【教科書に載っていない世界一周】〜4-2悪魔の都アグラ(インド編)
🏨宿泊客を選ぶ宿
インドは世界中からいろんな旅人が集まる。なかには麻薬中毒などかなり問題のある人間もいる。そんな旅人を避けるため、宿泊者を審査する宿がある。それがバラナシにある「久美子ハウス」だ。
宿泊を希望する者は、予約するのでなく、直接荷物を持って宿に向かう。エントランスに立つと、宿の主人である久美子さんに、「今夜泊まりたいんだけど」などという間もなく、「OK」もしくは「ダメ/No」と告げられるシステムだ。久美子さんは現地で結婚した恰幅のよい日本人女性。腹から声を出し、かなりの迫力がある。ここでは完全に"見た目"で主観的に判断されるのだが、長年宿を経営してきた彼女には一瞬にして人を見る目があるようだ。ぼくも世界をかなり旅してきたが、宿泊客を選別する宿はここ以外に見たことはない。全てが混沌のインドならではの機能的なシステムかもしれない。
旅人にとって居心地の良い人気の宿。審査されるという話を聞いていたので、ぼくもかなり緊張しながらエントランスに立った。幸い「OK」と許可されホッと胸を撫で下ろしたが、すぐ次にやってきた(金髪の)日本人の若者バックパッカーは、即座に「No」と断られていた。日本人に人気の宿だが、欧米や中韓などの旅行者もまあまあいる。このように拒否される旅行者は国籍を問わず結構いるようだ。
宿自体はドミトリー中心で、内装はシンプル。コンクリートもむき出しで監獄のようだが、居心地は悪くない。数ヶ月滞在している旅行者もいたがわかる気がした。給食のようにみんなで並んで取った食事が印象的だった。また、インドは野生の猿が多く、空いてる窓から時々侵入し、荷物を奪っていく。そこで知り合った日本人旅行者もCDなどを奪われていた。戸締りなど、警戒すべきは人間だけではないところがこの国の特徴かもしれない。

⏱️常識では考えられないインド人の時間感覚
インドでは時間の感覚がおかしくなる。それを象徴する出来事が起こった。
遺跡で有名なカジュラホという田舎町で泊まった宿。そのレストランで、ランチに「トマトスープ」を頼んだ。とても腹が減っていたので、メニューからすぐにできるものを選んだつもりだったが、15分待っても出てこない。「まだ?」と店員に聞くと、「もうすぐだよ」という。そこから30分が経ち、「まだなの?」と聞くと、「あと5分」という。
その5分が過ぎ、空腹でイライラし始めた頃、男が外からキッチンに入っていくのが見えた。手にはナイロンの袋を下げている。
「まさか!」
中のものが見えたとき、僕は目を疑った。それは・・・トマトだった。客も少なく、冷蔵庫もないのでこの食堂には在庫というものはないらしい。最寄りの八百屋まではかなり距離があるようで、注文を受けてからバイクで買い物に行っていたらしい。
空腹で目の回りそうな僕は「本当はあとどれくらいかかるんだ?」と尋ねたが、何度聞いても「あと五分!」という返事しか返ってこない。
結局、1時間が経ち、「でき上がったら部屋に持ってきてくれ」といって、レストランを後にし部屋に戻る。いつしか僕は待ちくたびれて眠ってしまったようだ。部屋の扉がノックされた時には、オーダーしてから2時間が経過していた。味のほうはまずまず。だが、もはや味などどうでもよく、この時間感覚にぼくは呆れ果てていた。
これは極端な例だが、インドでは似たようなことがよく起こる。彼らの生活には、"急いでせねばならないこと"はほとんどないようで、時間の感覚は全く無いようにみえる。「待て」といわれれば、何時間でも待っているし、歩くときは何時間かかっても歩いて向かう。世界一時間に厳しい日本とは対極の世界だ。
インドを旅するときは、「絶えず先のことを見据えて余裕を持った行動」をとる必要がある。それが嫌なら、自分も時間に対する感覚を手放し、インド人の時間感覚を受け入れるのも一つの手かもしれない。

🕌魔都アグラ
自分以外は誰も信用できない町、それがこのアグラだ。この町には有名な世界遺産「タージマハール」がある。大理石でできた、かつての王妃の巨大なお墓であり、荘厳な美しさは“人類が誇る建造物”といっても誇張ではない。
これまで世界遺産を飽きるほど見てきたぼくは、たいていのものを見ても感動することはなくなってきていたが、この均整の取れた白い大理石の巨大な彫刻ともいえるタージマハールの美しさには、心から感動した。しばらくうっとりした。

