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なぜ優秀なベトナム人ほど日系企業を辞めるのか?

こんにちは。
ベトナムでオフショア開発会社を経営している10KN COMPANY LIMITEDの猪俣です。

ベトナムで事業をしていると、こんな声をよく聞きます。

「せっかく優秀な人を採用したのに、すぐ辞めてしまう」

これ、正直かなりの確率で起きます。一度や二度ではなく、多くの会社で繰り返されている現象です。

そして不思議なことに、辞めるのは決まって“優秀な人材”です。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。

優秀だからこそ、日系企業に居続ける理由がなくなるからです。


そもそも本当に辞めているのか?

この話は、一部の会社だけの問題ではありません。ベトナムで事業をしている会社であれば、多かれ少なかれ直面している共通の課題です。

試用期間中(入社後6ヶ月以内)に、4割以上の人材が転職を検討しているという調査もあります。

企業側から見ても、離職率の高さは主要な経営課題の一つです。

つまり、「人が辞めやすい」という現象自体は、すでに構造として存在しています。

その上で、現場にいるともう一つの特徴に気づきます。

辞めていくのは、“優秀な人材”に偏っているという点です。これは偶然ではありません。

では、なぜ優秀な人ほど先に辞めていくのか。

ここから、その理由を紐解いていきます。

ベトナムでは“転職は特別なことではない”という前提がある

評価されていないのではなく、“納得できていない”

日系企業が不当に評価しているわけではありません。むしろ、安定していて制度もしっかりしている会社が多いです。それでも辞めてしまう理由はシンプルです。

評価に納得できていないからです。

ベトナムの優秀な人材は、自分の市場価値を非常にシビアに見ています。このスキルならいくらか。他社ならどんなポジションか。

その中で、「なぜこの評価なのか」が見えない状態が続くと、不満が蓄積されます。評価されていないわけではない。しかし、理由が分からない。この状態が最も危険です。

実際の現場では、こんなことが起きています。

明確な目標設定がないまま業務が進み、何を達成すれば評価されるのかが分からない。その結果、給与も上がらず、静かに退職していく。

また、会社の状況やアサインされるプロジェクトによって、本来の能力を発揮できないケースもあります。本来であれば評価されるべき人材でも、機会が与えられていないことで評価されない。

これは悪意ではなく、“評価しきれない構造”の問題です。

正直に言えば、私たちの会社でも、そこまでを十分に加味した評価基準はまだ整備しきれていません。

さらに、責任と権限のバランスが崩れているケースもあります。責任は重いのに裁量がない。期待されている役割が曖昧なまま任される。

この状態では、成果を出すこと自体が難しくなります。人は“評価が低いこと自体”より、“評価の理由が分からないこと”に強い不満を持ちます。

そしてもう一つ重要なのが、スピードです。評価や昇給に時間がかかる仕組みは、日本では一般的です。

しかしベトナムの優秀層にとっては、「正しく評価されていない」と感じる要因になります。結果として、より分かりやすく、より早く評価してくれる環境へと移っていきます。

問題は、“評価しているかどうか”ではありません。納得できる形で伝わっているかどうかです。


優秀な人ほど“成長の止まり”に敏感

もう一つの大きな要素が、成長実感です。ベトナムでは、“どれだけ早く成長できるか”が最も重要です。

そしてその成長は、スキルだけでは測られません。”成長=給与の上昇”という感覚が強くあります。スキルが上がっても給与が変わらなければ、成長しているとは感じられません。

この中で重要になるのが、昇給のあり方です。一度で大きく上がるよりも、毎回コンスタントに上がる方が、成長実感として健全に機能します。このリズムが崩れると、モチベーションは一気に落ちます。

さらに現場では、研修制度の不十分さや、適切なプロジェクトにアサインされない問題もあります。

その結果、本来の能力を発揮できないまま時間が過ぎていく。こうした環境は、本人のモチベーションを大きく左右します。

優秀な人ほど、「今ここにいる意味」をシビアに見ています。この環境で成長できるのか。この経験は次に繋がるのか。これが見えなくなった瞬間、意思決定はほぼ終わっています。

