創業78年の印刷会社、「体験」を刷ってみた
先日、うちの社員旅行でちょっとしたゲームイベントをやりました。
……と書くと「あー、ビンゴでしょ」と思うじゃないですか。
違います。
3時間・83名・16チーム、フル脚本のオリジナル謎解きゲームを、AIと二人三脚でゼロから作りました。カードだけで129ページ刷った。うちは印刷会社なので、刷るのは得意なんです。
今日はその一部始終を書きます。長いけど、たぶん面白いので読んでいってください。
発端:「ビンゴだけは嫌だ」
うちの会社、今年で78年目。100年まであと22年です。
ちょっと前に全社で「100年未来会議」というのをやって、会社の未来の地図(中期ビジョン)をみんなで描きました。戦略シートも全員に配った。
で、気づいたんです。
地図があっても、船は勝手に進まない。
情報は部署の中で止まる。みんな自分の持ち場は頑張ってる。でも隣で誰が困ってるかは知らない。「言ったつもり」「聞いたつもり」。遠慮して助けに行かない。
……誰も悪くないのに、なんか進まない。あるあるですよね。
これ、研修で「共有しましょう」って言っても絶対変わらないんですよ。体験しないと分からない。
そこで社員旅行です。温泉宿で、全員が油断しきってるタイミング。ここで「会社の課題を体で味わうゲーム」をぶつけたら、面白いんじゃないか?
というわけで、役員が本気で遊びを作ることになりました。
相棒はAI。129ページのカードを「刷る」
とはいえ、ゲームデザインなんてやったことありません。
そこで相棒にしたのがAI(Claudeとchat GPT)です。壁打ちしながら、こんなものを最終的には社員と一緒に作りました。
運営ルールブック 全18章(司会の台本、分刻みの進行表、想定トラブルQ&A付き)
16チーム分の配布カード 129ページ(チームごとに色違いの宇宙地図!名前付きの役職カード)

採点シート、当日スライド、買い物リスト、果ては運営アプリの開発まで!!
「こういうゲームにしたい」と言うと叩き台が出てくる。テストプレイして「ここ分かりにくい」と言うと直る。企画→制作→テスト→改善のループが、爆速で回る。
正直、これが一番の発見でした。
AIがいれば、研修もイベントも内製できます。
それも、既製品じゃなく自社の課題ドンピシャのやつが。外注したらいくらかかるのやら、、
あ、ちなみにカードの印刷と断裁は自社です。本業の無駄遣い(最高の意味で)。
ゲームの中身:全員が「船のクルー」になる
当日。ホテルの大宴会場に83名を16チームで座らせて、こう宣言します。
「今日の舞台は、未来航海船BUNSEIKAKU。諸君はそのクルーである。
何者かに未来航路の情報が奪われ、船体は破壊された。
ミッションは——仲間と情報をつなぎ、船を復旧させ、未来航路を奪還すること。」
ノリはほぼSF映画です。おじさんもベテラン職人も外国人メンバーも、全員クルー。
ミッションは4つ。ざっくり紹介します。
M1:バラバラの地図を復元せよ
1人1〜2枚だけ配られる「地図の断片カード」。チームで見せ合って9枚並べると、1枚の地図と、ある文章が完成します。
「情報は、持っているだけでは価値にならない。共有して初めて、船が動く」
……はい、もう言いたいことが出てます。でもゲームだと説教くさくない。不思議。
M2:しゃべらずに塔を建てろ
紙100枚とテープで、できるだけ高い灯台を建てる。ただし1回戦は会話禁止。
BGMを止めた静寂の中、ジェスチャーで必死に指示を出す部長。伝わらない。崩れる。会場、笑いをこらえきれない。
作戦会議を挟んで2回戦は会話OK。同じ材料、同じ時間なのに、塔の高さが倍になる。「話し合うとはこういうことか」を全員が数字で目撃しました。
ちなみに完成した塔には、審査員がモバイル扇風機で風を送る「耐風試験」があります。嵐です。100均の扇風機では雑魚嵐でしたw
M3:全員真剣なのに、なぜか完成しない
ここが本命。チームで「船の部品」を作るんですが、役職ごとに持ってる情報がバラバラなんです。
船長:決めたいのに、情報が集まらない
通信士:唯一、他チームに聞きに行ける。でも聞いてきた情報が断片的
技術士:自分の仕様どおりに作る。だが他と噛み合わない
