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廃墟に惹かれて──100年前のハイラルと、ポンペイと僕|回生の旅路 #4

失われた営みの痕跡を見つけた時、かつて訪れたポンペイ遺跡の記憶が甦った。

『ブレス オブ ザ ワイルド』の世界でハイラルの平原を歩いていると廃墟があちこちにある。
崩れた門、草に覆われた村の跡、苔むした井戸──
廃墟まみれ…
気づけば僕は、そんな「まみれ of 廃墟」の世界に、どうしようもなく惹かれていた。


なぜ、こんなにも廃墟に心を引かれるんやろう。
そして、どうしてそこに暮らしていた人たちの姿を想像してしまうんやろう。

「ここには、確かに誰かがいた」
そう思うと、少し胸がきゅっとなる。
それはたぶん、うつの真っ只中で、世界の実感がまるごと抜け落ちていた時期に感じられなかった、“生の匂い”に似ていた。

そして──
また、あるひとつの旅の記憶が蘇った。


1|ピザと遺跡と、博士課程の週末

ポンペイ遺跡──イタリア南部、ナポリ近郊にある古代都市の跡地。
僕がそこを訪れたのは、うつ病になる1年ほど前のことだった。

当時の僕は、博士課程で共同研究のためにローマの研究所にしばしば滞在していた。
昼は実験、夜はレポートやデータ解析。
そんな日々を繰り返していたけれど、週末だけは完全オフにしていた。
ローマの観光地もひと通り回ってしまっていた頃、ふと思い立った。

「ナポリでピザ食べて、ついでにポンペイ行ってみよう」

観光目的というより、“やることない週末の延長”みたいなノリだった。
でも、ジョジョ第5部のファンとして、ナポリやポンペイという響きには不思議な親しみがあった。

ジョジョ5部『黄金の風』はナポリから始まる。
あの匂いや、街の音、黄金の風を自分の肌で感じてみたかった。


土曜の朝、ローマを出て、昼にはナポリに着いた。

ピザもうまかったけど、それより記憶に残ってるのは、ナポリの空気の重さだった。

観光通りを外れて裏道に入ると、
石畳はひび割れ、落書きだらけの壁、漂う緊張感。
ギャングの街。
──おお、ジョジョってるやん。


観光地というより、人が生き続けてきた場所。
そのリアルさに、ちょっと圧倒された。

その夜は早く寝て、次の日のポンペイに備えた。

今にもジョルノに引ったくられそうな空気感


2|ポンペイという“昨日”

次の日。ナポリから電車で40分ほど。
駅を降りて、人の流れに身を任せると、気づけば遺跡の入口に着いていた。

入ってまず驚いたのは、とにかく「広い」ということ。
ただの遺跡じゃない。町だった。完全に。

石畳の道、崩れかけた壁、屋台のような形の建物、焼き窯の跡。
中には今も、壁画やモザイクがそのまま残っている家もある。
保存のためにレプリカに置き換えられてるところも多いけれど、
それでも「ここに人が暮らしていた」という実感がすごかった。

食べて、寝て、恋をして。
喜んだり、怒ったり、愛したり。

当たり前の暮らしの一部が、2,000年前から、灰の中に閉じ込められていた。

町には、かつての売春宿も残っていた。
壁には、それらしき絵や案内がある。
──いつの時代も、人間は人間だ。

ポンペイの「まみれ of 廃墟」



ポンペイが滅んだのは西暦79年。
ヴェスヴィオ火山の噴火で、町は一夜で壊滅した。
でも、実は前兆となる地震が何度もあったらしい。

──それでも、彼らは町を離れなかった。
そこには、自分の暮らしがあったから。
生まれた場所で、当たり前のように、明日を迎えたかったから。

「まさか明日、すべてが消えるなんて」
──きっと、誰も思っていなかった。


火山灰が町を丸ごと包み、そのままの形で保存された。
だからこそ今、僕たちは2,000年前の「昨日」を、目にすることができる。

その“昨日”のなかには、
死の気配よりもずっと、生の気配が濃く残っていた。

厄災ヴェスヴィオ


3|ハイラルの地にも、暮らしがあった

『ブレス オブ ザ ワイルド』の世界に戻ろう。

リンクが100年の眠りから目覚めたとき
彼の周りには、「生活の跡」しか残っていなかった

焼け落ちた城下町。
苔むした研究所。
草に埋もれた集落の跡──


すべてが、まるで“昨日の光景”のように、そこにあった。
けれど、誰の姿もない。風の音と、鳥の声だけが、耳に残る。

ハイラルに転がる生活の跡


ポンペイと違って、ハイラルには「保存」の手が加えられていない。
火山灰ではなく、時間と雨風と魔物たちがすべてを削っていった。

けど、僕はそこに暮らしていた人たちの声を感じた。
誰かの夕飯の匂い、笑い声、叱る声、帰りを待つ背中──
リンクが歩くその足元には、そんな生活の記憶が、確かに転がっていた。

