沈黙は、何もない時間じゃなかった。
会話が途切れると、
何か話さなきゃ、
と思う。
沈黙が続くほど、
頭の中だけが、
少し忙しくなる。
次は何を話そう。
変な空気になってないかな。
そんなことを考えているうちに、
余計に言葉が出てこなくなる。
真夏の午後。
駅から歩いてきた腕に、
まだ夏の熱が残っていた。
店のドアを開ける。
冷房の風が、
火照った腕に触れた。
冷たい水を、
ひと口飲んだ。
グラスの中で、
小さな氷が揺れた。
向かいに座った人と、
ぽつぽつと話した。
窓の外では、
蝉が鳴いている。
強い日差しの中を、
人が歩いていく。
風が通るたび、
街路樹の葉が、
細かく揺れていた。
話していた声が、
いつの間にか止まった。
ふっと、
静かになる。
以前なら、
何か話さなきゃと思っていた。
けれどその日は、
どちらも
次の言葉を探さなかった。
向かいの人が、
窓の外を見る。
私も、
同じほうを見る。
白い雲。
眩しい空。
風に揺れる街路樹。
遠くで、
自転車のベルが鳴った。
エアコンの音が、
低く続いている。
氷が、
グラスの中で、
かすかに触れ合った。
店の中は涼しいのに、
窓の向こうには、
真夏の熱がある。
その境目を、
ただ眺めていた。
しばらく、
何も話さなかった。
でも、
沈黙が、
気にならなかった。
ただ、
同じ場所にいて、
同じ夏を見ていた。
それだけだった。
帰ろうとは、
思わなかった。
テーブルの上で、
水滴がひとつ、
ゆっくり流れていく。
そして、
ぽとりと落ちた。
その小さな音を、
二人で聞いていた。
外では、
蝉がまだ鳴いている。
誰かの話し声が、
遠くで聞こえる。
グラスの中で、
氷がまた、
小さく鳴った。
何も話していないのに、
時間は、
ちゃんと流れていた。
むしろ、
言葉がないことで、
聞こえてくるものがあった。
蝉の声。
エアコンの音。
氷の音。
窓の向こうを走る、
自転車の音。
そして、
向かいにいる人の、
気配。
沈黙は、
何もない時間じゃなかった。
言葉がなくても、
ちゃんと、
一緒にいる時間だった。
店を出る。
外に出た瞬間、
むっとするような暑さが、
身体を包んだ。
さっきまでいた、
涼しい店の空気を、
少しだけ思い出した。
駅まで歩く。
蝉の声が、
夏の空に響いている。
話さなくても、
一緒にいられる時間は、
思っていたより、
ずっと静かだった。
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よければ聴いてみてください😊(約4分)
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何かを話し続けなくても、ただ一緒にいられる。
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