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一緒にいると、自分を忘れてしまう人


誰かといると、
自分より先に相手を見てしまう、私。


「何食べたい?」


そう聞かれて、
少しだけ黙ってしまった。


自分が何を食べたいのか、
すぐには出てこなかった。


代わりに浮かんでくるのは、
相手が好きそうなものばかりだった。


気づけば、
いつもそうしていた。


何を食べたいか。

何が見たいか。

どこに行きたいか。


全部、
相手の答えから逆算していた。


それが悪いことだとは思わない。


ただ、

気づいたら、
自分の答えだけがどこにも残っていなかった。


休みの日。

予定のない時間。


カレンダーは真っ白で、
何をしてもいい日だった。


それなのに、
朝から何も浮かんでこない。


やりたいことを探そうとして、
スマホを開く。


でも画面を眺めているだけで、
時間だけが過ぎていく。


昔は、
好きなものがいくつもあったはずだった。


行きたい場所も、

食べたいものも、

見たい景色も。


それが今は、
思い出せない。

忘れたわけではないと思う。


ただ、

長いあいだ、
使っていなかっただけかもしれない。


誰かといるとき、

自分の感覚より先に、
相手の感覚を読みにいく癖がついていた。


それは、
気を遣っているという感覚ですらなかった。


ただの習慣になっていた。


鏡を見る。

そこに映っているのは、
いつもの自分だった。


それなのに、

何か一つ、
思い出せないものがある気がした。


疲れていたわけではなかった。


少しずつ、
自分から離れていただけだった。


気づけば、

誰かに合わせることはできても、


自分が何を感じているのか、

分からなくなっていた。


自分に戻れなくなるとは、

そういうことだったのかもしれない。


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この作品は、シリーズの3作目です。

1作目:一緒にいても、疲れない人

2作目:一緒にいると、疲れてしまう人

4作目:今日の優しさは、静かになってから届く。



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