検査士:不良に気づいてるのに、「聞かれるまで話しちゃダメ」(×印マスク着用)
支援士:納期!納期!と焦る
全員ちゃんと仕事してるのに、部品が完成しない。
これ、どこの会社でも毎日起きてることの縮図です。プレイ中、あちこちから「これウチの現場じゃん……」と声が漏れてました。そう、君の現場だ。
そして「組織改編」が発令される
前半終了、全チームがボロボロの結果を見せられた直後。警報音とともに司令官(私)が宣言します。
「なぜ船は動かなかったのか。役割の壁が、情報をせき止めていたからだ。
これより——役割の壁を、解除する!」
ここからルール全開放。情報は見せ合ってOK、他チームに助けを求めてOK。
さらに印刷会社らしく「量産ボーナス」を追加。1個完成したら材料を追加でもらって何個でも作っていい。ただし——不良品は0点。
品質を保ったまま、数を刷る。それが印刷屋の魂です。
後半、会場の空気が完全に変わりました。チーム間を人が行き交い、「それ違う!こうだよ!」と教え合い、量産ラインが立ち上がる。さっきまで敵だったチームが、助け合ってる。
クライマックス:誰も指示してないのに、83人が動いた
最終ミッション。「M1で作った地図を、もう一度出してください」とだけ伝えます。
各チームが地図を並べ直す。すると、誰かが気づく。
「……この地図、端が切れてる」
「隣のチームのと、つながるんじゃね?」
ここで運営は絶対に「並べてください」と言いません。ただ待つ。
ざわざわ。誰かが立つ。地図を持って歩き出す。つられて別のチームも動く。気づけば83人全員が、前のテーブルに地図を持ち寄っていました。
16チームの地図が4×4に並ぶと、金色の航路が1本につながる。
「裏返してください」の合図で、全員が一斉にカードをひっくり返すと——16の文字が現れます。
未来を刷るのは、今日ここにいる全員。
会場、一瞬静まってからの、拍手。
やり切った顔のクルーたちに、私はこれだけ伝えました。
「最後まで見えていなかったもの。それは航路じゃない。——仲間です。」
(このためだけに3時間を設計しました。悔いはない)
結果発表と、全員お土産
表彰は総合優勝チームとブービーw。景品はディズニーor富士急or温泉の選べるペアチケット、和牛、なぜか自転車。抽選券は全員に配ってあるので、最後は全員が景品か山梨土産(信玄餅・ワイン)を持って帰る設計にしました。
「勝ったチームだけ嬉しい」で終わらせない。ここ大事です。
そして各チームは最後に「出航宣言」をします。「報連相を増やしー!」「言ったつもりを減らすー!」「出航ーー!」「おーー!!」
温泉宿に響き渡る「出航ー!」。近隣のお客様、うるさくしてすみませんでした。
種明かし:これ、レクじゃなくて経営です
最後にちょっとだけ真面目な話。
このゲーム、実は最初から最後まで会社の課題と1対1対応で作ってあります。
| ゲームでの体験 | 現実の話 |
|---|---|
| 地図の断片を見せ合う | 情報は共有して初めて価値になる |
| 無言だと塔が建たない | 対話と改善のインパクト |
| 全員真剣なのに完成しない | 善意の分断(誰も悪くない) |
| 壁の解除で量産が始まる | 越境と助け合いが成果を生む |
| 16枚の地図がつながる | 部署を越えれば、会社は動く |
でもこの種明かしは、ゲームが終わるまで一切言いません。先に言ったら説教になる。体験のあとに言うから、腹に落ちる。
「組織を変えるって、組織図を変えることじゃない。助け合いの動きが変わることだ」——これが今回いちばん伝えたかったことです。ゲームが全部、代わりに言ってくれました。
おわりに:文星閣観光、開業か?
終わったあと、社員から「来年もやってほしい」「これ他社に売れるでしょ」と言われました。
……たしかに、ルールブックもカードも進行アプリの設計も、ぜんぶ再利用できる形で残ってるんですよね。AIと作ったから、次はもっと速く作れる。
印刷会社が、体験を刷る会社になる日も近いかもしれません。
興味ある方、コメントください。文星閣観光(仮)、受注生産で承ります。笑
最後まで読んでいただきありがとうございました。
Beyond printing, Print for the future.
未来を刷るのは、今日ここにいる全員。