プレイヤーとしてリンクを操作しながら、
僕は何度も足を止めて、想像してしまう。

「ここには、誰が住んでいたんやろう?」
「この村の人たちは、最後まで、どんなふうに過ごしてたんやろう?」

ポンペイは火山灰に守られた“瞬間”の町。
一方、ハイラルは100年かけて静かに朽ちていった、“時間”の町。
どちらも、別の形で「昨日」を映している。


物語のなかで、リンクは過去の記憶を少しずつ取り戻していく。
失われた人々、かつての戦い、ゼルダや英傑たちとの時間──
でもそれと同じように、プレイヤーである僕たちもまた、
その世界に刻まれた「誰かの昨日」に触れているのかもしれない。


4|それでも、朝はくる

ポンペイも、ハイラルも、ただ突然に滅びたわけじゃない。
どちらにも、確かな“予兆”があった。

それでも人々は、そこを離れなかった。

生まれ育った土地。
名前を呼び合うご近所。
明日も変わらず続くと思っていた日常。

それを手放すのは、あまりにも恐ろしかったんやと思う。

予言通り現れた厄災ガノン


──僕たちの世界も、同じ。

日本では「南海トラフ地震」が、いつ起きてもおかしくないと言われてる。
SNSでは「2025年7月5日に何かが起こる」なんて都市伝説も流れている。
テレビのニュースでは、戦争や災害の予兆が、毎日のように流れてくる。

それでも、明日は来るって思ってる。
きっと、誰もがどこかでそう信じてる。



けどね。うつが一番しんどかった時期
僕は本気で願っていた。いや、今でもたまに思う。


「このまま全部、終わってくれたらいいのに」って。

朝、目が覚めたとき、世界がもうなかったら。
静かに、何もかもが終わっていたら。
そしたら、自分のこと、将来のこと、お金のことをもう考えなくてよくなるのに──って思ったこともある。

それでも、朝は普通にやってくる。
相変わらず、何も起こらずに。

だけど──その朝、スマホを手に取ると、noteに「スキ」がひとつ、ぽつんと増えてたりする。

それだけで、ほんの少しだけ、心が動く。

「もうちょっとだけ、頑張ってみたろかい」って。

たったひとつの“スキ”が、僕を今日につなぎとめてくれていたりする。


5|跡地に立つリンクと、僕

リンクは100年の眠りから目覚めて、
失われた仲間たち、焼けた城、草に埋もれた村
を巡っていく。
彼は黙ったまま、ただ歩き続ける。
かつての記憶を、少しずつ拾い上げながら。

でも僕は思うんねん。

記憶を取り戻したリンクはこの静けさを、どう受け止めていたんやろう?
誰もいない村、倒れた石碑、錆びたガーディアンの残骸。

その前でリンクは、何を思っていたんやろう?

リンクは無口な主人公やけど、
きっと心の中には、言葉にできない痛みや、
誰かの名を呼びたい気持ちがあったんじゃないかな。


ただ、それを誰にも伝えられない。
いや、伝える相手がもういない──

かつての仲間たち



そんなとき、僕はふと自分のことを思い出す。

暗い部屋で横たわっていたあの頃。
ベッドの上でぼーっとして、何日も過ぎていく時間。
誰にも声をかけず、誰からも声をかけられず、
でも確かに、僕はそこに“いた”。

今、自分が寝ているこのベッドの下にも、
誰かの跡地があるのかもしれない。

僕が今こうして書いている場所も、
もしかしたら、かつて誰かが泣いた場所だったかもしれない。

そう思うと、世界の見え方が少し変わる。

見慣れた風景のなかに、過去の気配が潜んでる気がしてくる。
乗り捨てられ自転車。
コンビニの前に落ちているレシート。
公園のベンチに残された落書き──
どれも、誰かが確かに「そこにいた」ことを教えてくれてる。

リンクも、きっと同じように思ってたんじゃないか。
「ここには、かつてあの人がいた」って。
「もう戻れない昨日が、確かにここにあった」って。



僕たちが生きているこの世界は、
たぶん、「まみれ of 跡地」なんやと思う。

喜びも、悲しみも、願いも、喪失も。
人が生きた証が、そこら中に転がってる。
それに気づくたびに、僕はなぜか少し、
生きててもいいんかなって思えるんよな。

──そして、こうして文章を書いてる今も。

もしかしたら、僕の明日は来ないかもしれない。
これを読んでくれているあなたの明日も来ないかもしれない。


それでも。

それでも僕は、「スキ」を待っている。

それは、あなたがそこにいた証。
あなたがこの僕の跡地に、足を止めてくれた証。

今日も、世界が終わらなかった証なんやと思う。



次回|回生の旅路 #5
ゲルド砂漠で、エジプトの砂漠の風を思い出した話です!乞うご期待🫶

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