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短編小説 | 短歌詠みの京子

教室の窓から見える東山が、朝日を浴びている。
「みんなで力を合わせれば、できないことはありません!」
担任の先生は、教壇で何かを熱弁していた。

おかっぱ頭の小学五年生・京子は、ポケットから取り出した小さなノートに鉛筆を走らせる。

『「みんなで」は だれのための 合言葉? わたしの気持ち ポケットの中』

きらめく感情を三十一文字で詠み、そして、相変わらず先生に叱られる。
「京子さん、短歌の授業は小学三年生。今は来週の、米寿お祝い訪問のアイデア出し!」。
分かっていても、短歌があふれ出てしまうのだ。

花見小路の提灯に明かりが灯るころ、夕食の席で母が言う。
「連絡アプリ、先生からメッセージ来てたで。またしょーもないこと言ったん?」。
こういう時、京子は食卓の上のおかずを箸でつまみながら、一首詠むのだ。

『正しいこと ばかりじゃ息がつまりそう からあげみたいに とがって生きたい』

母は呆れ、祖母は笑いながら言う。
「あんたは短歌を習った時から詠んでばっかり。短歌詠みの京子、やな」

ただ…隣のクラスにいる幼馴染・誠の前だけは勝手が違う。
「京子、まだ短歌書いとるん?」
誠に屈託のない笑顔で話しかけられるたび、いつも言葉が喉で止まった。

『本当は きみといっしょに 帰りたい 声にならない わたしの本心』

この短歌のページを開くたび、心臓がとくんと跳ねる。

ある日の放課後、一首詠もうとしたら…ポケットにノートがない!
清水坂を猛ダッシュして学校に戻ると、誠が学校玄関から出てきたところだった。

『落としたら 絶対だれかに 読まれるで 大事なことは 直接言うてや』

誠が照れくさそうに一首詠んだ。手には京子のノートが握られている。
京子は胸の奥がじんわり温かくなって、小さな声で返歌した。

『ポケットの 中にかくした この気持ち きみが見つけて くれてうれしい』

お寺の鐘の音が聴こえる校庭で、二人の影はほんの少しだけ近づいた。


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