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谷崎潤一郎の春琴カレー譚 〜noteに投稿するこじらせ文士たち

このシリーズは、文豪たちの実話や裏ネタをもとに、
もし彼らがnoteに投稿していたら……
そんな世界をフィクションとして描いています。


銀河の向こうに、不思議な渦巻きがあると言われています。
その渦を抜けた先には、
まだ世に出ぬ太宰や芥川その他大勢の文士らが、
noteで“スキ”の数に一喜一憂
しているもうひとつの世界がありました。

そう、ここはわたしたちが知らないパラレルワールドのnote界。
こじらせ文士たちの投稿が、今宵も静かに熱い火花を散らしています。

さあ、一緒に覗いてみませんか。


🪐パラレルワールドnoterファイル-2 谷崎潤一郎



谷崎潤一郎はマウスから手を離し、妻のふくらはぎを視線で追った。
艶やかな白い足が着物の裾から露わになり、愛猫がするりするりと絡みつく。
投稿直後、谷崎はマウスの固さを忘れるように猫のふかふか腹を愛撫した。
noteからスキのお知らせがけたたましいが、それもまた愉悦なり。


★本日の投稿note★


「卍CAT」プロフィール画面


春琴咖喱カリー

♡ 102
🐈‍⬛ 卍CAT
2025年6月17日 21:00

その女の味覚は異様に発達していた。
盲目であった春琴は咖喱カリーの香りを嗅ぐだけでその調合を言い当てるという稀有な能力に長けていた。
俊敏で早熟の上に盲目になった結果として第六感の神経が研ぎ澄まされていたことを思うと必ずしも突飛なことではない。

佐助は春琴の手曳きのみならず飲食起臥きが入浴上厠じょうし等日常生活の些事に亘って面倒を見なければならなかった。
春琴の昼餉には必ず咖喱カリーを一種用意するのだが佐助は咖喱カリー作りに於いて春琴の教えを請う弟子でもあった。
香辛料の加減は春琴の一声があるまで決して変えてはならぬ。
だがある日佐助は独断でシナモンを一振り多く入れたのである。

「佐助、わてそんなこと教せたか」
叱咤する春琴の仄白い頬がみるみる紅く染まり佐助は嗚咽とともに不思議な陶酔に喉を熱くした。

「あかん、あかん、味が整うまで夜通しかかったかてりや」
春琴は罵りながらばちをもって頭を殴る。

「阿呆、何で覚えられへんねん」

女だてらに男の弟子を打ったり殴ったりしたという春琴のごときは他に類が少ない。
この女には幾分嗜虐性の傾向があったのではないであろうか。
咖喱カリー修行に事寄せて一種変態な性欲的快味を享楽していたのではないであろうか。

(次章へ)


#創作大賞 #下男と女神 #文学好きと繋がりたい #芥川君、読め 


★「春琴咖喱カリー抄」 コメント欄★


🐦‍⬛【藪の中彷徨人】
嗅覚による調合の……奇譚としての完成度は高いが、やや耽美が過ぎる印象。だが嫌いではない。卍CAT氏よ、次章は佐助の心理描写を頼む。

🐱【親譲りの無鉄砲
卍CAT君は何故“変態”という言葉を堂々と用いるのだ。羞恥心はないのかね。いや、文学とはかくあるべし。見事な変態ぶりであった。

🧛🏻‍♂️【夜明け前の破戒】
まるで事実のような筆ではないか。卍CAT君が自然主義に転向したとは思えんが、佐助の罪と春琴の罰は私の筆でも描きたくなる‥‥いや無理だ。このような悪女を私は知らぬ。卍CAT君の描く女は美の幻想像である。羨ましいが女は社会の鏡であってこそ華。

🧑🏻‍🎤【詩人未満@sake】
次は俺を出してくれないだろうか。俺だってばちで殴られたい夜があるんだ!
今頃、太宰はジリジリ来てるだろうよ。あいつは「女生徒」なんちゃら……で創作大賞ガチ狙い。面白いことになってきましたぜ、卍CAT先生。今度、俺の詩集を送らせていただきます。


