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【聖なる経済学】 マイナス金利:現代における応用と理論①

訳者コメント:
1990年代以降の日本で経済刺激策が機能せず、いわゆる失われた30年になっているのは、もはや経済成長できる領域がなくなってしまったからです。日銀は2016年から2024年までマイナスの短期金利でした。これは異常なことだと捉えられていますが、経済成長が不可能になった社会ではマイナス金利の方が「正常」なのです。それを認めたくない政府は、躍起になって経済成長のタネを模索し、どうやら兵器産業に狙いを定めたようです。他国の人々の生活を破壊してまで自国の経済を成長させるというのは、まさに経済成長の輸入(というか略奪)でしょう。
 情報公開の重要性について言っている最後の文は、日本の現状を見ると悲観せざるを得ません。人々の生活が監視カメラによって丸見えにされる一方で、特定秘密保護法のことを言うまでもなく、日本政府は黒塗り文書公開が当たり前で、透明性に断固として背を向けています。


現代における応用と理論

20世紀初頭に大流行したマイナス金利貨幣の背景にある考え方は、60年もの間、影を潜めていました。しかし今、長引く低成長が過去70年の確実性を覆し、大恐慌から生まれた思考を呼び起こすにつれ、この考え方が再び勢いを増しています。長年にわたって、積み上がった負債が成長の鈍化という現実を覆い隠していました。2008年の経済危機が襲ったとき、マネタリスト〔貨幣供給で経済を捉える学派〕の経済運営策は大恐慌以来初めて効果を発揮しなくなりました。中央銀行は国債の買い入れを通じて、忠実に金利を「ゼロ下限」まで引き下げましたが、その効果はほとんどありませんでした。次に、各国政府はケインズ主義の常道である財政刺激策、つまり低迷する個人消費を政府支出で補うという対策を講じました。バラク・オバマ大統領の経済刺激策はケインズ主義的な措置でしたが、おそらくその枠組みの中でも十分な効果を発揮しなかったでしょう。それ以来、世界中の政府支出は高水準を維持しているにもかかわらず、経済成長率は依然として第二次世界大戦後の水準をはるかに下回っています。

2008年の金融危機がきっかけとなって、「ゼロ金利の壁」という問題がマイナス金利の考えを主流の議論へと押し上げました。当時、この考えについての議論はごくわずかでした。2010年に調査したところ、連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストによる論文[15]、ハーバード大学の経済学教授による『ニューヨーク・タイムズ』の記事[16]、そして『エコノミスト』誌の記事[17]しかありませんでした。実務に携わるエコノミストたちにこの話題を持ちかけるたびに、彼らは呆れたような顔をしたものです。なんと時代は変わったことでしょうか。今日では、主流の金融メディアにはマイナス金利に関する記事が溢れ、日本銀行や欧州中央銀行(ECB)をはじめとするいくつかの中央銀行は小幅なマイナス金利を導入しました。2019年初頭の時点で、名目金利がゼロを下回る証券に約19兆ドルが投資されていました。さらに、政策立案者は5%前後の「通常」金利水準に再び戻ることはほぼないと見ています[18]。FRBやECBが金利の正常化を試みるたびに、株式市場は混乱し、FRBは方針を撤回せざるを得なくなります。どうやら、新たな時代が到来したようです。

2020年現在、マイナス金利といってもゼロをわずかに下回る程度です。マイナス金利ではない国々でも、金利は歴史的に見て極めて低い水準にとどまっています。通常であれば、景気拡大期に金利は少なくとも5~7%程度あり、景気後退時に中央銀行が5%以上も利下げする余地が残されているはずです。しかし現在は2%、0%、あるいはそれ以下の水準から始まっているため、次回の景気後退が訪れた際には、金利をさらに大幅にマイナス領域へと引き下げるのが自然な対応となるでしょう。

ケインズ主義の景気刺激策が失敗した場合(最終的には、私が論じたように、コモンズの枯渇が原因ですが)、マイナス金利通貨という、はるかに根本的な解決策が注目されるかもしれません。現在、経済は緩やかな回復を見せており、正常な状態に戻るという幻想的な希望はまだ保てています。しかし、様々な形のコモンズ資本がほぼ枯渇しているため、回復は恐らく弱々しく、「正常」は次第に遠ざかるでしょう。(初版を執筆した2010年に書かれた最後の二文は、その後事実であることが証明されました。2012年以降、世界のGDP成長率は2.5%から3%の間で推移しており、1960年代の約半分となっています。)

ケインズ主義景気刺激策の最初の明白な失敗は日本で起こりました。1990年代から始まった大規模なインフラ投資で、日本の経済成長を再燃させることはできませんでした。高度に発展した経済において、さらなる国内成長の余地はほとんどありません。少なくとも30年間にわたって採られてきた解決策は、実質的に発展途上国から「経済成長を輸入する」ことだったのであり、途上国の社会や自然のコモンズを金銭化することによって、自国の債務ピラミッドを支えるというものでした。これにはいくつかの形があります。一つは債務奴隷制であり、対外債務の返済のため、自給的な生産から商品生産へと転換せざるを得ない状況です。もう一つはドル覇権であり、中国のような生産性の高い国が、米国の官民債務を融資する以外にない状況です(なんなら、そのドル建て貿易黒字の使い途が他にあるでしょうか)。しかし、発展途上国と地球全体が先進国と同じ限界に達するにつれて、成長の輸入という解決策もいずれ失敗に終わるのは間違いありません。