重要なのは、実際の成長ではなく、“成長している実感が持てるかどうか”です。


日本式マネジメントが“機会損失”になる瞬間

ここまで見てきた「評価」と「成長」に加えて、もう一つ大きな要因があります。それが、日本企業特有のマネジメントです。

日本式マネジメントには、多くの強みがあります。丁寧で、再現性があり、組織として安定している。長期的に見れば、非常に優れた仕組みです。

ただし、それがそのままベトナムでも機能するとは限りません。意思決定が遅い。評価基準が曖昧。年次に縛られる役割設計。

これらは、「機会を逃している状態」に見えることがあります。

さらにもう一つ、現場でよく起きるズレがあります。それが、「後回しにする文化」です。日本人のマネジメントでは、一度持ち帰って検討する。優先順位を見て後で対応する。こうした判断が自然に行われます。

これはリスクを抑え、全体最適を取るための合理的な行動です。日本では合理的な判断でも、ベトナムの優秀層には「なぜ今やらないのか」という違和感になります。

“後で考えよう”が、機会損失に見える瞬間

チャンスがあるのに動かない。決断が先送りされる。これは、慎重さではなく“機会損失”と認識されます。

その瞬間、環境への評価は一気に変わります。結果として、「ここにいること自体が機会損失だ」と判断されてしまいます。


“突然辞める”のではなく、“準備している”

ここまでの話をすると、よくこう言われます。「ベトナム人は突然辞める」実際、現場で働いているとそう感じる場面も少なくありません。

このテーマについては、以前の記事でも触れているので、詳しく知りたい方はそちらも参考にしてみてください。

ただ、この捉え方は少しズレています。優秀な人ほど、突然辞めているわけではありません。むしろその逆で、かなり前から準備しています。

市場価値を把握し、他社の条件を調べ、選択肢を比較する。今の環境に違和感を持ち始めた時点で、すでに次の動きを考えています。

そして、条件が揃った瞬間に意思決定をする。そのスピードが速いだけです。

日本人から見ると“急”に見えるのは、その準備プロセスが外から見えていないからです。ここには、日本とベトナムの価値観の違いも影響しています。

日本では、退職はある程度時間をかけて検討し、周囲にも配慮しながら進めることが一般的です。一方でベトナムでは、キャリアはより個人の意思に基づいて判断されます。

より良い条件があれば、そこに移る。これは特別なことではなく、合理的な選択です。

だからこそ、意思決定も早い。そして優秀な人ほど、その判断に迷いがありません。

結果として、「突然辞めたように見える」だけなのです。


なぜ“優秀な人”から辞めていくのか

ここまでの内容を整理すると、答えはシンプルです。
優秀な人ほど、

  • 自分の市場価値を理解している

  • 評価に対する納得感を重視する

  • 成長のスピードに敏感である

  • 複数の選択肢を持っている

だからこそ、留まる理由がなくなった瞬間に動けるのです。

結果として、“動ける人から辞めていく構造”になります。

これは個人の問題ではありません。市場構造の問題です。


ではどうすればいいのか?

答えはシンプルです。「なぜこの評価なのか」を説明できること。

そして、成長ストーリーを描けていること。

半年後、1年後にどうなっているのか。どんなスキルが身につくのか。これを言語化し、伝え続けること。

そしてもう一つ。きちんと管理することです。

評価は、把握していなければできません。日々の行動、成果、課題。これを見ていない状態で、納得感のある評価はできません。

管理は、時に嫌がられます。それでも、長期的には、それが最も本人のためになります。適切に管理される環境こそ、正しく評価され、成長できる環境だからです。

どれだけ待遇を整えても、評価の理由が分からない。成長が見えない。この状態では、人は残りません。

納得と成長を、どれだけ具体的に提示できるか。

すべてはここにかかっています。


納得と成長を提示できる会社だけが、選ばれる時代になっています。

優秀な人材が辞めるのは、偶然ではありません。

構造の結果です。

だからこそ、向き合うべきは“個人”ではなく“仕組み”です。

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