🪐解説編:  谷崎潤一郎


●谷崎作品の大きな魅力といえば、奔放で妖艶な悪女でしょうか。
ここ、もうひとつのnote世界で描かれている「春琴咖喱カリー抄」の春琴も、サディスティックな片鱗を見せています。

私たちが知っている『春琴抄』の春琴は、いわずもがなのサドっぷり。いや、佐助が自らの目を針でつぶす隷属的行為が凄まじいのですが、美しさと烈しさの中に流れる静謐さこそ谷崎文学の真骨頂。品格を失わない妖艶さなのです。

●谷崎は私生活でも自分の妻・千代を友人の佐藤春夫に譲るという「細君譲渡事件」(1930年)で世間をあっと言わせました。
谷崎好みでない貞淑で大人しい妻・千代を古本売却のごとく佐藤に譲るのですが、その後、谷崎は新たな結婚をし、千代と佐藤も相思相愛
谷崎は実生活でも倫理を超えた欲望を追求したのです。それで皆が幸せになったようですから、倫理とは何かを考えてしまいます。

🪐解説編:  コメント欄の文士たち


コメント欄の人物が誰だか、おわかりでしょうか。
アカウント名とコメント内容にヒントがあります。


🐦‍⬛【藪の中彷徨人】は……芥川龍之介
芥川と谷崎は、小説の話の筋を巡る文学論争を起こしています。
「趣向を凝らしたフィクションは芸術なのか」と谷崎作品への疑問を投げかける芥川に対し、谷崎は「話らしい話が文学の基本」と、物語構成の重要性を譲りません。ですが芥川のことは「ま、いいんじゃないの」くらい太っ腹な受け止め方でした。


🐱【親譲りの無鉄砲】は……夏目漱石
漱石も谷崎と同じ反自然主義の文学一派ですが、近代人のありよう、特にエゴイズム性を追求しています。漱石は自己内面の模索志向であり、谷崎は倫理を超越する陶酔性志向。どちらも極端な内面世界を描いていますが、まったく違う方向性で面白いですね。


🧛🏻‍♂️【夜明け前の破戒】は……島崎藤村
現実をありのままに自己告白や暴露を含み、欠陥ある人間の赤裸々な姿をさらけだす自然主義派の藤村。彼の『新生』や田山花袋の『蒲団』に見る赤裸々な告白は、世間を騒然とさせました。これに批判的な反自然主義派の谷崎は、文学は架空の物語であり、ことに官能美溢れる芸術性を追求する耽美世界にこだわりました。


🧑🏻‍🎤【詩人未満@sake】は……中原中也
多くの文筆家と交流のあった中也ですが、谷崎との交流は明らかにされていませんでした。ですが2022年、谷崎に宛てた中也の自筆謹呈本『山羊の歌』が見つかり、新発見資料として中原中也記念館に所蔵されています。


銀河の裏アカのような、もうひとつのnoteの世界

わたしたちが知っている歴史的事実とはちょっと違う、文士たちのこじれた投稿宇宙が展開しているようです。

次回は、前回から噂ばかりでコメント欄にも登場してこない、太宰治のnoteを見てみましょう。太宰も創作大賞の応募作は出し終えています。ですがこじらせ具合が相当ヒドそうなのです……。


それではまた。銀河の向こうで。


★パラレルワールドnoterファイル-1 宮沢賢治はこちらから↓



(欄外補足)

「春琴咖喱カリー抄」は、もうひとつのnote界の卍CATさんの投稿です。
谷崎潤一郎の「春琴抄」は青空文庫で読めます。
スマホやタブレットのアプリ「ソラリ」(無料)をダウンロードすると縦書きで読めます。

●記事中で登場した作品も青空文庫で読めます。




●参考文献
・「文豪どうかしてる 逸話集」紳士素丸著 KADOAKAWA
・「こじらせ文学史 文豪たちのコンプレックス」堀江宏樹著 ABCアーク
・「谷崎潤一郎 没後五十年、文学の奇蹟」 河出書房新社
・「文豪ナビ 谷崎潤一郎」 新潮文庫