は、富裕で中央集権的な金融機関が支配する制度においては、彼らが私たちのために信託として預かっている資金が、必ずしも安全とは限らないということです。
また、支配者層がもつ第三者信用機関を信頼することを警戒すべき政治的な理由もあります。ベネズエラがこのことを身をもって痛感したのは、連邦準備銀行に同国名義で保管されていた金の引き出しを米国政府が拒否した時でした。2020年にドナルド・トランプ大統領は、イラクが米軍の駐留継続に同意しない限りイラクの連邦準備銀行口座を凍結すると脅しました。さらに米国は、国際送金・通信ネットワークであるSWIFTに対する支配権を利用して、ロシア、イラン、ベネズエラなど、米国の覇権に挑む地政学的ライバルに対して圧力をかけています。おそらく分散型システムであれば、そのような干渉の影響を受けることはないでしょう。
さらに監視の問題もあります。「本人確認(KYC)」に関する法律のおかげで、銀行口座は特定可能な個人や企業と紐付けられているため、匿名での取引は不可能となり、犯罪行為の追跡が可能になっています。確かに、税務当局としては、あらゆる取引記録が残ることを望んでいるでしょう。もし私たちが完全に民主的で公正な社会に暮らしているなら、そこに何の問題もありませんが、この仕組みは、金融システムが監視や政治的迫害の手段として利用される可能性も生み出してしまいます。デジタル時代において現金の役割が縮小するにつれ、全体主義的な統制が行われる可能性が高まっているのです。
(②に続く)
前< タイムバンキングと相互信用③
目次
次> 暗号通貨革命②
◆
翻訳メモ:
cryptocurrency:暗号通貨。暗号資産や仮想通貨と訳す向きもありますが、字面通り暗号通貨とします。