公式の経済統計は、西側経済が少なくとも30年にわたってゼロ成長局面にあるという可能性を隠蔽してきました。その間に見られた成長は、主に不動産バブル、刑務所産業、医療費、保険・金融サービス、教育費、兵器産業などがもたらしたものです。これらのコストが高ければ高いほど、経済成長したと見なされます。インターネットなどの分野では成長がありましたが、その多くは実際には成長輸入の隠れた形です。インターネット関連の収益は、主に販売と広告から得られるのであって、新規生産ではありません。私たちは、中国から西側諸国へ流れる商品のベルトコンベアーに、より効率的に油を差しているだけです。いずれにせよ、発展途上国が成長のエンジンを永遠に回し続けることはできません。成長が鈍化すればするほど、ゼロ成長の限界を回避する必要性が高まるでしょう。

通貨に印紙を貼るというアイデアは古風に思えるかもしれませんが、最近では著名な経済学者たちが現代的な代替案を提唱しています。ほとんどのお金は電子化されているため、中心となる方策は、(アーヴィング・フィッシャーが1935年に提案したような)何らかの流動性税か、あるいはそれと同等の、連邦準備銀行の預金に対するマイナス金利です。後者の対策は、当時経済学教授で現在はシティバンクのチーフエコノミストであるウィレム・ブイターが、2003年に『エコノミック・ジャーナル』に、そして2009年には『フィナンシャル・タイムズ』に論文を発表して提案しました(参考文献を参照)。ハーバード大学経済学教授のグレゴリー・マンキューやアメリカ経済学会会長のロバート・ホール[19]もこの案を取り上げており、連邦準備制度のエコノミストたちも議論しています[20]。本書の初版が刊行されて以来、マイナス金利に関する学術研究は爆発的に増加しました。もはや、これは突飛な考えではなくなったのです。

もちろん、現金にも準備金と同じ減価率を課す必要があり、そうしなければ人々は現金を貯め込むことができてしまいます。煩雑なスタンプ紙幣方式を用いなくても、以下のような様々な方法でこれを実現できます。

1. 現金に磁気ストライプを組み込み、有効期限をエンコードする。
2. 現金をマイナス金利の無記名債券〔金券、商品券〕に置き換える(あるいは、そのような無記名債券として再定義する)。
3. 現金を公式の会計単位から切り離し、現金を預け入れると時間の経過とともに、だんだん少ない電子マネーに換算されるようにする。例えば、マイナス金利が5%の場合、1月1日に100ドル紙幣を預け入れたら、口座には100ドルが計上されます。しかし、12月31日まで待てば、口座には95ドルが計上され、さらに1年待てば90.25ドルとなります。おそらく数年ごとに、当初は額面通りの価値を持つ新しい通貨が発行されることになるでしょう。

もう一つの選択肢は、公式の物理的な現金通貨を完全に禁止することです。すべての電子取引が記録される可能性があるため、政府の権限が大幅に増加する可能性があります。監視国家を警戒する人々にとっては(私もですが)恐ろしいことですけれど、その懸念に対する私の答えは「もう手遅れ」です。すでに今日では、ほとんどすべての重要な取引は電子的に行われ、明らかな例外は違法薬物に関わるものぐらいです。また現金は非公式経済で広く使用され、人々が税金を回避するのに役立っていますが、私が提案するように課税が所得から資源へと移されれば、このような動機はなくなるでしょう。

さらに言えば、非公式通貨が公式のマイナス金利電子通貨と並存して繁栄してはいけない理由はありません。非公式通貨を用いた取引は中央政府の管轄外となるでしょう。通貨を使うコミュニティが、どの程度の記録管理を行うかを決定するでしょう。ヒッピーや自然回帰主義者など、私が愛する人々は、完全に地域経済の中だけで活動し、中央当局には見えない経済生活を送ることになるでしょう。しかし、すべての取引と財務記録を政府だけでなくすべての人に公開すべき理由は他にもあります。これは実際、監視国家に対する解毒剤として、より一般的に提案されており、これはつまり監視技術を公開し至る所に普及させることです。それは、携帯電話や携帯ゲーム機などの機器にビデオカメラが普及することで既に実現しつつあります。国民の活動が政府にとって丸見えなのと同じくらい、政府の活動が国民にとって透明になったとき、真に開かれた社会が実現するでしょう。

②に続く


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次> 現代における応用と理論②

注:
15. チャンプ、「スタンプスクリップ」。
16. マンキュー、「FRBがマイナス金利に移行する時期が来たかもしれない
17. 「お金は回る:昔ながらのスクリップは復活するか?」、エコノミスト、2009年1月22日。
18. 例えば、ボズレー「欧州、マイナス金利に突入」を参照。
19. ホールとウッドワード、「連邦準備制度理事会は政策声明を発表する必要がある」。
20. ケーニッヒとドルマス、「ゼロ金利経済における金融政策」
21. 現金に対するマイナス金利の導入に関する現在の提案について包括的に把握するには、アガルワルとキンボールによるIMFワーキングペーパー「景気後退対策としての大幅なマイナス金利の導入:手引書」を参照のこと。
22. この選択肢については、ブイター「マイナス金利」で論じられている。

原文リンク:https://sacred-economics.com/sacred-economics-chapter-12-negative-interest-economics/

翻訳メモ:
economist:研究者なら「経済学者」、実務家なら「エコノミスト」。


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