【各国の本質⑥(番外編)🇵🇷プエルトリコ】カリブの沖縄
今回は国ではないのですが、経済や人口面でカリブ海に浮かぶ島々の中心的存在でありながら、独立していない島「プエルトリコ」について。その地理、政治、経済、歴史について、周辺国とは異なる特徴を説明したうえで、その本質に迫ります。
<カリブ海の国々> 13の独立国
定義の仕方にもよりますが、世界の国々の1/4は島国であり、約50の島国が存在します。なかでも太平洋地域に次いで多いのが、カリブ海なんです。
カリブ海諸国は、北はマイアミ沖に浮かぶバハマから、南はベネズエラ沖のトリニダード・トバゴまでの13ヶ国。全て集めると、日本の7割の面積に約4000万人が暮らしています。

🇵🇷地理と気候: バランスの取れた一体的な島
スペイン語でプエルトは港、リコは豊かさ。つまり「豊かな港」を意味します。漢字では「波多黎各」と書くプエルトリコ。
大アンティル諸島を構成する4つの島、つまり🇨🇺キューバ、イスパニョーラ島(🇭🇹ハイチと🇩🇴ドミニカ共和国)、🇯🇲ジャマイカ、🇵🇷プエルトリコのなかで、プエルトリコは最も小さい島。日本でいえば鹿児島県とほぼ同じサイズです。

<地形> 一体統治が可能となる島
中央に山地はありますが、最高峰は1,300メートル超。なだらかで島を分断するほどではありません。雨量は北がやや多く南がやや乾燥していますが、その差は極端ではありません。そのため、島全体を一体として統治しやすい環境となっています。
ちなみに対照的なのが隣にあるイスパニョーラ島。
こちらは3,000メートル級もの高山が連なり、東西で降水量は大きく異なり、気候も社会も分断された構造を持っています。そんなこともあって二つの国に分かれています。
<災害> ハリケーン被害を低減する地形
ハリケーンも度々直撃しますが、山が低く、島が適度に小さく川も短いため、被害が大きくなりにくい特徴があります。
ちなみに、さらに東に位置する小アンティル諸島(アンティグアバーブーダからトリニダード・トバゴ間の島々)は、ほとんどが海底火山の頂上です。急峻で土地は細切れであり、自然条件も厳しい島々です。
<地理まとめ> バランスの取れた島
その中でプエルトリコは、火山島ではない安定した島であり、規模・地形・気候のバランスが取れた、カリブでも非常に珍しい存在です。
つまりプエルトリコは「小さいが平衡が取れ、自然条件が社会の統合を妨げない島」。地理や気候の面では本来、国として成立する条件を自然に満たしている島だと言えます。
それでも、この島は国家にならなかった。この“地理的には恵まれすぎている”点こそが、後の政治や経済の話を考える上で、重要な出発点になります。

🇵🇷人と政治: 米国の「非編入自治地域」
アメリカ合衆国には州に編入されない領土である「非編入自治地域」が5つあり、人口も面積もプエルトリコが最大です。
カリブ海/ プエルトリコ (人口320万人)
太平洋/ グアム (人口15万人)
カリブ海/ アメリカ領ヴァージン諸島 (人口9万人)
太平洋/ 北マリアナ諸島 (人口5万人/ サイパンなど)
太平洋/ アメリカ領サモア (人口5万人)
非編入自治地域は、連邦議会での投票権がなく、外交・防衛・通貨は米国政府が管轄しています。また、米国憲法に定められた国民の権利は、一部しか適用されないようになっています。つまり社会制度はほぼ米本土と同じなのに、政治的な発言権は持っていない地域なのです。
<人口> 島民より多い米本土移民
カリブ海の独立国の人口を合計すると約4000万人になりますが、8割はキューバおよびイスパニョーラ島2ヶ国の、計3ヶ国に集中しています。4番目に多いのがジャマイカの280万人です。
一方、プエルトリコの人口は約320万人。静岡県と同じくらいの規模ですが、カリブ海第4位のジャマイカよりも多いんです。
アメリカ合衆国の中ではどうでしょうか。最も人口の少ない州はワイオミング州の約60万人。50州のうちの1/3である17もの州が、州でもないプエルトリコより人口が少ないのです。首都サンフアンには人口の1割(約34万人)が集まっています。
さらに重要なのは、米本土にはプエルトリコ系住民が約500万人も住んでいるという点です。つまり、「島の外に島より大きなプエルトリコ社会が存在している」ということです。カリブ諸国のコミュニティはNYなどにたくさん存在しますが、プエルトリコ人の多さはダントツです。(2位はキューバの130万人。)