だが一方で、この町は観光客が多く、犯罪が多いので有名だ。インド各地の選りすぐりの詐欺師が集まった町であり、自分の利益のためなら人を騙すことを厭わない連中が多い。この町からすみやかに立ち去ることを薦める心ある現地の人も多かった。
アグラ駅に下り立った僕は、さっそく洗礼を受けた。ガイドブックで見たとある宿へ行こうと、駅からタクシーに乗った。乗車中、運転手は知り合いのホテルをしきりに勧める。こちらは他のホテルには興味がないので、その気がないことを伝えた直後「目的地に着きましたよ!」と降ろされた。
素直にタクシー料金を払って降りたが、地図でしっかり確認してみると、目的地まで2kmもある全く別のところ。あとで悟ったが、彼は紹介料をもらえる自分のなじみの宿に旅行者を案内し、泊まる気のない客については適当なところで客を降ろしてまた別のカモを探しに行くということを繰り返しているタクシーだった。
気を取り直し、そこから目指す宿へ向かった。歩きながら、道を尋ねるたびに人によって答えが全く違う。右という人もいれば左という人もおり、「そこはもう営業を停止したよ。こっちのホテルに来なさい」という人もいれば、「そのホテルは名前を変えたんだ。教えてあげるからついてきなさい」といって知り合いの宿に連れ込もうとする人もいる。誰を信じていいのかまったく分からない。
「もはや信用できるのはガイドブックと自分しかいない」ということを悟り、やっとのことで目的の宿に着いた。もちろん営業継続中で名前も元のまま。
だがその宿のスタッフも、今ひとつ信用できない。というのは、
「この宿に蚊はでますか?」
と尋ねると
「このホテルには蚊は一匹もいません。ご安心下さい。」
と言いながら、彼の頭上を何匹もの蚊が、うなり声をあげて飛び回っている。チェックインのとき、24時間ホットシャワーが出ると言われたが、翌日まで何時間待ってもお湯は出てこなかった。
チェックインの後、あるレストランへ行こうとして歩いていると、タクシーが誘いをかけてくる。
行き先を答えると、
「その店はここから2kmもある。遠いから乗っていけ!」
という。だが目的地は目の前100mにあるのだ。もうタクシーは相手にしない習慣がついた。
食事を終えて宿に戻ると、ホテルオーナーの友人と称する旅行会社の人が現れ、「今はハイシーズンなので、デリー行きの汽車はすべて満席だ。でも、このホテルに泊まった君のためなら、手配してあげるよ。」といって切符の購入を薦める。宿泊票を見て僕の行き先を知ったらしい。半信半疑で「考えてみます」と言ってあとで調べると、列車は十分に空きがあり、価格は通常の倍だった。
ここアグラは特にひどいが、インドでは多かれ少なかれどの街でもこのような事があり、人間不信となる旅行者も多い。一人旅ということもあり、この町ではノイローゼになりそうだった。
アグラの町角を歩くと、病気に罹ったような犬をどぶ川のほとりで見掛けた。耳一面に、無数のダニが、小さなご飯粒を縦に並べたようにびっしりついていた。あまりにおぞましく、いつ思い出しても背筋が凍るような気持ち悪い光景だった。このようにアグラは“美しきタージマハール”を除けば、悪魔のような町だ。

⚠️手違いで詐欺師に殺される旅行者
その後、デリーで出会ったインド在住の日本人にもっと恐ろしい話を聞いた。ここアグラでは、殺された日本人もいるそうだ。それは、いくつかのホテルでは、宿泊客の料理に毒を盛るところがあるらしい。毒といっても下痢になる程度の少量であり、なじみの病院に入院させ、旅行保険を使わせて、結託した医者から紹介料を受け取るという詐欺が多発しているらしい。
しかし、なかには入れる毒の量を間違えて死んでしまった旅行者も数人いるとのこと。地元でもニュースとなり起訴されたらしいが、お金の力で無罪放免となって営業を続けているらしい。こんなホテルが今でも数件存在している。(ガイドブックにもそのホテルが”危険ホテル”として紹介されている。)アグラという町は、世界でも有数の怖い町だと思う。
<行程>
11/1 35カジュラホ:(バラナシより)バス14時間
11/3 36アグラ:バス5時間、汽車3時間

(トップ写真はアグラの世界遺産タージマハール)
