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Vol.3 うめちゃんの訪問治療バッグ

〜訪問治療用のバッグに込められたうめちゃんと私の絆の物語〜


今回の夜話は、私が鍼灸師として駆け出しの頃の思い出の話です。

鍼灸の訪問治療を行っていた時に使っていた施術道具を運ぶためのバックとの大切な出会いの話をしたいと思います。

このバッグは私が訪問治療を始めた頃である22年前からの付き合いです。

【遡る事22年前】


私は当時、毎週とある場所の団地に住む「うめちゃん」という独居の高齢女性のお宅へ訪問治療に通っていました。

うめちゃんは、私が来る日をいつも楽しみに待っていてくれました。
玄関を開けると、満面の笑みでいつも「いらっしゃい」と言って出迎えてくださる優しいお方でした。

旦那様を数年前に亡くし、近くに親族もいない暮らしの中で、ヘルパーさんや私のような定期的に訪問してくる人と話す時間が、うめちゃんにとって小さな楽しみだったのかもしれません。


当時の私は、勤めていた会社の訪問治療院で初代院長に就任して間もないころで、まだまだ訪問治療という世界に飛び込んだばかりの新参者。

前例もなく相談する人もいない状況で。
どことなくぎこちなく自信もありませんでした。

治療が終わると、若気の至りか...ついうめちゃんに聞いてしまうのです。



「私の治療はどうでしたか」

「これからちゃんとやっていけますかね...」



今思えば、患者さんの前で不安な気持ちを吐露するなど、情けないと思っておりますが、けれども、うめちゃんはいつも決まって、優しく言ってくれました。


「あなたなら大丈夫よ。ちゃんとやっていけるわ。」


その言葉が、どれほど心強かったことか...。


通うようになって3か月目ぐらいが過ぎた頃。
私も訪問治療に慣れてきました。

うめちゃんともいろいろ生活上のことなどを何でも話すようになり、うめちゃんが朝風呂が大好きで、ほぼ毎日欠かさず入っているという事を知りました。

私は冬場は心臓に負担がかかるから気をつけてと何度か伝えましたが、
それでもうめちゃんは、子どもみたいに笑って言うのです。

「朝に入るとね、気持ちいいのよ。」

私はただ頷くしかありませんでした。

そして、ある日のこと。
うめちゃんがふと、私の手元を見て言いました。

「あなた、いつも道具をビニール袋に入れて来るのね。」

当時の私は、道具には無頓着で、しっかりした訪問バッグを持っておらず、買い物用の大きなビニール袋に治療道具を詰めて訪問していました。

うめちゃんは少し眉を下げ、杖をつきながら奥の部屋へ。

しばらくして、手押し車のようなキャスター付きの袋を、やっとの思いで運んできてくれました。

そして、底のキャスター部分を「ガコン」と外し、袋だけを私に差し出して、ひと言。

「これ、使いなさい。いっぱい入るから。」

青いチェック柄の、丈夫なバッグでした。

以来、私はその青いチェックのバッグと一緒に、うめちゃん宅へ訪問治療に出かけるようになりました。




けれども人生は静かに、そして突然に急展開を迎えました...。



ある曇天模様の日、いつものように伺うと、いるはずのうめちゃんの応答がない。

心配したヘルパーさんも駆けつけて、合鍵を預かっていた真向かいの部屋の方と一緒に室内を確認することになりました。
私も胸騒ぎを抱えたまま中へ入りました。


――うめちゃんは、静かにお風呂場の湯船の中で、すでに息を引き取っていました。



湯気のない浴室は、ひどく静かでした。
「朝は気持ちいいのよ」と笑っていた声が、ふっと遠のいた気がしました。

あのとき私が、もっと強く止めていたら。

もっと違う言葉を添えていたら。

そんな“たられば”が、胸の中を何度も巡りました。

駆けつけた警察官に何と答えたかも覚えていません。

苦しくて、切なくて。
正直、仕事を辞めようと思いました。

しかし、不思議なことに。
青いチェックのバッグを見るたびに、うめちゃんの言葉が浮かぶのです………………




“““               あなたなら大丈夫よ    ”””




まるで、うめちゃんが草葉の陰から声をかけてくれている様な不思議な体験でした。

それ以来、私は仕事を辞めずに、頂いたバッグを使いながら15年。

時には底に穴があいて、裏生地を当てて修繕しながらバッグを使い続けました。


修繕前


修繕後


外側の生地に穴が空いた時は、大きめのボタンで隠してみたりもしました。

なんだか顔みたいになって、思わず笑ってしまいましたが。
恐らく、うめちゃんも笑っている事でしょう。

「ほら、まだ使えるじゃない」

なんて言いながら。

巷には、きっとかっこいい訪問治療用バッグはあるかもしれませんが、私にとってこのバッグは若き日の苦労した修業時代を黙って一緒に歩いてくれた大事な相棒。

7年前から訪問治療は行っておりませんので、バッグを使うことはなくなりましたが、今でもうめちゃんがくれたバッグを近くにおいて、うめちゃんがくれた言葉に恥じない様にと思いながら施術に入っています。


今夜の夜話はここまで。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。

今回もハルさんのサムネ選手権に応募します!
サムネ選手権凄く盛り上がっています!
1人3回までの応募ですので今回が最後の応募作品になります。

今日も1日お疲れさまでした!
宜しければ私の大切な思い出話ですがシェア頂けたら嬉しいです…。
おやすみなさい。

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第三話もご覧いただきありがとうございました。
第四話は陰陽についてのお話です。

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