<人種> ほとんどはスペイン語を話す混血のカトリック信者
住民の多くは、スペイン系、アフリカ系、そして先住民の混血。これらは大アンティル諸島一帯に共通する構成です。
自己申告では6〜7割が白人、1〜2割が黒人となっていますが、文化的な自己認識であり、厳密にはほとんどが混血のようです。人種で政治対立化することは、ほとんどありません。
宗教は伝統的にはカトリック。
米国統治以降プロテスタントも増えていますが、宗教対立や宗教をめぐる政治闘争は、ほぼ存在しません。信仰は個人の領域にとどまっています。
言語は、家庭内では約95%がスペイン語。
英語を実用的に話せる人は2割程度しかいません。にもかかわらず、社会制度は完全にアメリカ型。ラテン文化に、アメリカの枠組みが被さっている状態です。
<気質> 温和で自由な人々
こうした条件の中で形成された国民性を一言で言うと、"諦めが早い"。ただし、これは怠惰、怠けているという意味ではありません。
ここには政治を変えるよりも、島を出て豊かな米本土で生きるという選択肢が常にあります。したがって怒りが革命や体制転換に向かわず、移住によって吸収されるのです。それが、プエルトリコ社会の安定と停滞を同時に生む原因となっています。
まとめると、プエルトリコとは、人種や宗教では分断されず、政治的には完全な主体にはなれず、それでも米国社会の一部として機能している、極めて中途半端で特殊なカリブ社会だといえます。

🇵🇷経済: 地域トップクラスの所得でも米本土の1/3
プエルトリコの世帯所得(中央値)は$2.6万台。米国全体では$8.3万台なので約3分の1です。貧困率は約4割とかなり高い。制度は米国型なのに、所得水準は米国平均から大きく取り残されていることがわかります。
ただし周辺のカリブ海諸国と比較すると、その所得水準はずば抜けて高い。カリブ海諸国の世帯所得平均は$1万台かそれ以下がほとんどであり、相対的には豊かな水準であることは間違いありません。
<生産拠点> 製薬産業の生産拠点
ここの人々は何で生計を立てているのか。
多くのカリブ諸国は観光や一次産品が中心ですが、プエルトリコは違います。米本土のメーカーが進出し、「生産拠点」として経済が成り立っています。製薬と医療機器がなかでも重要な生産品です。
ただし、この「工場がある」という強みには裏面があります。製造業はファイザーなどの大企業が中心であり、利益のかなりの部分が米本土へ吸い取られてしまう構図なのです。雇用は生むが、島の中にお金(資本)が蓄積しにくい構造となっています。
<軍事> カリブ海でかつての軍事的中心
かつてプエルトリコはカリブ海最大級の軍事拠点でした。
この「軍事」と「生産」の両面が、プエルトリコを単なるカリブの島以上の存在にしていました。
しかし冷戦終結により米軍は戦略を転換。現在、基地機能は周辺地域へ分散しています。ちなみに(同じく非編入自治地域の)グアムは現在でも西太平洋最大の米国軍事拠点であり続けています。
🇵🇷歴史: 旧スペイン領の400年
いわゆるこの国の歴史は1493年コロンブスの到達から始まります。以降、400年間🇪🇸スペイン帝国の一部として統治されました。
19世紀になると、ラテンアメリカでは独立の機運が高まります。しかしプエルトリコは独立せず、スペイン領のまま残ります。理由は反乱の規模が小さく統治も容易な地域だったからです。

<米西戦争> 米国が100年前に獲得
しかし転機は1898年に訪れます。米西戦争です。
スペインに勝利したアメリカは、🇵🇭フィリピン、🇬🇺グアム、🇨🇺キューバとともに、プエルトリコを獲得します。ここで島の運命が決まります。独立ではなく「帝国の交代」が起きたのです。
<市民権> 米国市民権を付与
独立を前提として獲得したキューバやフィリピンと異なり、プエルトリコはグアムと共に半永久的な米国領になりました。
1917年には住民に市民権が与えられ、島の人々はアメリカ人となりました。しかし、州にはなりません。外交・防衛・通貨は米国が管理し、連邦議会への投票権はない。国家のようで国家ではない。この中間的地位が固定化したのです。
<経済の浮沈> 2015年にデフォルト
20世紀後半には税制優遇を活用して製薬産業などが進出。
経済は一時的に発展します。しかし2006年に優遇が縮小されると財政は悪化し、2015年には経済破綻(デフォルト)に至りました。その後、財政再建により経済は持ち直しましたが、構造的には大きな変化はありません。
プエルトリコの歴史とは、独立革命の物語ではなく、帝国の中で立場を調整し続けた歴史です。
スペイン帝国の周縁部から、アメリカ帝国の周縁部へ。主権国家にならなかったことが、安定を生み、同時に中途半端な状態を固定しました。プエルトリコは、「未完の国家」なのではなく、帝国と共に生きるという選択を続けてきた社会なのです。
米国本土の周縁部に位置し、豊かな観光資源を持ちながらも、軍事的な要衝としての役割を担ってきた島。経済的自立の難しさを抱える姿を見ていると、沖縄との共通点があるような気もします。
🇵🇷プエルトリコの本質
プエルトリコとは、アメリカの一部でありながら、外交や防衛などの重要な決定を自分たちで行うことができない地域。それでも人々は米国市民として暮らし、社会制度や生活水準は先進国に近い形で保たれています。
その結果、大きな混乱や貧困に陥ることなく安定した社会が続いている一方で、自分たちの力で経済や政治の仕組みを変えることが難しく、状況が大きく良くなることもない。
このようにプエルトリコは、主権を持たないまま先進社会を維持することで、「安定」と「停滞」の二つを同時に抱え続けている地域、と捉えることができるのではないでしょうか。

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